レポート

アジアを襲う気候危機 McKinsey Global Instituteのレポートより

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今年8月に、世界的なコンサルティング会社であるMcKinsey & Company, Inc.のシンクタンク部門「McKinsey Global Institute」が“Climate risk and response in Asia (アジアにおける気候リスクと対応)”と題するレポートを発表し、本コラムでも取り上げました。このレポートを深堀りする形で新たなレポートが11月24日に発表されましたのでご紹介したいと思います。

気候変動はアジアに大きな影響を与える

前回のレポートにおいては、2100年における温室効果ガスが最大排出量で推移すると仮定したシナリオ(RCP 8.5)に基づいてシミュレーションした場合、世界においてアジアが気候変動によるインパクトを最も大きく受けると指摘されていました。

RCPシナリオとは、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第5次評価報告書(2014年発表)において提示したもので、RCP8.5は、「このまま温暖化対策を行わずに温室効果ガスを排出し続けた場合」のシナリオであり、地球の平均気温が3.7℃上昇すると予測されています。下記図は、このシナリオのもとで見込まれるインパクトを定量的に表したものです。世界全体と比較してみると、アジアが占める割合が非常に大きいことが見て取れます。

レポートでは「Asia is on the frontline of a changing climate(アジアが気候変動の最前線にいる)」と書かれていますが、なぜアジアがこれほど大きいインパクトを受けるのでしょうか。そもそも人口が多いことに加えて、基礎的なインフラの整っていない途上国が多くあること、過酷な自然環境のエリアが多いこと、また海抜の低い場所に多くの人口を抱える大都市がある(インドネシアのジャカルタ、タイのバンコク、インドのコルカタ、バングラデシュのダッカ等)ことなどがその背景だと考えられます。

国ごとのリスク

次に、国別になされたリスク評価を見てみましょう。

レポートで”Frontier Asia”に区分された南アジアのバングラデシュ・インド・パキスタン及び”Emerging Asia”に区分された東南アジア8か国に関しては、気温上昇の影響が強く、河川洪水のリスクも非常に高いものになっています。人口が多く、発展途上国が多いこともこれに影響していると考えられます。日本は、気候区分が変わってしまうリスクが指摘されていますが、これは自然災害や新しい感染症(マラリアやデング熱)の増加という形で顕在化するかもしれません。中国は致死的な熱波のリスク及び気候区分が変化するリスクが高いと評価されていますが、国土が広大なため、地域を分け考えないと実像は見えてこないかもしれません。全体的に水の供給は問題が少なそうですが、オーストラリアは大きくリスクが高まることが予測されています。

アジアは日本から地理的に近く、消費市場として、また生産拠点や物流拠点の候補地として魅力がありますが、これらのリスクがあることを念頭に進出先の選定を進める必要があると思われます。

東京の洪水リスク

レポートでは、中でも東京の洪水リスクとオーストラリアにおける森林火災リスクの増大について特に取り上げられ、詳細分析がなされています。これもRCP8.5のケースですが、適応策・緩和策を取らない場合、不動産やインフラへの損害は、今日に比べて2倍以上に増大するとされています。

必要な方策は

このようなリスクに対し、政策立案者や企業経営者はどのように対応策を講じるべきでしょうか。レポートでは約50の適応策のケーススタディを行った上で、5つの方策を提案しています。

①リスクを分析する
まず、どのようなリスクがあるのかを評価し、理解しなければ適切な策を考えることはできません。マインドセットを新たにし、必要なツールや組織としての能力を見極め、最新の気候リスク評価モデルを使ってリスクを分析する必要があります。

②人々と資産を守る
分析したリスクに応じて、人々や物理的な資産を気候変動から守るため、インフラを補強したり、防護のために新たなハードウェアを設置したりすることが求められます。

③レジリエンスを高める
一極集中しているものを分散させたり、リソースを多様化させることでコミュニティのレジリエンスを高めることも大切です。中国の雲南省や広西チワン族自治区では、発展とともに頻繁に旱魃に襲われるようになったことを受け、新たに旱魃に強い種の農作物を導入することでレジリエンスを高めました。

④リスクにさらされることを減らす
レポートによると、50のケーススタディのうち、アジアではあまり行われていなかったのが「リスクにさらされることを減らす」というアクションです。例を挙げると、2019年にインドネシア政府が、水害リスクの非常に高いジャカルタから首都を移す決断をしましたが、このようにリスクへの露出自体を避けることも有効な方策です。

⑤財務的手当てと保険
アジア開発銀行の試算によると、気候変動リスクに対応するために、2030年まで400億USドル/年の投資が必要です。国や地方自治体による投資だけなく、行政と民間企業が協調することや、民間企業による投資を促すような政策の導入が求められます。また、保険による手当も重要です。アジアにおける、OECD加盟4か国中3か国及びすべてのOECD未加盟国は、OECD諸国の平均的な保険準備レベルに達していません。


温室効果ガスの抑制という意味で最悪のシナリオに沿ったものとは言え、世界的に影響力のあるマッキンゼーがこのような定量的なリスク評価レポートを発表したことは、各国の政策立案者や企業経営者に影響を与えるものと思われます。多発化・激甚化する自然災害や新型コロナウイルスの流行で我々の意識も大きく変わりつつありますが、アジアという気候危機最前線において我々日本人が果たすべき役割は大きいと考えます。

(根来 諭)
November 30, 2020

参考情報

Climate risk and response in Asia (McKinsey Global Institute)
https://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Business%20Functions/Sustainability/Our%20Insights/Climate%20risk%20and%20response%20in%20Asia/Climate-Risk-and-Response-in-Asia.pdf?shouldIndex=false


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