ユニクロの改革に見るサプライチェーン進化の方向性~効率性から強靭性へ~

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報道にあるように、ユニクロを運営するファーストリテイリングは、2023年11月7日に開催したサステナビリティ方針の説明会の中で、人権や環境保護を念頭にサプライチェーン改革を推進し、生産パートナーの集約を進めると明らかにしました。

その内容に触れる前に、今から約5年前、2018年10月11日の決算説明会において発表されたサプライチェーン改革について内容を確認してみましょう。目指すべきサプライチェーンの方向性として「無駄なものをつくらない・運ばない・売らない」とし、無駄の排除を徹底していくことを宣言しました。その手段として、検索エンジンや人工知能を活用してリアルタイムに膨大かつ良質なデータを収集し、サプライチェーンに関する意思決定に必要な数値をすべて見える化するというものです。

次に、今回発表されたサプライチェーン改革の方向性を見てみましょう。

お客様が必要とされるものだけをつくり、服の生産から輸送、販売までのプロセスにおいて環境人権が守られ、商品の販売後もリユースやリサイクルなどを通して、循環型の社会を実現することを目指しています。(略)生産部門においては、グローバルでの事業拡大や多様化するお客様のニーズに対応するため、持続可能性を担保しながら、安定的・機動的に生産できるサプライチェーンの構築に取り組んでいます。(略)生産の全工程で品質、調達、生産体制、環境・人権対応の自社基準を適用、自社でサプライチェーン全体を管理していくことを目指しています。これを実現するため、最終商品から原材料レベルまでサプライチェーン全体を可視化し、少数精鋭の生産パートナーに取引を集約。さらに、今後は、原材料を指定農場や牧場から調達する取り組みを進めていきます。

無駄を省くという方向性は堅持しつつも、人権や環境保護を念頭にサプライチェーン改革を推進し、生産パートナーの集約を進めると明らかにしています。効率性の追求一辺倒から、人権や環境といったことにも目配せをするバランスの取れた内容と言えるでしょう。

こうした方向性の転換に影響を与えたであろう事案が、約3年前に発生しています。2021年1月、米国ロサンゼルス港において、人権侵害をしているとされる中国の新疆生産建設兵団が生産した綿や綿製品の輸入を禁止する違反商品保留命令に違反したとして、綿シャツの輸入が差し止められてしまったのです(ファーストリテイリングは違反していないと反論するも却下)。中国における人権侵害にからむリスクが顕在化したケースでした。


サプライチェーンを囲む環境は近年大きく変化してきています。「世界の工場」たる中国に関連する地政学リスク、気候変動によって増加する自然災害、世界を揺るがす感染症の流行や戦争・紛争の頻発・・・サプライチェーンはこれまで、大量生産・大量消費の時代から、高度経済成長を経た嗜好の多様化と市場の成熟といった流れに追随する形で進化をしてきましたが、その中で一貫して追求されてきたのは「効率性」でした。つまりはいかに安く作り、運び、売るかという「コスト」の観点に帰着します。しかしリスクが高まっている今の時代において、そのような効率性の追求だけではビジネスは成り立たなくなってしまいます。そこで、サプライチェーンを阻害する事象に対する「強靭性」を高めようという機運が企業の中で高まってきていると言えます。

今回の発表では「生産拠点の多様化」についても触れられていましたが、これも生産を中国に集約しておくことによる地政学リスクが看過できないレベルに高まっていることを受けてのものと思われます。

「生産拠点の多様化」においては、主要生産拠点である中国生産の拡大に加えて、東南アジアでの生産比率が伸長。インドネシア事業、ベトナム事業の国内生産比率は5割以上に拡大。成長市場インドでもさらに国内生産を拡大していく予定です。

効率性から強靭性へ。日本を代表する企業であるファーストリテイリングのサプライチェーンに対する姿勢の変化は、今後その他の製造業をはじめとした企業にも広がっていくものと思われます。

(根来 諭)
November 15, 2023


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