【SFX 】経営と現場をつなぐ調達戦略DX 〜不確実性時代のグローバルマネージメントのあり方〜【2023年12月8日開催】

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デジタル技術の急速な進化や災害・地政学的リスクの増加など、不確実性の時代と呼ばれる近年、企業のサプライチェーンにおける「調達」活動には、ますます多くの要素が求められるようになっています。
本セッションでは、企業のサプライチェーンにおける事業戦略のスペシャリストであるローランド・ベルガー小野塚征志氏、戦略調達ソリューションを展開する東芝デジタルソリューションズの瀬戸口達也氏、Specteeのビジネス本部長の野口大輔が、これからの時代の戦略調達DXの本質や課題、解決方法について議論します。

【登壇者プロフィール】

・小野塚 征志  ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、DX戦略の策定、リスクマネジメントの強化などを通じてビジネスモデルの革新を支援。経済産業省「フィジカルインターネット実現会議」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員などを歴任。近著に、『DXビジネスモデル』(インプレス)、『サプライウェブ』(日経BP)、『ロジスティクス4.0』(日本経済新聞出版社)など。

・瀬戸口 達也 東芝デジタルソリューションズ株式会社 エキスパート
東芝にてお客様向けシステムインテグレーション・戦略コンサルテーションを担当。その後2000年より調達部門向けASPサービスの事業企画を担当、2011年より東芝の調達業務の情報戦略プロジェクトに参画、東日本大震災の教訓を元にした調達BCP対策およびサプライチェーン整備のIT化に従事。2012年よりサプライヤとのコミュニケーション強化に繋がるソリューション、戦略調達ソリューションMeister SRMの商品企画 ブランドマネージャに就任。

・野口 大輔 株式会社Spectee ビジネス本部 本部長
日系のシステム開発会社、米系ITベンダにて大手金融機関や通信会社のシステム開発に従事、2007年から米IT企業シスコシステムズにてサービス・セールス、セキュリティ・セールス、新規事業開発を担当。米系セキュリティベンダを経てSpecteeに参画。サプライチェーン強靭化に関する新規事業開発を担当。

◆不確実性の時代 経営や現場の課題は

野口
不確実性の時代に突入し、リスクが企業の経営活動にどのような影響を及ぼすのか見通すことが難しくなっています。そういった中で、現在、調達の現場ではどのような課題が出てきているのでしょうか。
瀬戸口氏
一言でいうと、自然災害や地政学リスク、経済リスク、社会リスクなど、リスクが多様化しているということです。調達部門では大きく3つの課題を持っていると思っています。
1つ目は『サプライチェーンの寸断』、2つ目は『原材料価格の高騰』、3つ目は『新たな社会価値(カーボンニュートラル、ESG、CSR)に向けた取り組みをしなくてはならない』ということです。調達部門はそれらの動向によって施策や戦略を柔軟に変えていかないといけないという声を多く聞きます。そのためにDXが必要となり、弊社にお声がけいただいている状況です。
野口
経営目線でも、サプライチェーンのリスク管理は課題感を持って取り組んでいるように見受けられますが、いかがでしょうか。
小野塚氏
コロナ禍以降、リスク対応の意識が高まった中で、統合報告書に記載したり、実際に取り組みを進めたりしていると思いますが、日本企業ではどうしても『個別最適』の傾向が見受けられます。
例えば、工場では耐震補強や調達先の分散を進めつつも、販売や物流においては個別の対策が進められており、全体的なリスクマネジメントやコスト効率の観点から見れば、適切な意思決定がなされていない企業が多いと考えます。その結果、リスクマネジメントにお金をかけすぎていたり、本来対策が必要な箇所が見逃されてしまったりするように思います。
野口
できていない会社は、どのような課題があって判断が難しい状況なのでしょうか。
小野塚氏
日本の場合は経営力の問題、あるいは現場を十分に理解した上で、経営としての全体最適や意思決定を行う力が弱いと考えます。例を挙げると、日本では『CSCO(Chief Supply Chain Officer)』や、『Chief Logistics Officer(CLO)』といった役職が存在する会社は少ないですよね。SCM室長や物流部長はいますが、部署の管理にとどまり、サプライチェーン全体をマネジメントできているかというと、できていない会社のほうが多い。これがまさに、経営課題だと思います。

