「火山本部」設置:期待される火山防災能力の向上

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日本国内の火山の観測や調査研究を一元的に推進するための組織、「火山調査研究推進本部(火山本部)」が今年4月1日、文部科学省に設置されました。火山の観測計画策定や予算確保、火山に関する政策の立案、測量による調査、大学や研究機関を含めた連携強化などを行う「火山防災の司令塔」の働きを担います。これは、1995年に発生した阪神・淡路大震災 を機に設立された「地震調査研究推進本部(地震本部)」の兄弟版と言えます。日本は111もの活火山を抱える火山大国(世界に1,500ある活火山の7%に相当)ですが、これまでは気象庁や大学などがそれぞれ観測や研究を行っており、その成果を気象庁の諮問機関である「火山噴火予知連絡会」がまとめる形でした。そうした研究成果や観測データなどをより一元的にまとめあげ、火山防災に関わる課題を解決する役割を担います。

火山災害と言って思い出されるのが2014年に発生した御嶽山の噴火です。御嶽山では当時火山性地震が増加していたものの、その他の情報も考え合わせて、噴火警戒レベルは5段階あるうち最も低い「1(平常)」のまま推移していました。しかし9月27日11時52分に突如噴火。水蒸気爆発で1km程度の範囲に大きな噴石が飛散し、死者58名・行方不明者5名・負傷者61名という戦後最悪の火山災害となってしまいました。噴火警戒レベルの運用以前に、正確性を増している気象予測に比べて、火山噴火の科学的な予測技術がまだまだ完成にほど遠いことが浮き彫りとなりました。さらに近年では、市街地近くで富士山の新しい火口が見つかったり、鹿児島県・桜島で大規模噴火の可能性が指摘されたりという形で、火山防災に対する注目度が高まっています。火山本部のリードで火山噴火に対する防災能力の向上が実現されることが期待されます。

では具体的にはどのような進歩が求められるでしょうか?現在、文部科学省の元で進められている「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」では下記の4つの課題が掲げられています。

◆各種観測データの一元化
防災やそれにかかわる研究は、非常に多くの人や組織によって成り立つものです。大学や研究者、自治体だけではなく、防災機関や民間企業も一元化されたデータを活用できる環境を整えることが重要です。現在、JVDN システムと呼ばれる火山観測データ一元化共有システムの開発と運用が進められています。

◆火山噴火の観測技術の開発
火山噴火の予測をするためには、正確に事象を観測することが前提となります。高エネルギー物理学に基づく火山透過技術、人工衛星を使ったリモートセンシングによる観測、火山ガスの観測技術などが進化することで、これまで把握できなかった噴火の予兆をつかまえることができるかもしれません。

◆火山噴火の予測技術の開発
観測した事象を基に、噴火のタイミングを予測することができれば被害を大幅に減らすことができます。これには、噴火履歴の解明や噴出物の分析をもとに、数値シミュレーションの精度を向上させるというアプローチが取られています。

◆火山災害対策技術の開発
噴火を予測できたとしても、発災時に適切に住民に情報提供をしたり、避難誘導をしたりする体制の構築は不可欠です。様々な分野で活用が進むドローンによる火山の状況把握手法や、降灰範囲のシミュレーション予測技術などが開発される必要があります。スペクティの提供するSpectee Proも、情報プラットフォームとしてこの分野で貢献できるのではと考えています。


火山噴火は地震と比較して発生も少なく、日本では火山大国でありながらも研究者が不足していると言われます。現在常時監視対象となっている活火山は50ありますが、ひとつの監視対象火山あたりほぼ1人に留まるとされています。しかし、AIを含む様々な先進技術が進化を見せる中、観測技術・予測技術が向上していくことで火山の研究はより面白く、貢献度の高い分野になっていくのではないでしょうか。

スペクティでは、フィリピンにおける事業立上げのフィージビリティ・スタディを目的として、2022年12月にフィリピン東部・マヨン火山を訪問しました。そこにはPHIVOLCS(火山地震研究所)が運営する観測所があるのですが、ここで働くポール・カーソン氏は鹿児島大学で火山について学んだ経歴を持ち、「日本の火山研究は素晴らしい。また学びに行きたい」とおっしゃっていました。それを聞いて誇らしく感じたのを思い出します。世界には多くの火山があり、引き続き人間にとっての脅威であり続けるでしょう(温泉を楽しめるとう恩恵もありますが!)。火山防災の世界を日本が引っ張っていけるように、スペクティもその一助になれればと考えています。

(根来 諭)
May 15, 2024


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