【SFX 】スタートアップが取り組むサプライチェーン改革【2023年12月8日開催】
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サプライチェーンを取り巻く経営課題が増加している近年、最新のアイデアや技術をもとに、サプライチェーンの領域でイノベーションを起こそうとするスタートアップの存在に注目が集まっています。
本セッションでは、早稲田大学 名誉教授の内田和成氏、デジタルフォワーディングに取り組むShippio代表の佐藤孝徳氏、サプライチェーンにおけるリスクの可視化に取り組むSpectee代表村上建治郎が、スタートアップによる未来のサプライチェーンマネジメントについて議論します。
【登壇者プロフィール】
・内田 和成 早稲田大学 名誉教授
東京大学工学部卒業後、日本航空入社。在職中に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。同社のパートナー、シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000 年から2004年までBCG 日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント、トップ25人」に選出。 2006年早稲田大学教授に就任。現在東京女子大学特別客員教授。
著書に『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(東洋経済新報社)など多数。累計50万部以上。
・佐藤 孝徳 株式会社Shippio 代表取締役CEO
新卒で三井物産に入社。原油マーケティング・トレーディング・オペレーション業務、企業投資部でスタートアップ投資業務などを経て、中国総代表室(北京)で中国戦略全般の企画・推進に携わる。2016年6月、国際物流のスタートアップとしてShippioを創業。国際物流領域のデジタル化を推進、業界のアップデートに取り組んでいる。
・村上 建治郎 株式会社Spectee 代表取締役 CEO
ソニー子会社にてデジタルコンテンツの事業開発を担当。その後、米バイオテック企業にて日本向けマーケティングに従事、2007年から米IT企業シスコシステムズにてパートナー・ビジネス・ディベロップメントなどを経験。 2011年に発生した東日本大震災で災害ボランティアを続ける中、被災地からの情報共有の脆弱性を実感し、被災地の情報をリアルタイムに伝える情報解析サービスの開発を目指し株式会社Specteeを創業。著書に「AI防災革命」(幻冬舎)
◆物流の見える化が重要
佐藤氏
私たちは大きな転換点に来ていると考えています。その背景には3つの要素があります。まず1つ目は人手不足です。全体的に労働人口が減少している中で、特に物流業界の人手不足は深刻です。2つ目は「2024年問題」で、社会全体の労務に関する制度や考え方が変化してきていることです。3つ目は、過去5年間でBtoBビジネスの現場にITやクラウドによる情報のプラットフォーム化など、ソフトウェアエンジニアリングが取り入れられる動きがあることです。私たちもこれらの課題を認識し、積極的に取り組んでいます。
内田氏
物流業界は、各社が自社の物流を効率化し、付加価値を最大化しようとした結果、パンクした状態に陥っているとも考えられます。
村上
競合関係にある各社が、効率化を図るために上手く連携した事例はありますか?
内田氏
物流をビジネスのコアとして考える人たちは、サービスを差別化し、利益を出さなければなりません。しかし、物流はあくまでサプライチェーンの一部であり、手段であるので、物流そのものの見える化が非常に重要です。
「2024年問題」の解決を目的に、人的リソースをロボットやAIで置き換えたり、配送回数を減らすというアプローチは必要ではありますが、そればかりに注力するのは少し方向性が違うかもしれません。
村上
物流の見える化は、まさにShippioが取り組んでいることの1つだと思いますが、何か各社で取り組んでいることはありますか?
佐藤氏
国際物流は非常にアナログな世界で、多くのやり取りが電話、FAX、メールに頼っています。元々構造化されていなかったデータを、まずはデータの形で提供できるようにすることが、私たちが現在取り組んでいる課題です。物流DX化は、各社の中期経営計画で掲げられていますが、具体的にどのように進めていくかを詰めている企業はまだ少ないです。
◆スタートアップならではの可能性とは?
