大規模火山噴火による降灰の恐ろしさ

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日本は全国に111の活火山を抱え、これは世界の活火山全体の約7%を占める火山大国です。これらの火山が噴火をした際、我々はどのような対応をとればいいのでしょうか。気象庁は「降灰予報」を発信していますが、ここでは大規模噴火で火山灰が広範囲に及ぶことを想定されていないという問題点があります。

そんななか、気象庁は1月14日、富士山を含む全国の火山で大規模噴火が発生した際の降灰予測情報の発信方法を見直す有識者検討会を新たに立ち上げ、今月には重大な災害や生活への影響の可能性を伝える「警報・注意報」を導入する方向性を示しました。日本のシンボルである富士山は、過去には平均して約30年に1度噴火していましたが、1707年の宝永噴火以降約300年以上噴火していないことから、いつ噴火してもおかしくはない状況であり(現時点では噴火が差し迫っている兆候はありません)、対策の強化が急務です。本稿では、富士山を例として、大規模な火山噴火による降灰が我々の生活や事業にどのような影響を与えるのかを確認したいと思います。


富士山が噴火したことを想定した「富士山ハザードマップ」は、令和3年3月に開催された第11回富士山火山防災対策協議会)において改定されました。

(出典:「降灰の可能性マップ」富士山ハザードマップ(令和3年3月改定))

上図はハザードマップに含まれた「降灰の可能性マップ」です。特定の条件下でのシミュレーションではなく、どれくらいの厚さの降灰に見舞われるかの可能性を示したもので、東京の中心部でも2cm以上の降灰がありえることがわかります。

また、下図は内閣府・中央防災会議のWGが令和2年4月にとりまとめた「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―~富士山噴火をモデルケースに~」に掲載された、大規模噴火発生後15日間にわたる降灰の影響をシミュレーションしたものです。条件は:

・宝永噴⽕の実績に類似する、噴⽕期間中に⻄⾵が卓越する場合
・降灰は、神奈川県と千葉県を中⼼に、⽕⼭から東⽅⾯に分布

というものです。道路の通行への支障(紫色・青色)や鉄道の運行への支障(緑色)がかなりの広範囲に及ぶことが見て取れます。

(出典:令和2年4月 中央防災会議 防災対策実行会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討WG資料)

次に、火山灰によって具体的にどのような影響が出るのかを見ていきたいと思います。

交通

降灰は交通に深刻な影響を与えます。道路交通では火山灰が積もると路面が滑りやすくなり、車両がスリップして事故が起こりやすくなります。乾燥時には10cm以上、降雨時には3cm以上の降灰によって二輪駆動車は通行不能になるとされています。また、視界不良や、車両のエンジンや空気フィルターに火山灰が入り込むと、エンジンや冷却システムが故障するリスクも高まります。鉄道については線路に微量でも火山灰が積もると、運行が難しくなります。線路だけではなく信号設備などの運行設備にも影響を与えてしまいます。

航空機にとっても灰は大敵で、エンジンの故障を引き起こす可能性があるために航行は大幅に制限されます。エンジンに灰が吸い込まれると、高温で溶けた灰がタービンに付着し、エンジンの停止を引き起こす可能性があることに加えて、火山灰の雲が飛行中の視界を遮り、航空機の計器やセンサーの誤作動を引き起こすこともあります。このため、火山灰の影響が予測される場合、多くの航空路線が運航を停止せざるを得なくなります(2010年、アイスランドの火山噴火で欧州の空の交通が麻痺したことは記憶に新しい。さらに船舶も視界不良やエンジン故障のリスクが高まることから、陸空海全ての交通手段に影響を及ぼし、日常生活や物流に大きな混乱を引き起こすでしょう。

ライフライン

降灰はライフラインにも深刻な影響を及ぼします。まず電力供給への影響として、火山灰が電線や変電所に積もると、湿気を帯びた灰が電気を通しやすくなるためショートが発生し、停電を引き起こします。特に、湿度が高い環境ではこのリスクが高まり、広範囲での停電が発生する可能性が高くなります。次に上下水道についても、微細なガラスや鉱物の粒子が含まれる火山灰が河川や貯水池に流れ込むと水源が汚染され、飲料水として利用できなくなります。また、浄水場のフィルターが詰まって浄水能力が低下することもあります。

通信インフラについても、火山灰が通信機器やアンテナに付着すると信号が遮られたり、設備が故障したりする可能性があります。特に、電波塔や中継施設に灰が積もると、通信速度が低下したり、完全に途絶えたりすることがあり、このような通信障害は、災害時の情報伝達や緊急連絡において大きな問題を引き起こすことは想像に難くありません。さらに、ガス供給への影響も考えられます。火山灰がガスの供給設備やパイプラインに入り込むと、設備が詰まりガス供給が止まる場合があります。

その他の影響

その他にも、降雨時には30cm以上の堆積で木造家屋が重みに耐えきれずに倒壊することが考えられますし、大気に火山灰が広がることによって呼吸器疾患や心疾患が悪化するなど健康被害も想定されるでしょう。

そして最後に、火山灰の処理には多大な労力を要することを指摘しておきたいと思います。雪のように溶けて消えてはくれません。堆積した火山灰を除去し、それを運搬し、適切に処理をする必要があります。上記のWG資料のシミュレーション条件で想定される火山灰は、実に約 4.7 億㎥という膨大な量となり、これは東⽇本⼤震災の災害廃棄物量の約 10 倍、そして日本全国で1年間に発⽣する建設発⽣⼟とほぼ同量です。東⽇本⼤震災の災害廃棄物が3年をかけて約9割が処理されたことを考えると、長期的に我々に影響を及ぼすと考えざるをえません。



桜島の大正噴火(1914年)や有珠山の噴火(1977年)などの例はあるものの、少なくとも大きな都市圏に大規模な降灰をともなう大規模噴火を我々は経験していません。広範囲に交通・ライフラインへの障害が発生する可能性が高いこと、また家屋の倒壊リスクなどがあることや火山灰の処理が非常に大変であることはあまり一般的に認識されているものではないのではないでしょうか。対策の第一歩は、まずどのような影響がありえるのかをしっかりと把握することだと考えます。

(出典:令和2年4月 中央防災会議 防災対策実行会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討WG資料)

(根来 諭)
February 26, 2025


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