なぜ個人は凶行に走るのか――越境する暴力を生むオンライン上のエコシステム

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2025年10月〜12月、Specteeは大規模な組織的犯行ではないとみられる世界各地の銃撃・爆破・刺傷事件等に関するSNS投稿を計338報配信しました。各事件の要因はさまざまですが、今回はいずれも特徴的な背景を持つ、インドネシアで11月に起きた学校の爆発事件と、オーストラリアの人気観光地ボンダイ・ビーチで12月に発生した銃撃事件を取り上げ、それぞれの事件の背景にある「TCC」「NVE」「反ユダヤ主義」について、その世界的な波及のメカニズムを含めて詳しく考察します。

東南アジアの若者に広がるオンライン上の闇カルチャー「TCC」

インドネシア・ジャカルタ(北ジャカルタ、クラパ・ガディン)の州立高校で昨年11月に起きた事件では、金曜礼拝の時間帯に校内のモスク付近で複数の爆発が発生し、50名以上の負傷者が出ました。捜査当局は、容疑者の17歳の男子生徒が自作の即席爆発装置を遠隔で起爆したとし、組織的テロとの直接的関係を早い段階で否定しています。所持品からは、白人至上主義的スローガンや、ニュージーランドで2019年にモスクで銃乱射事件を起こした犯人名が書かれた玩具のサブマシンガンなど容疑者の過激性を示唆する物品が見つかっています。

この事件の背景を読み解くキーワードは2つあります。それは「TCC(True Crime Community)」「NVE(Nihilistic Violent Extremism)」です。

TCC(True Crime Community)とは、現実の犯罪や捜査、加害者の動機に強く惹かれる人々が形成するオンライン上のカルチャーを指します。特に問題視されるのは、大量殺傷犯や著名な殺人犯を祭り上げ(fandom)、賛美・美化・模倣する傾向が強いことです。研究機関は、こうした傾向が仲間内の承認や悪名の獲得と結び付くことで、暴力が「模倣可能なテンプレート」として拡散するリスクを指摘します。米シンクタンクThe Soufan Centerは、TCCが東南アジアの若者の間に広がりつつあるとして「新たな脅威」と位置づけ、今回の爆発事件についてもTCCに由来する要素が目立つと警告しています。

SNSに投稿された容疑者の所持品の画像 (右)。サブマシンガンの銃身中央上部にはNZで銃乱射事件を起こした容疑者の名 Brenton Tarrantの文字が見える

グローバルに拡散する「NVE」犯罪 とは何か?

さらに近年、オンライン上の事件の過激化を説明する枠組みとして、NVE(Nihilistic Violent Extremism)と呼ばれる概念が注目されています。米国の捜査・訴追文書で使われるようになった用語で、米司法省やFBIがオンラインの搾取・脅迫ネットワークを説明する際に言及しているケースもみられます。

The Soufan CenterはNVEを、明確な政治的・宗教的目標のもとで組織的に動くというより、暴力や混乱そのものを目的化しやすい「ゆるく拡散する過激化」として整理しています。ここで動機になり得るのは大義の実現ではなく、暴力を賛美する空気、悪名の獲得、仲間内の承認欲求などです。その結果、極右・ネオナチ、反ユダヤ的陰謀論、親IS、女性嫌悪、反LGBTといった要素が、体系だった教義としてではなく、断片として”つまみ食い”的に混ざり合いやすくなるといいます。国際調査団体GPAHEは、こうした「思想の一貫性よりも、仲間内の評価や悪名を優先し、暴力がそれ自体のために行われる」傾向を特徴として強調しています。

東南アジアの若年層の過激化は、家庭や学校といった従来の経路より、SNSやオンラインゲームを含むネット空間で形成されやすい傾向もあります。そこではNVE的な傾向に加え、暴力が真似しやすい「型」として広がる「memetic violence(ミーム的暴力)」が問題になります。

また重要なのは、米国で最近用いられ始めたこの概念が、昨年起きた東南アジアの犯罪を説明する際、すでに参照されている点です。オンライン上では、過去の大量殺傷事件の加害者像やスローガン、ネオナチ的図像、陰謀論的言説などが国境を越えて流通し、断片のまま混在しながら、SNSやメッセージアプリを通じてリアルタイムで若年層に浸透します。結果として、犯行はオンライン上の称賛・承認・悪名獲得の競争と結びつき、「見られること」を前提に”演じられる”形を取り得る危険性をはらんでいます。

NVE犯罪の容疑者が起訴されたことを広報する米司法省のウェブサイト

オンラインで増幅する「反ユダヤ主義」の扇動と称賛

オーストラリア・シドニーのボンダイ・ビーチで昨年12月に起きた銃撃は、ユダヤ教の祝祭日ハヌカの催しを狙った事件でした。参加者約1,000人規模の集会で15人が死亡し、40人以上が負傷した。実行犯は親子2人組とされ、イスラム国(IS)に触発されたテロ行為とみられています。事件後、オーストラリア政府は「反ユダヤ主義」の実態と治安対応を検証するため、委員会(Royal Commission)の設置を表明し、警察・情報機関の対応も含めた調査を進める方針を示しました。

本事件について、英シンクタンクISD(Institute for Strategic Dialogue)は「ISに触発された攻撃に典型的に見られる特徴を備えた事案」と位置づけます。ISDによると、2024年1月1日から2025年12月15日までに確認されたIS関連の攻撃26件のうち、11件(42.3%)はユダヤ・イスラエル関連のコミュニティーや機関を標的にしていました。さらに事前に阻止された計画84件でも、27件(32.1%)が同様の標的を想定していました。

ISDが重視するのは、攻撃の前後で立ち上がるオンライン上の扇動・称賛のエコシステムです。ISは支持者に対し特定標的への攻撃を促す宣伝を継続してきたとされ、事件が起きると公式・非公式の支持者ネットワークが複数のオンライン空間で賛美と拡散を繰り返し、次の実行を後押しする循環が生まれます。本事件でも、ISのオンライン公式週刊誌が犯行を称賛したことが確認されています。

加えて、宗教行事は参加者が集中し象徴性も高いものです。結果として攻撃の”見せ場”になりやすく、恐怖と注目が同時に最大化されます。ISDは、年末や宗教関連イベントを狙う傾向との連続性を示唆し、ユダヤコミュニティーへの攻撃が国境を越えて反復されている点を強調します。

扇動・称賛がオンラインで増幅される以上、攻撃の兆候や周辺ネットワークを継続的に把握し、早期警戒に結び付ける視点は欠かせないといえます。実際、各国の調査機関や研究団体は、こうした過激派によるSNS投稿や関連チャンネルを継続的に監視し、拡散の兆候や動員のサインを追っています。

銃撃事件の実行犯について解説するニュース専門チャンネルのX投稿

(大久保陽一)
January 28, 2026


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