ナイジェリアEndSARS運動とSNSの拡散力

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2020年、米国ではBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動が巻き起こりました。この運動自体は2013年頃から行われていたものの、2020年5月25日にミネアポリス近郊で黒人男性ジョージ・フロイド氏が警察官の不適切な拘束方法によって死亡した事件を発端に、全米でデモが行われるようになり、大統領選挙も相まって非常に過激な内容に発展する場面もありました。ジョージ・フロイド氏が「I can’t breathe(息ができない)」と繰り返し訴えながらも、地面に押さえつけられ続ける衝撃的な動画が各SNSで広く共有され、人々を衝き動かしたことは疑いようがありません。

EndSARS運動

一方、警察権力による暴力を発端に、SNSを介して大きく広がったデモがナイジェリアでもありました。「EndSARS運動」です。EndSARSは「SARSを終わらせろ」という意味。SARSはナイジェリア警察の特別強盗対策部隊(Special Anti-Robbery Squad)のことを指します。

SARSはもともと強盗・誘拐・暴力事件など凶悪犯罪を取り締まるために、1992年に組織された武装警察部隊ですが、組織としての目的を完全に逸脱し、恣意的な道路での検問や所持品検査、それに伴う賄賂の徴収や果ては殺人や拷問などを行っているとして、かねてから批判を受けていました。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、2020年6月に調査レポートを発行、2017年1月から2020年5月の間にSARSが行った拷問や処刑など82件の人権侵害案件を告発しています。

そして10月3日、南部デルタ州でSARSのメンバーが検問後に運転手を射殺し、自動車を奪った事件を撮影した動画が複数の著名人によってSNSに拡散されました。



これをきっかけに人々の怒りに火がつき、大規模な抗議デモ活動が連日巻き起こりました。10月11日、アダム・モハメド警視総監がSARSを解体すると発表したものの、抗議デモ参加者の釈放や被害者への賠償を求めて抗議デモはさらに激化。ナイジェリア各地で国民と治安部隊との衝突が多発し、公共施設への放火、商店の略奪も相次ぎ、また警察による抗議デモ参加者に対する発砲事件も報じられました。

抗議グループ連合が、本来意図していなかった略奪や破壊行為などを止めるために、「今後の抗議活動はオンラインを中心に行う」旨の声明を発したことで、約1か月にわたって行われた#EndSARSのデモはようやく鎮静化しました。


SNSの拡散力

今回のEndSARS運動の拡大に大きく寄与したのがSNSでした。

10月から始まった運動は、「#EndSARS」のハッシュタグのもとにTwitterを中心としたSNSで拡散され、多くのナイジェリアの若者の支持を集めると共に、海外メディアの注目を浴び、大きなうねりに発展していきました。SNSで呼びかけられたデモが、ナイジェリアの各主要都市で行われ、また、ニューヨーク、ロンドン、パリ、トロントなどの都市でも行進が行われました。バーミンガム・シティ大学のリサーチャー、Vindent A. Obia氏も、ツイッターがなければ、ナイジェリア各地や海外において抗議活動を組織したり、最新情報を共有することは難しかっただろうと指摘しています。

このような「#EndSARS」の爆発的な広がりは、米国で進行していたBLMとも大きく共鳴し合ったのではないでしょうか。事実、リアーナやニッキー・ミナージュ、ビヨンセ、カニエ・ウエストといった、欧米を舞台に活躍している多くの著名人も「#EndSARS」のハッシュタグをつけて声を挙げています。


◆リアーナによるツイート


◆ニッキー・ミナージュによるツイート

浮き彫りとなるナイジェリアの課題

ナイジェリアの人口は日本を大きく上回る約2億人。アフリカ屈指の経済規模を誇り、世界有数の産油国でもあります。しかし、一人あたりGDPは世界銀行の統計で約2,000USドル(2018年時点)と世界平均の約2割程度、失業率はIMFの統計で17.5%(2017年時点)と、国民の多くは貧しい生活を強いられていると言っていいでしょう。そこに、今年に入って新型コロナウイルスが流行。経済発展が急減速したことは間違いなく、また、産油国であるため、原油相場低迷のインパクトも大きいはずです。こうした経済的な苦境が、爆発的に続いた抗議活動の下地になっていた可能性があります。

一方、ナイジェリアは30歳以下の若者が人口の40%もを占める若い国であることも特徴的です。きっと彼らの多くはSNSでつながりあい、SNSを武器に、SARSの暴力や不当な要求に対抗することを選んだのではないでしょうか。実際、運動は海外を巻き込んで大きな広がりとうねりを見せました。メッセージ性が高く人の心を動かす”動画”を介して、世界中にあっという間に情報が共有できる。世界の情勢を把握するのに、SNS上での動きに目をこらしておく必要があるのは明白です。

(根来 諭)
December 22, 2020

参考情報

ナイジェリアの♯EndSARS運動(現代アフリカ地域研究センター)
http://www.tufs.ac.jp/asc/information/endsars.html

#EndSARS, a Unique Twittersphere and Social Media Regulation in Nigeria (Media@LSE)
https://blogs.lse.ac.uk/medialse/2020/11/11/endsars-a-unique-twittersphere-and-social-media-regulation-in-nigeria/


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