内田氏
大企業の人たちは効率化を考えつつも、自分たちの現状のプロセスや方法を守りたいと考えています。その結果、話し合いの中で標準化することになることが多いですが、それは大変で時間もかかります。そういうときに、スタートアップが全く新しいアイデア・新しいやり方を提案することが重要だと思います。
村上
お客様の既存のプロセスがあるので、なかなか新しいサービスを活用することはハードルが高いように感じます。佐藤さんはどのように対応していますか?
佐藤氏
やはり、実際にサービスを使っている方々に話していただくのが一番効果的だと思いますので、業界全体を巻き込んで「みんなで変えていきましょう」という雰囲気を作り出すことを心がけています。
村上
Specteeも約2年前から物流業界に積極的にアプローチしていますが、やはり外から入ってくるという”よそ者”感があります。その理由としては、長い間存在している企業が多く、運送会社間の密なつながりがあるからです。この壁をどうやって突破していくか、私たちは常に考えています。
内田氏
村上さんの今のお話には、2つの視点があります。1つ目は、大企業や保守的な考え方を持つ人々はなかなか変わらないという前提で、変えられる部分から進めていくという、一点突破的なアプローチ。もう1つの視点は、大企業ほど何かトラブルが起きたときに困るため、そのような時に「このサービスを使えば助かる」という事例を積み重ねていくアプローチです。特に村上さんが展開しているリスクマネジメントの領域では、後者のアプローチが効果的だと私は思います。
村上
確かに、過去に問題を経験した会社は、次に同じことが起こらないようにという意識が強いので、新しい提案に対しては積極的に耳を傾けます。しかし、これまで特に問題を経験していない会社では、既存のプロセスに新しい要素を導入することに対して抵抗感を持つことが多いですね。ただ、この業界では影響力のある企業が新しいものを取り入れると、他の企業もスムーズにそれに続くことがよくあります。
内田氏
例えば、かつてはメガバンクのトップであった富士銀行のような銀行を取引先とすることで、その信用力が他の企業にも伝わるという効果がありました。また、リスクマネージメント部門が既存の方法を変えることに対して抵抗感を持つ場合、上層部から指示するなど、その部門に対して発言力のある立場から伝えることも効果的だと思います。
佐藤氏
大企業が全ての問題に個別に対応するのはなかなか難しいと思います。BtoB SaaSのスタートアップの存在意義は、皆さんに代わって投資を受け、一点突破で開発を進めることです。その結果、皆さんには標準化した形で安価にサービスをご利用頂くことが可能となり、私たちは投資の回収を行います。大企業の皆さんにとっても、これは課題解決に取り組むための手軽でコスト効率の良い方法となると考えています。
村上
大企業は元々、こういったシステムを自社で構築していたのでしょうか?
佐藤氏
先進的な会社ではそれが実現していますが、まだそこまで進んでいないところでは、10年ほど使い続けられてきた秘伝のタレのような独自のエクセルシートなどが出てきます。そのような場合、業務が人依存になっている印象を受けます。
内田氏
経営学の世界ではコア業務は自前で行い、ノンコア業務は外部に委託することが一般的です。しかし、日本の企業の場合、何がコアで何がノンコアかを明確に区別していないケースが多いです。ノンコア業務についてはプロに任せるべきだという考え方は徐々に浸透してはいますが、それは非常にゆっくりとした速度で進んでいます。この速度では、変化の激しい時代に異業種との競争・協業が必要な時代に対応できず、自前主義に固執していると、気がついた時には時代遅れになってしまうのではないかと私は懸念しています。
村上
その点、SaaSはすぐに使えるので非常に便利ですよね。多くの企業が自社で調達システムを作っており、その中には10年前に作られたものが今も使われているケースもあります。そういったシステムをリプレースするとなると、再度大きな投資をして作り直さなければなりません。しかし、SaaSであればすぐに使い始めることができますし、システムは常にアップデートされ続けます。
◆大企業に求められる変化とは?
