サプライチェーン強靭化~なぜ重要?どう進める?~【2023年11月15日開催】
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防災・危機管理に関するソリューションを提供するスペクティでは、毎月様々なトピックを取り上げてWebセミナーを開催しています。11月15日には『サプライチェーン強靭化~なぜ重要?どう進める?~』と題して、現在サプライチェーンを強くしようとする動きがなぜ起きているのか、そして具体的にどうやって進めればいいのかについてお話をさせていただきました。本レポートでは、その内容を抜粋してお届けいたします。
❶なぜ今サプライチェーン強靭化が求められるのか
サプライチェーンとは、原材料が製品に加工され、消費者に届く一連のプロセスを指します。そしてサプライチェーンは経済の発展とともに進化してきました。当初人間の社会は「地産地消」でしたが、産業革命によって動力源に革命がもたらされ、蒸気機関や電力のシステムが世界中に普及することで、モノを大量に生産することと、モノを遠くに運ぶことができるようになったのです。
大量生産と大量輸送が可能になったことで大量消費の時代を迎えます。需要が供給を上回る時代には、とにかく大まかにニーズをつかんでいかに多くの商品を供給するかが至上命題となります。しかしその後、経済成長がひと段落して市場が成熟することで、人々の嗜好が多様化し、多品種少量生産へとパラダイムがシフトします。ここにきてサプライチェーン・マネジメントの概念が発達することになります。
ここで最大のテーマになるのが効率化です。いかに安く作って運ぶか、そしていかに在庫を最小化するのか、「カンバン方式」をひとつの頂点として、サプライチェーンは多くに人の努力によって効率化されていきます。しかし東日本大震災が大きな転機となりました。被害の影響を調査する中で、現代のサプライチェーンがいかに脆弱であったかが露呈します。また、気候変動による自然災害の頻発化、地政学リスクの顕在化、新型コロナウイルスの流行など時代は「危機」が常態化した様相を呈する中、これまで「効率化」に偏重していたサプライチェーンを、「強靭化」することへの要請がかつてなく強まっているのです。
❷サプライチェーンを阻害するリスクとは
モノの流れを止めてしまうリスク事象は実に多岐に渡ります。様々な整理の仕方があると思われますが、ここでは下記の図を使って説明をします。
◇環境起因リスク
自然災害や、一国における政治的な情勢など、サプライチェーンの外側にあるマクロ的な要因に基づくリスクを指します。 基本的に、自社の努力でそのインシデントの発生を止めることはできないため、リスクを避けるためには工場や設備などを災害に耐えられるように強化することや、サプライチェーンを組み替えることでインシデントが発生しない場所に拠点を移すといった抜本的な対策が必要となります。
◇自社起因リスク
自社に起因するリスクとしては、自社工場や倉庫での火災や自社物流における事故など、不可抗力によるものと、不正行為といった作為的なものに分けられます。前者については事故防止の取り組みを行い、後者についてはサプライチェーン・リスクマネジメントの範囲に留まらず、内部統制の強化という経営問題としてとらえるべきです。いずれにしても、自社内で完結するものであり、意思を持って対策を実行することが重要です。
◇関係他社起因リスク
サプライチェーン内部ではあるものの、自社ではない主体を起因とするリスクを指します。例えばサプライヤーの製造事業所でオペレーションミスによって生産が止まってしまう事態や、物流業者の輸送キャパシティが逼迫してモノが運べなくなる事態などが挙げられます。自社と当該他社とのパワーバランスにもよりますが、自社が強い指導力をもって改善していくケースや、間接的にインセンティブを与えることで対策を促すケースなどが考えられます。特にサプライヤーにおけるリスクをどれだけコントロールできるかがポイントとなります。
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また、サプライチェーンを阻害するリスクと言うと、「サプライヤーが被災して部品の供給が止まった」や「台風で物流が止まって部材が届かない」といった、供給サイドからの流れが止まってしまう事態を想定することが一般的ですが、実際には需要サイドの急変動や不確実性というものもサプライチェーンに混乱をもたらす原因となります。例えば、急激に需要が増加したことによって、生産計画を上方修正したが、供給が足りずに売上の機会損失や取引先の信用失墜をもたらしてしまう。逆に、急激に需要が冷え込んだことによって、不稼働在庫が積みあがってしまうということも考えられます。「供給の不確実性」ばかりを考えるのではなく、「需要の不確実性」についても考慮すべきです。
❸サプライチェーンの強靭化をどう進めればよいか
具体的な強靭化のステップは下図の通りになります。
①基本方針策定と体制の整備
自社と1次サプライヤーまでを対象とするのか、それとも3次・4次の再プライヤーや販売先も範囲に入れるのかといった強靭化のスコープを決定すること、そしてそのための推進体制を整備することがまず最初に行うべきことです。強靭化のアクションはしばしば効率化とはトレードオフとなることがあるため(例えば安全在庫を積み増す)、事業全体に対して責任を持つ経営層を巻き込むことが必須です。
②サプライチェーンの可視化
次に、自社のサプライチェーンの構造がどうなっているのか、どのような構成要素によって成り立っているのかについて可視化を行います。ツリー状に企業名を連ねるだけでは不十分で、物流拠点や港湾などモノが動く際の結節点を含めて見える化することがリスク対策では重要になります。また、サプライヤー構造を完全に見える化するハードルが高いケースが多いですが、インセンティブを与えることや、当該サプライヤーにその先のサプライヤーのリスク対策についてコミットさせるなど、なるべく先の先までグリップを効かせることが必要です。
③リスクの分析・評価
経営リソースは有限ですので、ありとあらゆるリスクに対して対策を打つわけにはいきません。リスクが顕在化する可能性や事業への影響度という視点からリスクを評価し、優先順位をつけることが非常に重要です。
④強靭化策の実行
具体的な打ち手としては「サプライチェーンの再設計」「BCPの策定・改善」「サプライヤーマネジメントの強化」など数多く考えられます。リスクの分析・評価の結果導きだされた優先順位の高いリスクに対して強靭化策を実行していきます。
⑤リスクモニタリング
いくら詳しくリスクを分析したとしても、自社のサプライチェーンに影響を与えるリスク事象の発生を迅速に覚知できなければ、初動が遅れ、影響が大きくなってしまいます。情報ツールを導入するなどして迅速に覚知できる体制を構築します。非常時には、限定された生産キャパシティや代替輸送をいかに押さえるか、ある意味「早い者勝ち」となる場合も多いため、リスク事象の迅速な覚知は競争力につながると言えます。
⑥運用と改善
生産品目や事業そのもの、また事業を取り囲む環境はどんどん変化していきます。強靭化は一度手を打てば終わりではなく、運用し、改善していくことが大切です。何かリスク事象が発生した時に、自社はどのような対応したのか、もっといい対応はなかったかをレビューすることでも対応力は強化されることになります。
今回は時間の制限もあり、全体的な進め方についてのみお話しし、具体的な強靭化策の中身に踏み込むことはできませんでした。今後また機会を見つけて知見を共有できればと考えております。
スペクティはサプライチェーンの可視化とリスクモニタリングを行うためのソリューション「Spectee SCR」を11月30日に発表致しました。サプライチェーン強靭化は現在非常に重要なテーマであり、今後もスぺクティはソリューションの開発を進めて、事業のレジリエンス向上貢献して参りたいと考えています。
(要約:根来 諭)
December 20, 2023
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