◆ROIや全体最適を考慮し課題を解決するための3つの軸とは

野口
そうはいっても、たまにしか起きないリスク事象に対してROI(投資対効果)をどう計算したら良いのかという課題もよく聞きます。このあたりについての解決策についてはいかがでしょうか。
小野塚氏
ぜひ、全体最適の視点に基づいた3つの軸でお考えいただきたいと思います。
まず第一の軸は、調達、生産、営業、物流など、各プロセスごとに最適化するのではなく、経営層の皆さんがしっかりと全体を見渡してくださいということ。
第二の軸は、未来の展望についてのお話です。日本の企業は「今」に集中して最適化を試み、現状の課題をとにかく潰そうと考えてしまう傾向にあります。こうした対応は一時しのぎになってしまいがちです。もし、100年に1度の地震が発生し、その被害額が100億円だったとしたら、年間1億円のリスクがあると考えてもいいはずですよね。すなわち、10年先や20年先を見越して、長期的な視点でどのように最適化すればよいのか、ROIを考慮する必要があると思います。
第三の軸は、リスクマネジメントや物流を含め、自社内でのリスクヘッジに留まらず、他社も含めたヘッジが行えれば、より合理的な解が見つかる可能性があるということです。例えば、家電製品においては他の家電メーカーとの連携によって、効率化が図れるかもしれません。各業界ごとに最適化する方が合理的かつリスクヘッジができることもあると言えます。
野口
将来を見据えたときに、サプライチェーン=業界ごとの『つながり』はどういう方向性に行くのがよいのでしょうか
小野塚氏
現在、サプライチェーンは大きな変革期にあります。従来は特定の業界に閉じて生産し、流通させるのが一般的でしたが、この状況が急速に変化しています。このような時代においては、東芝さんが開発しているようなデジタルプラットフォームや、Specteeさんが提供しているようなツールを上手く活用し、適切な調達先や販売先を見つけ、全体としてリスクを最適化することが重要です。ある意味で、これを考慮しない限り、勝ち残れない時代がやってきつつあるんじゃないかなと思います。
瀬戸口氏
おっしゃる通り、業界の垣根を超えて全体を最適化し、サプライチェーンの中でコミュニケーションをどんどん図っていくべきだと思います。サプライチェーンを阻害するリスク事象が起きた際、1次サプライヤーは、情報をまとめてバイヤーに報告しなくてはいけません。2次・3次サプライヤーなど複数の会社とコミュニケーションをとって情報をまとめる作業が非常に大変だという声をよく聞きます。そういった多重業務をいかに排除し、業界全体でコミュニケーションを円滑かつ効率的に行うことを目指して我々はサービスを開発・提供しています。

◆人材の評価と企業価値を高めるサプライチェーン

野口
サプライチェーンの全体最適を進めていくにあたってはCSCOのような人をたてて戦略的にやっていくべきというお話がありました。今後は、そのような人材を育成したり、コストをかけて採用したりすることも必要ですが、実際にCSCOを目指したいと話している方や明確なキャリアパスはあるのでしょうか?
瀬戸口氏
CSCOになりたいと直接語る方はなかなか見ませんが、熱意を持ってサプライチェーンを改善したいと話す調達部門の方は多いです。「災害時しか使わないからROIが通らないのであれば、サプライチェーン情報にコスト情報やCSR情報を一緒に入れることによって、リスク対策だけではないサプライチェーン全体の最適化を目指したい」とおっしゃるお客様もいます。
経営目線でそのような方が評価されるのも大事ですし、サプライヤーとのパワーバランスという部分で、サプライヤーやサプライチェーンの評価を行っていくということもサプライチェーン全体の強靭化に向かうのではと思いますね。
野口
今後はますますサプライチェーンをBCPの観点だけではなくて、CSRの観点でも情報を整理して管理していくことが求められるのではと思います。経営目線として長期で企業価値を見ていく中で、サプライチェーンはどう評価されるべきなのでしょうか
小野塚氏
きちんとそのような部分に投資をしないと、何かあったときにリスクが発現するだけではなく、取引先が増えにくくなったり、取引が停止になったりすることになります。サイバーセキュリティも調達先の人権問題も、それが起きたときにどれくらいの被害が起きるのかをシミュレーションすることで、いくらお金をかけるべきかがある程度分かるはずです。そのほうが合理的ですし、きちんと投資をしている話は統合報告書に書けます。商品をより高く売れるようになるかはわかりませんが、少なくとも株価が上がる可能性が高まるはず。そういう全体最適の視点で経営判断をくだしていただくのが大事かなと思います。

◆危機をチャンスに!日本のサプライチェーンにおける未来展望

野口
やはり現場では個別最適が多く、まだまだ調達業務は本当の意味で経営とつながっていない部分が多いと感じます。こういう部分を我々のようなソリューションをうまく使っていただいて変えていければと思います。最後に全体を通して一言ずつお願いします。
瀬戸口氏
製造業のサプライチェーンは成長過程にあると考えています。東日本大震災をきっかけに整備が始まったサプライチェーンを、業界内、あるいは日本全体でいかに成長させていくかが重要だと思っています。今後もそのような取り組みを支援していき、この場のみなさんで製造業のサプライチェーン強靭化を図っていきたいですね。
小野塚氏
『日本の企業は全体的な最適化が不十分だ』ということを申し上げましたが、逆に考えればこれは『チャンス』と言えるのではないでしょうか。将来的に何かリスクが生じた場合にきちんと手を打てることは将来の利益が増加するということで、宝の山がまだ眠っているといえます。
また、自社だけでなく他社も同様の状況にある場合、他社よりも早く新たな取り組みを進めて強固なサプライチェーンを実現したり、他社と協力して業界全体の競争力を高めたりすることは、国際競争力を向上させることにつながり、さらには株価も向上するといえます。今こそ、この状況をチャンスと捉え、東芝さんやSpecteeさんの提供するようなサービスも活用しつつ、いち早くサプライチェーンを最適化していただきたいと思います。

(要約:平川 沙英)
May 22, 2024

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