レポート

進化した衛星技術とAIが明らかにする違法漁業の実態

2020.07.30

テクノロジー
人工知能

2020年7月22日、アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science; AAAS）の国際学術誌「Science Advances」にひとつの研究結果が発表されました。

暴かれる違法漁業

「Illuminating Dark Fishing Fleets in North Korea (北朝鮮での違法漁業船団に光をあてる)」と題されたこの研究によると、日本・米国・オーストラリア・韓国の研究者が、異なるテクノロジーを組み合わせて、中国による大規模なIUU漁業（違法 Illegal / 無報告 Unreported / 無規制 Unregulatedの漁業）を明らかにしたとのこと。IUU漁業は、水産資源の管理を難しくすることで海の生態系を乱し、また、ルールを守って操業を行っている漁業関係者の生活を圧迫するとして世界的に問題となっていますが、公的なモニタリングシステムによって捉えきることが難しく、対策が課題となっています。特に日本・中国・北朝鮮・ロシアの間の海域は、政治的な緊張関係もあり、データの共有や管理に空隙があるため、状況の把握についてとりわけハードルが高い海域となっています。

研究結果によると、中国漁船は2017年に少なくとも約900隻、2018年には約700隻が北朝鮮の領海に入り込み、イカを大量捕獲していたとされます。当該期間の漁獲量は16万4000トン以上、金額換算では4億4千万ドル以上と推定されており、これは同期間の日本と韓国の漁獲量を併せたものにに匹敵します。日韓で近年イカの漁獲量が激減している理由として、中国によるIUU漁業が指摘されていましたが、間違いがなさそうです。

この研究において活用された技術やデータは、①映像の中から特定のものを識別する人工知能技術、②衛星から取得した高解像度光学画像、③衛星に搭載されたSAR (Synthetic Aperture Radar：合成開口レーダ)、④衛星に搭載されたVIIRS（Visible Infrared Imaging Radiometer Suite：可視赤外撮像機放射計）、⑤AIS (Automatic Identification System：船舶自動識別システム)のデータ。ひとつひとつの技術には限界があるものの、これらを組み合わせることによって今回の成果を得るに至ったと言えるでしょう。

（出典：画像を「Science Advances」のレポートから引用しスペクティ作成）

先進技術のコンビネーション

プロセスをより詳しく説明すると、まず調査対象地域で最も一般的な外来船の画像を韓国当局から入手し、これを人工知能に機械学習（①）させます。それを用いて、Planet Labs社のPlanetScope衛星によって撮影された3m解像度の衛星画像やSkySat衛星で撮影した0.72m解像度衛星画像（②）を解析することで外来船を特定しました。同時にSAR（合成開口レーダ）を用いて船のロケーションとサイズを確認します。SARは以前のスペクティによるコラムで解説しましたが、周波数の長い電波を使うことで雲を突き抜けて、海面の対象物を観測できるものです。さらに、イカの漁は光を使うことから、VIIRS（可視赤外撮像機放射計）を使用して夜間の動きについても捉えることに成功。それらのデータと、AIS（船舶自動識別装置）のデータを突き合せることで、船がどこから来ているものなのかを突き止めることができたわけです。AISとは、洋上を航行する船舶同士が、航行情報を相互に交換するための装置で、SOLAS条約によって対象船舶への搭載が義務化されているもの。義務に反して装置を搭載していない船舶が多かったようですが、一部搭載している船の動きを追うと中国の港から来ていることが確認されました。

海の上での事象を把握することはこれまで大変難しいものでしたが、これら発展した技術を複数組み合わせることによって詳しい漁業監視を可能にした今回の研究は非常に有意義なものと考えます。当然これらの技術を用いて陸上の動きをとらえることも可能であり、国家の安全保障や、企業や地方自治体の危機管理にも大いに活用できるアプローチなのではないでしょうか。

(根来諭)
July 30, 2020