防災技術の海外展開⑤ フィリピンの被災現場から(全5回)
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<第4回より続く>
実際に被災現場にも足を運びました。訪れたのはアルバイ州のギノバタンという場所です。
ここはマヨン火山という活火山の麓に位置します。フィリピンには24の活火山があり、そのうち7つが常時監視対象(日本は110の活火山のうち50が監視対象)となっていますが、マヨン火山はそのひとつです。
標高は2,463m。山頂からの噴火が多く、山腹からの噴火が少ないことから、御覧の通り非常に美しい円錐形を保っており、日系移民からは「ルソン富士」などと呼ばれていたそうです。周囲一帯は国立公園に指定されています。
しかし、その美しさとは裏腹に非常に活発な火山で、直近400年で約50回の噴火を繰り返しています。最も多くの犠牲を出した噴火は1814年のもので、溶岩流がカグサワという町を埋めて1,000人以上の死者が出ました。2000年代に入ってからも2000, 2001, 2006, 2009, 2013, 2014, 2018年に噴火しています。
今回訪れたのは、ラハール(火山泥流)の被災現場です。ラハールという言葉はあまり耳馴染みがないかもしれません。火山災害では噴石・溶岩流・火砕流・火山灰など色々な現象が発生しますが、ラハールとは、火山の斜面に堆積した噴出物が、大雨などによって多量の水分を含むことで流れ落ちていく現象です。
2006年の噴火の際には、台風21号とあいまって死者620名、行方不明710名、倒壊家屋約9000戸という被害を出しています。下記写真は、2018年の噴火で堆積した泥が、2020年の台風で押し流されて発生したラハールの被災地です。死者7名、倒壊家屋150戸と2006年に比べると被害は小さかったと言えますが、線路が流され、家も屋根の高さまで埋まっているなど大きな爪痕を残していました。
一方で、火山灰は土地を肥沃にし、またセメントの材料ともなるようで、「火山と共に生きる」人々のたくましさを同時に感じたのでした。
防災の体制については、微振動の計測や監視カメラなどで火山活動の監視は行われており、適宜避難勧告を出す仕組みは出来ているものの、避難指示を住民に行きわたらせたり、リアルタイムでの災害状況の可視化という意味ではまだまだ整っていないようです。また、ラハール被害を防ぐために堤防を建設している横で、その災害リスクの高い場所に貧しい人々が勝手に住み着いてしまっている状況も見受けられました。
今回、日本と並ぶ災害大国であるフィリピンの実情を把握し、政府高官や現場の人々と議論することで今後のビジネス展開に向けた準備を進めることができました。
危機関連情報については、気象や河川の水位、監視カメラ映像などを各機関が取得していますが、それら情報をまとめ上げて活用する仕組みが弱いと感じました。例えば米国は連邦緊急事態管理庁(FEMA)という独立機関を置いていますが、フィリピンの場合はNDRRMCという評議会の形になっているため、強力な権限が振るいにくいということがあると考えられます。ここに、様々な官公庁・機関の情報を集められる「情報プラットフォーム」があれば、中央官庁や地方自治体などの各種プレイヤーが必要な情報を参照し、災害対策に生かすことができるようになると思われます。
また、SNSの普及度は非常に高く、ラハール被災現場近くにバラックでできた住宅が並ぶエリアがありましたが、「ここの住民も、家は貧しく見えるが、必ずみなスマートフォンを持ってSNSを利用している」という説明を受けたことが印象的でした。災害情報の収集のみならず、避難情報の伝達の面でも活用できるはずです。
—リープフロッグという言葉があります。例えばアフリカでは、電話回線が引かれて固定電話が普及する前にスマートフォンが一気に広がりました。このように、先進国が歩んだ発展段階を飛び越えて、最先端技術で一気に社会が進化することを指します。
フィリピンでは予算の制約が大きく、州レベル・市レベルでは監視カメラや気象情報を使って手探りで災害対応を行っています。ここに、SNSの情報を収集し、水位データや交通情報などと重ね合わせられる情報プラットフォームとして、AI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」を導入することができれば、日本がコツコツと進歩を重ねて高度な防災情報システムを作り上げた段階を飛び越え、一気にゲームチェンジが図れるのではないかと思います。
Specteeは、新興国防災のリープフロッグ型発展を実現できる。そう確信しています。
日本の防災技術を海外展開し、レジリエントな世界の実現に資することは、日本の経済成長にも、世界の持続可能な発展にとっても大切なテーマだと思います。引き続きフィージビリティスタディを進め、海外展開へとつなげていきたいと考えています。
<了>
(根来 諭)
March 15, 2023
信頼できる危機管理情報サービスとして続々導入決定!
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