従来のBCPは「サプライチェーンBCP」へ? ― 8つの質問で日産自動車の取組みを聞く―【2023年12月19日開催】

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防災・危機管理に関するソリューションを提供するスペクティでは、毎月様々なトピックを取り上げてWebセミナーを開催しています。2023年12月19日には『従来のBCPは「サプライチェーンBCP」へ?― 8つの質問で日産自動車の取組みを聞く―』と題して、BCPを抜本的に進化させなければならないという課題意識のもと、日産自動車株式会社 危機管理&セキュリティーオフィス室長の山梨慶太様をゲストにお迎えしてお話を伺いました。本レポートでは、その内容を抜粋してお届けいたします。

冒頭ではSpecteeの会社と事業の紹介をさせていただきました。2023年11月からは新たに、サプライチェーン・リスクマネジメントに特化したソリューションであるSpectee SCR(Spectee Supply Chain Resilience)のサービスを提供開始致しました。ご興味ありましたら是非お問い合わせください。

サービスHP:https://spectee.co.jp/service/specteescr/

前提としての課題認識

現在、自然災害の多発、新型コロナウイルスをはじめとした感染症の流行、米中対立を軸に高まり続ける地政学リスク、そして物流危機の問題など、事業に対するリスクが非常に高まってきています。特に東日本大震災後、企業はBCPの策定を進めることでそうした危機に対する備えを進めてきましたが、これからは3つの領域で従来のBCPを拡張し、「サプライチェーンBCP」に進化させなければいけないのではないでしょうか。

カバー範囲
自社+αをカバーするだけではなく、サプライヤーや取引先を含めたサプライチェーン全体をカバーする必要がある。

可視化対象
これまでは企業ごとにつながりや状況の可視化を進めてきましたが、本来は品目ごとに可視化できなければ、危機事象の発生時に影響範囲を迅速に把握することはできません。

想定リスク
これまでは地震・台風、そして新たに感染症を想定してBCPを策定することが主流でしたが、地政学リスクも含めた多様なリスクを想定する必要があります。

8つの質問

山梨(日産): 明らかに世界中で災害が激甚化していると、皆さんも感じているのでないでしょうか。ここ数年は、過去10年で起きた災害が1~2年内で起きているように思えます。我々はグローバルに事業を展開してものづくりをしているので、今後は海外との拠点との連携もしていかなければならないと思っています。その中で、東日本大震災や熊本地震で得た教訓を、どう伝承していけるかということを考えています。

根来(Spectee): 災害の中でも水害を一番の大きな問題と見ているのでしょうか?

山梨: 突発的な災害であるがどれくらいのリスクがあるのか明確に示されているもの、また、水害のように進行型の災害などは対応がしやすいと言えますが、火山噴火については被害想定はあるものの地震のような発生確率等の詳細なものは無く、どこまでやればいいのかについて頭を悩ませています。しかしとにかく「人の命を守る」ということを念頭に置いており、社内的にもどこまでやるか、どれだけのリソースを割くべきかについてコンセンサスをとっていきたいと考えています。

 

山梨: 国家間の紛争や国家とテロ組織の紛争などを想定していますが、それらが自然災害と異なるのはなかなか予測することが難しいということです。しかし、トリガーとなるような事象はそのかなり前から起きているので、その変遷をモニタリングしていれば、何か手を打たなければならないというタイミングをつかまえられるのではないかと考えており、そうしたモニタリングを開始しようとしています。経済安全保障リスクについては、それ専門の部署があるわけではなく、自部署である危機管理&セキュリティーオフィス室や経営企画、その他関連部署がクロスファンクショナルにあたっています。情報収集についてはリスクコンサルタントや専門家だけに頼るべきではないと思います。オールラウンドに情報収集できている人はいないので、それぞれの強みを取り入れさせていただきつつ、自社で情報収集すべきだと考えます。

根来: 様々な部署で情報を集めているということですが、それを持ちよる会議体などはあるのでしょうか?

