青森県東方沖地震と能登半島地震におけるSNS偽情報の比較

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 2025年12月8日に発生した青森県東方沖地震では、多くの人々がSNSを通じて情報収集や状況の共有を行いました。他方で、2024年の能登半島地震では、SNS上で偽・誤情報が拡散し、メディアや世論の関心を集めました。今回は、二つの地震を対象に、X(旧Twitter)などSNS上に投稿された偽情報の拡散状況を比較します。

 まず、能登半島地震に関する投稿動向を確認します。このレポートで示したように、能登半島地震で地震に関するX投稿はピーク時で約70万件に達したものの、そのうち偽・誤情報が占める割合はごくわずかにとどまっています。具体的には:

という結果が得られており、量的に見れば、能登半島地震において偽情報は全体の一部にすぎませんでした。

 次に、青森県東方沖地震について検討します。筆者が概略的に取得したデータによれば「地震」全般に関する投稿は、発災翌9日14時までに計525,902件に達しました。投稿数は地震発生時刻の23時15分直後に急峻なピークを形成し、170,349件の投稿が集中していることが分かります。その後は急速に減衰し、翌朝以降は低位で推移する「単発スパイク型」のパターンを示しています。

 このうち「人工地震」を含む投稿を抽出すると、その総数は翌9日14時までに1,325件であり、地震全体の投稿525,902件の0.25%にとどまっています。地震発生から1時間程度は人工地震に関連する投稿が比較的多い傾向にありますが、その後は急速に減少しています。

ここでは、地震の前後にSNS上で確認された偽情報に該当する実際の投稿を挙げてみます。

①X投稿 (人工地震に関するもの)

②TikTok投稿 (投稿者は非日本語話者と推定。過去の地震の動画を組み合わせたもの)

③地震を予言するもの (Threads)

④地震を予言するもの (YouTube)

⑤X投稿 (地震とクマの出没を結びつけるもの)

 また、筆者の調査では、能登半島地震時に見られたような虚偽の救助要請や、偽の募金を募る明確な投稿は、X上では今回は少なくとも確認できませんでした。

 さらに、両地震を比較すると、次のような共通点と相違点が明らかになります。

 ここで重要なのは「偽情報が存在すること」と「偽情報が情報空間を支配していること」を区別する必要があるという点です。能登半島地震でさえ、量的には偽情報が少数にとどまっていたのであれば、青森県東方沖地震ではそれがさらに縮小していると解釈できます。さらに、能登半島地震は震度7、津波、広域の道路寸断、原子力発電所への懸念など、複合災害的要素も備えており、陰謀論を含む「ナラティブ」に結びつけやすい条件が揃っていたと考えられます。

それに対して青森県東方沖地震では、
●津波高が限定的で、壊滅的被害や原発事故は発生しなかったこと
●行政・メディアの公式情報が比較的早期に出そろい、大きな「情報空白」が生じにくかったこと
などから、偽情報や陰謀論的投稿が拡散する余地は小さかったと考えられます。

能登半島地震において、偽情報は全体約70万件のごく一部にすぎないことが確認されていますが、青森県東方沖地震ではその割合はさらに低く、量は少数であっても「人工地震」言説そのものは、大きな地震のたびにほぼ必ず出現しています。しかし、その拡散規模や持続時間は、災害の構造(被害規模など)や事前のメディア報道による社会的学習によって大きく変動しうるでしょう。能登半島地震と青森県東方沖地震の差異を手がかりに「偽情報がどれだけ存在したか」だけでなく「どれだけ支配的であったのか」「どのような条件で抑制されうるのか」を検討することが筆者は重要だと考えます。

また、このレポートでは触れませんでしたが、中国当局が、地震を受けて日本への渡航を控えるよう自国民に呼びかけていることについても、外国政府による影響力行使(FIMI)や国家による偽情報をめぐる戦略的言説を考える観点からも興味深い事例と言えます。

(大久保陽一)
December 17, 2025


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