どう取り組む?求められるサプライチェーン強靭化【2023年3月23日開催】
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月次で開催しているスペクティによるWebセミナーですが、3月23日には『どう取り組む?求められるサプライチェーン強靭化』と題して、現在取り組みが求められているサプライチェーンの強靭化につき、その背景から具体的な推進の仕方までを解説させていただきました。本レポートではその要約をお届けします。
①なぜサプライチェーンリスクマネジメントの重要性が増しているのか
お客様と対話する中で、サプライチェーンにおけるリスクマネジメントに課題感を持つ方が増えていると感じます。実際、2021年12月に行ったアンケート調査では、回答者の63%が、サプライチェーンリスクマネジメントの重要性が今後「とても上がると思う」または「ある程度上がると思う」と答えました。その背景には何があるでしょうか。
(1) 気候変動・気候危機
地球温暖化や気候変動に関する科学的分析をとりまとめる、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2021年8月9日、最新となる第6次報告書を発表しました。この報告書では幾つかのシナリオに基づいたシミュレーションを行われていますが、どのシナリオに沿ったとしても、少なくとも今世紀半ばまでは世界平均気温は上昇を続けるとしています。
地球温暖化は、気候システム全体に大きな変化を及ぼします。世界中で極端な高温や熱波・逆に寒波、大雨や干ばつなど、自然災害がより多発化・激甚化することが予想されます。
(2)感染症の流行
現在進行形で我々の社会を激震させている新型コロナウイルス感染症。今後、未開地を開拓することで人間と動物が接触する機会が増えること、また、より多くの人が飛行機で遠距離を移動するようになることで、パンデミック発生の可能性は高まりはせよ、低くなることはないでしょう。供給側・需要側双方に大きなインパクトがあり、サプライチェーンは混乱を強いられることになります。
(3)地政学リスクの高まり
地政学リスクとは「地理的な位置関係が地域にもたらす政治的、社会的、軍事的な緊張が高まるリスク」のことを言いますが、第二次世界大戦後、現在ほど地政学リスクが高まった時代はないと言えます。
ロシアのウクライナ侵攻、中国の覇権主義的な動きなどによって世界は「強権主義国家陣営vs自由主義国家陣営」に分断され、これまで進展してきたグローバル化は逆回転する目算が高くなっています。サプライチェーンの構造は変化を強いられるとともに、規制リスクや国際紛争リスクによって大きな影響を受けます。
(4)その他リスクの高まり
その他にも、ESG(環境・社会・ガバナンス)リスク、DXによる産業構造や物流構造の劇的変化、サイバー攻撃の増加など、サプライチェーン上のリスクは多様化・複雑化しています。
②サプライチェーンに影響を与えるリスクとは
企業は常に、多くのリスクに囲まれています。いろいろな分類の仕方があると思われますが、ここでは「ハザードリスク」「社会リスク」「経営リスク」という形で整理しました。一概には言えないものの、社会リスクや経営リスクはある程度予見が可能、または対処する時間的猶予があるものが多い一方、ハザードリスクは予見可能性が低く、突発的に顕在化するリスク事象と位置づけることができます。
大切なのは、自社にとってどういうリスクがサプライチェーンに影響を与え得るのか、そうしたリスクが顕在化した際にどこが主体となり、どの部署を巻き込んで対応するのかを整理しておくことです。リスクの顕在化を防ぐことはできませんが、備えることはできます。
③感染症リスクとサプライチェーン
多くあるリスクの中でも、近年その影響の大きさを思い知らされた「感染症リスク」についてその特徴をまとめます。
自然災害の場合には、事象が発生して業務レベルが落ちたあと、復旧活動を経て直線的に回復していくのが一般的です。一方感染症は、感染拡大期には経済活動全体に急ブレーキがかかり、生産・販売が縮小する一方、「巣ごもり消費」に対応するモノやサービスについては需要が急拡大することで、需給バランスが急激に歪められます。その後、感染は収束していきますが、ライフスタイルの変化は一部固定され、流行前に完全に戻ることはありません。また、何より難しいのは、第1波、第2波、第3波といった形で感染が拡大と収束を長期間にわたって何度も繰り返していることで、企業のマネジメントの難易度は格段に高いものになってしまいます。
④いかに準備し、早急にインシデント(危機事象)を覚知するか
サプライチェーンリスクマネジメントでは、自社のサプライチェーンを強靭化する「平時の活動」と、リスクが顕在化した際に適切に対応し、サプライチェーンを止めない「非常時の活動」に分かれます。
非常時の活動、つまりインシデント発生を受けて復旧していくなかにおいて、まずいかに迅速にインシデントの発生を覚知するかが決定的に大切です。例えば、サプライヤーの工場で火災が発生して生産が止まる。水害によって物流倉庫のオペレーションが停止する。そのようなケースで、いち早く対応することは競争力につながります。代替生産先や代替輸送手段を確保する際には基本的に「早い者勝ち」だからです。
⑤サプライチェーン強靭化のステップ
平時の活動として、サプライチェーンを強靭化するには、下記の4つのステップを踏み、回していくことが必要となります。
①サプライチェーン構成要素の可視化
まず取り組むべきは、サプライチェーンの可視化です。これは言うは易し、行うは難しで、実務で苦労されている方も多いかと思います。複雑化・多層化し、ブラックボックスが多く存在するサプライチェーンではリスクを把握し、その顕在化をタイムリーに覚知することは難しくなってしまいます。例えば自動車業界では、リソースに余裕のあるティア1のサプライヤーがティア2以下のサプライヤーの可視化作業を担うケースもあります。
可視化にはさまざまな困難が伴いますが、そこをやり切って「どこでインシデントが起こると、どのような影響がどこに及ぶのか」をできるだけ細部まで把握できるかどうかが、サプライチェーンリスクマネジメントの成否を大きく左右します。可視化をサポートするソフトウェアやソリューションの導入も一考に値するでしょう。
②リスク分析と脆弱性の特定
次に、自社のサプライチェーンに存在するリスクを分析し、どこに脆弱性があるのかを特定します。サプライチェーンに影響を与えるインシデントは、自然災害、工場や倉庫の火災、システム障害、輸送上のトラブルなど多岐にわたりますが、リスクマネジメントの手法として、事業への影響を縦軸に、発生頻度(可能性)を横軸にして自社の抱えるリスクを分類する方法が一般的です。
③強化策の実行
分析したリスクに応じて強化策を実行します。リスクの低減を行うには、「発生可能性を減ずる」と「事業への影響を減ずる」の2つのアプローチがあります。
④リスクのモニタリング
最後に、リスクのモニタリングを行います。
既に説明したように、インシデントの発生をいかに迅速かつ正確に覚知するかが、対応の成否を決定づけます。そのため、リスクをモニタリングする体制の整備を行う必要があります。弊社が提供するSpectee Proはこの目的で大変有用なツールであると自負しています。また、複数の大企業が既に取り組んでいるように、地政学リスクをモニタリングする目的で「経済安全保障室」のような部署を新設することも選択肢になります。自社の事業構造・取り巻くリスクに応じたモニタリング体制を構築することが大切です。
これまで企業は比較的安定した世界構造におけるグローバル化の進展の中で、効率化・低コスト化を追求してきました。しかし、脆弱性が明らかになる中で、サプライチェーンを強靭化しなければならないという機運が高まっています。「効率化」と「強靭化」は基本的にトレードオフの関係にありますが、自社が対処すべきリスクを明確化し、適切な手を打つことで、なるべく効率性・低コストを犠牲にせずにサプライチェーンの強靭性を高めることを目指すべきと考えます。
(根来 諭)
April 26, 2023
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