内田氏
メガバンクや大企業ほど自前のシステムを持ちたがる傾向があります。効率化やコスト削減は重要ですが、それだけを訴え続けるのは古いやり方だと思います。日本企業はコストではなく付加価値で勝負するために、ギアチェンジする必要があります。そのためには、他人に任せても問題ないものは、効率を追求し、依存しても良いと考えています。その代わり、自社が付加価値を提供できる分野で勝負し、そこに経営資源を投入すべきだというのが、私が常日頃から言っていることです。
村上
ギアチェンジをさせる側として、独自のエクセルシートで管理していたものをアップグレードするためには、どのような手段がありますか?
佐藤氏
物流が経営課題として認識されていない場合、経営陣にDXの必要性や自前では対処できない問題を理解してもらうことが難しいと思います。特に物流業界は、基本的に新しい挑戦をする業界ではありません。そこで、経営陣からのトップダウンのアプローチと、現場の理解を得ながら進めるボトムアップのアプローチ、両方をうまく押し進めていく必要があります。
内田氏
そのようなギアチェンジは、トップダウンのアプローチが重要だと私は考えています。例えば、アパレル業界のユニクロとしまむらでは、在庫に対する考え方が異なります。ユニクロの店舗では、同じサイズ、同じ色の商品が山のように積まれている一方、しまむらは在庫を悪と考えています。つまり、ユニクロとしまむらでは、物流に対する要求が異なります。それぞれが求める物流の要件や制度は何か、それにはどれほどのコストや人手がかかるのかを組み合わせて考えることが、これからの経営にとって大切だと思います。
内田氏
企業側には、顧客を選別する視点も必要です。今までのように全ての顧客に同じサービスレベルを提供すると、当然、最も要求が厳しい顧客に合わせることになり、それにはコストがかかります。そのため、どの顧客にどのレベルのサービスを提供するかの見極めが非常に重要になってきていると思います。
佐藤氏
物流の難しさは、例えば、トラックやドレーなどの車両が高速道路を使う際に、顧客に電話をして許可を得る必要があるといった手間がまだ存在することです。顧客としてはコストを抑えてほしいと思う一方で、時間通りに商品が届かなければ、会社として運営が難しくなります。これから先は、プレミアムなサービスが求められると思います。求められるサービスレベルは非常に高く、このままでは続かないということをしっかりと伝えながら、価格や仕組みを導入していくことが重要だと思います。
村上
今後は企業側が必要なサービスレベルを吟味し、使い分ける必要があるということでしょうか?
内田氏
BtoCの場合、顧客がサービスのグレードを選ぶことは当たり前のようになっています。BtoBでも、昔ながらの高いスタンダードを維持して、それにかかる余分なコストは企業努力で賄わなければならないという考え方は、もはや無理だと思います。荷主側がそれを理解し、フォワーダーや運送業者等も「これ以上のサービスにはプレミアム料金が必要です」というスタンスを取るべきだと思います。
佐藤氏
大企業にはもちろん様々なノウハウがあると思いますが、スタートアップが行っていることを各大企業が自前で全部やろうとすると、途方もないコストがかかると思います。その意味では、スタートアップが集中して作り出したものを皆さんが安価に使うことで業界が変わっていくのは、良いことだと思います。
内田氏
大企業がスタートアップと上手く協働していくためには、まず「全てを自前でやるのは無理だ」ということを理解することが必要です。自社のコア業務とノンコア業務を明確に切り分け、ノンコア業務については可能な限り外部の資源や共有資源を活用するべきです。また、自社のサービスレベルに見合った価格戦略を立て、顧客に選んでもらうようにすることも重要です。どの会社と提携するかということよりも、まずは自社のマインドセットを変えることが大切です。そして、その変化を行わなければ生き残れないという危機意識を持つことが求められます。
(要約:門脇 紳修)
Jul 16, 2024
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