山梨: 2か月に1度、危機管理委員会という会議を開催して、リスク管理に関連する部署のマネジメントが集まって情報共有したり、ワークショップを行ったりしており、有事の際に集まるべきメンバーで”練習試合”をやるような取り組みをしています。

 

根来: パンデミックよってモノの供給が止まるということももちろん問題ですが、家ごもり消費や衛生用品の必要性の高まりによって、需要側が急変動するということを経験しました。これに対して何か手を打っていることはありますでしょうか?

山梨: 我々は「災害操業リスク」、つまり操業を脅かす緊急事態を対象にしているため、地政学リスクについても主体が定まっておらず、最近注目をし始めたという経緯があります。需要の変動インパクトについては、私の部署では今見ていません。ただ、供給を含めて言えるのは、輸出入が多いとダメージが非常に大きいので、地産地消でダメージを最小化するなど、サプライチェーン一体となって需要の変動に備えることをしなければいけないと考えています。A地域で駄目であればB地域で作る、などの方策はありますが、取引先にそういったことをお願いするのは大変なことなので、マーケットを見ながらより繊細に対応していかなればならないと思います。

 

山梨: 他社を巻き込んでいくことはなかなかうまくできていませんでしたが、関東大震災から100年にあたる2023年9月1日に一次サプライヤーさんを本社に招いて、セミナーを開催しました。その中で、日産のBCPはまだまだできていない、ということをストレートにお伝えした上で、「一緒にやっていきましょう」というメッセージを打ち出しました。そして、南海トラフ地震や首都直下地震などの大地震がこれから起こることは間違いないという想定のもと、死者・重傷者を出さないという目標値を共有しました。また、BCPをどう進めればいいかわからないということであれば、声をかけてほしいとお伝えしました。日産は、BCPの悩みに対して相談に乗り、現場をみて一緒に改善する専門チームを持っています。これからBCP推進を加速していきたいと思っています。

BCPにおけるキーワードは「底上げ」だと考えています。自動車のサプライチェーンは広くて深いため、素晴らしい対策ができているサプライヤーが少数いたとしても、どこかが止まってしまうとサプライチェーン全体に影響が出てしまいます。そうした意味で、全体的に底上げをするということが非常に大切だと考えています。

何の為にBCPをやるのかについては、被害を最小化することと、代替手段をきちんと持ってもらうこと、サプライチェーンを見える化することだと思います。QCDだけではなく、BCPが供給が寸断した時にきちんと対応できるかどうかを発注条件にしています。

根来: そうした取り組みは、調達部門と協力して当たっているのでしょうか?

山梨: 調達部門・開発部門・製造部門を日産ではものづくり3部門と呼び、これらが連携して対応しています。私の部署はその動きを俯瞰してしっかりと見ています。先ほど触れた危機管理委員会のなかで、復旧対応にサプライヤーを訪れた際のケースを紹介してもらうなど、様々な情報の共有をしてもらっています。

根来: 品目ごとの影響の把握はどのように取り組まれていますでしょうか?

山梨: 3.11の時に色々な部品が入ってこなくなり、その影響でどの車が作れないかを把握するのが大変だった反省から、サプライチェーンの見える化データベースを構築してきました。ただ、全ての部品・材料を見える化できているかというとそんなことはなく、どうしても優先順位をつけて取り組まざるを得ません。例えばそこに発注をお願いするしかないシングルソースの部品やレアアースなど希少材などの優先度が高くなります。

根来: 物流危機に対して自動車メーカーとしてどのように考えていますでしょうか?

山梨: 物流の混乱は日常茶飯事で、物流部門が詳細にモニタリングしています。グローバルで言うと、コロナのロックダウンに関する情報がもう少し早く入れば、手を打つことができただろうという反省があります。また、パレスチナ情勢に関しては、イスラエルで貨物船が人質にされるというケースが発生しました。物流と地政学リスクは密接に関連していることを認識し、モニタリングするようにしています。


(要約:根来 諭)
January 31, 2024

 

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