パリ郊外から全土に広がったフランスでの暴動(2023年)

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6月27日にパリ郊外のナンテールでアルジェリア系の17歳の少年が警察官の発砲を受けて死亡した事件をきっかけにして、フランス全土に大規模な抗議デモと暴動が広がりました。多くの放火や店舗の略奪が発生する事態となり、逮捕者はすでに3,000人を超えるとのことです。パリの目抜き通りであるシャンゼリゼ通りでも、略奪を恐れた店舗が窓ガラスを板でふさぐなどの対応を取っています。

7月1日に少年の葬儀が営まれ、その夜は少しおさまったものの、依然ソーシャルメディアを通じて暴動のための集結の呼びかけがあったり、暴徒が自動小銃を発砲しているという情報があるなどまだ予断を許さない状況です。

日本の外務省は昨日、海外安全ホームページにおいてスポット情報「フランス国内における暴動についての注意喚起」を発出し、騒動に近づかないことや、今後さらに暴動が拡大するおそれがあることを呼びかけています。

射殺事件発生当初、警察は「検問で警官に止められた少年が自動車を動かし、警官をひこうとした」と発表して発砲を正当化しようとしたものの、のちにSNSでこれとは矛盾する内容の動画が拡散されました。その動画では、警官は車でひかれるおそれのない運転手席の脇に位置して、至近距離から胸に向けて発砲しているように見え、この虚偽の発表が怒りを呼び起こすことになりました。また、死亡した少年がアルジェリアにルーツを持つアラブ系であったことから、人種差別的な側面からも反発の感情が爆発したという背景があります。

今回の事件で思い出すのは2005年に起きたパリ郊外での暴動事件です。2005年10月27日に、警察官に追われた移民系の少年2人が発電所に逃げ込んで感電死したことをきっかけに全土に暴動が拡大、1か月ほど続いたことがありました。

この事件と今回の事件に共通するキーワードは「バンリュー」(フランス語で”郊外”の意)です。2005年の事件が起きた場所はパリ東郊外のクリシー=ス=ボワでした。今回の事件はパリ北東郊外のナンテールで発生しました。パリの郊外は貧困層の多くが住む団地が立ち並び、スラム化している場所が多く、バンリューという言葉には「移民・失業・差別」といったイメージがつきまといます。筆者もパリに4年在住した経験がありますが、郊外は危ないところが多いので近づかないほうがいいという共通認識がありました。ただし全ての郊外が貧困というわけではなく、今回事件が発生したナンテールという場所はビジネス地区デ・ファンスに近く、街並みも綺麗な地区ではあります。しかし、恐らく「郊外=移民」という構図を、ニュースを聞いた多くのフランス人が想起したと思われます。

フランスは、1960年代から高度経済成長を支える労働力として多くの移民を積極的に受け入れてきたため、現在人口の約10%が移民です。出身国は旧植民地である北アフリカのアルジェリアやモロッコが上位を占めます。しかし彼らの多くが貧困に苦しみ、就職差別や宗教の違い(移民には多くのイスラム教徒が含まれます)などから長らく不満が鬱積していると言われています。今回のような事件を発端にそうした不満が爆発し、抗議デモが暴動へと発展してしまう背景にはこのような移民問題が横たわっています。

コロナ禍の移動制限も解除され、出張や夏休みの旅行でフランスに渡航される方も多くいらっしゃると思います。今後も暴動が続く可能性がありますので、騒動には近づかず、最新の情報を常に仕入れて行動するようお気をつけください。最後に、SNSに投稿された抗議デモや暴動の様子をいくつかピックアップしてご紹介します。

❶リール

ベルギーと国境を接する北部の工業都市リールでは、物が燃やされて道がふさがれている。

❷メッス

北東部の古都メッスでは「Médiathèque Jean-Macé」というメディア図書館に火が放たれた。


❸ナンテール

震源地であるナンテールでは多くの抗議デモが巻き起こり、店舗が略奪されて火をつけられるなどの行為も見られた。


❹ノアジー=ル=セック

パリ東郊外のノアジー=ル=セックでバスが燃えている動画が投稿された。

❺パリ

有数の観光地であるシャンゼリゼ通りでデモ隊と警察が衝突。

❻ライ=レ=ローズ

パリ南郊外のライ=レ=ローズでは市長宅に何者かが車でつっこみ放火。市長の妻と子供が花火を投げつけられて負傷した。

❼ストラスブール

北東部アルザス地方の都市ストラスブールで、車が燃やされて爆発している様子。

❽リヨン

フランス第二の都市リヨンでの衝突。移民系ではない人々も多く抗議デモに参加しているのが見受けられる。

❾トゥルーズ

ヨーロッパの航空宇宙産業の中心地トゥルーズで、逃げ惑う抗議デモ参加者の様子。

❿ニース

これから本格的なバカンスシーズンに入っていくコート・ダジュールの観光地ニースでも、デモ隊と警察が衝突。

⓫マルセイユショッピングセンターで略奪

南部の港湾都市・マルセイユでは、ショッピングセンターで略奪が起きている様子が投稿された。

(根来 諭)
July 03, 2023


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