米国・イスラエルの対イラン攻撃~米軍の動向を監視する「中国テック企業」の正体
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米国とイスラエルによる対イラン攻撃が2月末に開始されました。一連の軍事作戦は、イラン国内のみならず周辺国の国民やインフラにも甚大な被害をもたらしています。また、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで航行船舶が激減しており、世界経済への多大な影響は避けられない情勢です。Specteeも攻撃当初から、空爆などの様子を捉えたSNS投稿を数百報配信し、情報の可視化に努めてきました。
今回の攻撃では、船舶追跡サイト「MarineTraffic」を用いたタンカーの航行状況の把握など、OSINT(Open Source Intelligence)技術の活用に改めて注目が集まっています。その一方で、中国テック企業がOSINTの一種である衛星画像分析を用いて米軍の動向を詳細に追跡し、さらにイラン側の反撃時にはそれらの情報が活用された可能性まで浮上しています。こうした動きは、安全保障上の新たなリスクとして、米国内に大きな懸念を広げています。
AIを用いた衛星画像で米軍を追跡する中国企業「MizarVision」
中国・杭州を拠点とするMizarVisionは、衛星画像の分析を専門とするスタートアップ企業です。2021年に設立され、高解像度の衛星画像にAIを使った注釈などを施したうえで、中国のSNS・Weiboへ継続的に投稿しています。
同社は、攻撃開始当日の2月28日、中東の米軍最大拠点であるカタールの「アル・ウデイド空軍基地」の画像を公開し、パトリオット防空システムなどの詳細を明らかにしました。また、航空機や艦船の航行情報などの公開データと衛星画像を組み合わせ、米海軍哨戒機の動向をアラビア海まで追跡しました。その際には「当該機は空母リンカーンの防衛・護衛任務に従事していると推定される」との詳細な分析も付記しています。同社は「中東に配備された武器や装備の場所を迅速に特定し、米空母打撃群の給油パターンを暴露した」とまで主張しました。
X(旧Twitter)上には、同社との関連を示唆するアカウントが存在しますが、独放送局DWが実施したファクトチェックによると、MizarVisionは中国のSNSのみで情報発信を行っており、それ以外はなりすましや直接的に同社とは関連のないアカウントであることが明らかになっています。同社のX公式アカウントも存在しますが、現時点で投稿は確認されていません。同社を騙ったアカウントが、攻撃に関する偽情報を投稿した事例もありました。
イラン軍の標的選定に中国企業のSNS投稿が使われたのか?
米国内で懸念が広がっているのは、MizarVisionがSNSに投稿した施設などの複数が、その後のイランによるミサイル・ドローン攻撃の標的となった点です。
たとえば、前述したカタールの「アル・ウデイド空軍基地」は、作戦開始直後から繰り返し、イラン革命防衛隊(IRGC)の報復を受けています。2月9日に公開した画像では、ヨルダンの「ムワッファク・サルティ空軍基地」に高高度ミサイル迎撃システム「THAAD」が配備されていることを明らかにしましたが、これらは3月1日から2日にかけてイラン側の攻撃を受け、破壊されました。2月27日には、「イスラエルのオブダ空軍基地にF-22ステルス戦闘機が計11機確認された」として、米軍の作戦準備の概要を示す情報を投稿しており、実際に米軍の対イラン攻撃はその翌日に開始されました。
現時点で、これらの投稿と実際の攻撃に直接的な因果関係は確認されていませんが、MizarVisionが公開した情報を実際にIRGCが標的化に活用したかについては否定はできないとする見方が示されています。こうした懸念を受け、米国下院中国特別委員会は、Facebookに「MizarVisionは中東の米軍展開をマッピングしている。中国共産党と関係する企業がAIを戦場監視ツールに転用している。共産党が商業技術を米軍のリアルタイム情報に転用することを許してはならない」と投稿しました。
米軍爆撃機の通信を「傍受した」と主張する中国テック企業
中東の米軍を追跡している中国企業は、MizarVisionだけではありません。同じく中国・杭州を拠点とするテック企業Jing’an Technologyは、イラン攻撃の初期に、米軍B-2ステルス爆撃機が通信している様子とされる音声をSNS上に公開しました。同社は、わずか数日間で100隻以上の米軍艦艇、数十機の米軍機の位置情報を特定・相互検証し、10万件以上の軍事関連の動きを記録したと主張しています。
ただし、同社の主張には大きな誇張が含まれているとの見方が一般的です。B-2ステルス爆撃機は世界で最も探知しにくい軍用機として設計されており、その多くが機密扱いとなっているためです。米調査会社Kharonは、Jing’an Technologyが公開した音声と同じ音声データが、同社がSNSに投稿する前日に、すでにXに投稿されていたことを明らかにしています。
他方で、これらの中国テック企業の動向からうかがえる点もあります。それは、中国が新たな戦争の情報ツールを構築し、さらに米国と競争するために、AIを活用した軍事スタートアップ産業を育成しているという点です。中国は国家戦略として推進する「軍民融合発展戦略」において、民間技術の軍事転用を促進し、新興企業の創設や軍需産業への参画を奨励することで、国内にAI軍事利用のイノベーション・エコシステムを構築することを目指しています。
欧米の衛星画像データを使って米軍を追跡しているのか?
MizarVisionは自社衛星を保有しておらず、AIによって画像の処理・加工・流通のみを行う企業です。そのため、同社が公開する衛星画像の一部には、Vantorなど欧米の商業衛星画像プロバイダー由来のデータが含まれているのではないかとの疑念が生じています。欧米プロバイダーはMizarVisionへの画像提供を否定していますが、第三者を介した迂回調達を防ぐことは容易ではありません。そもそも、欧米プロバイダーは「紛争目的での利用を許可していない」と規約などで定めていますが、最終的に軍事情報へ転用されることを防ぐ規制上の解決策は、現状では存在していません。
さらに、MizarVisionは表向きには民間企業ですが、人民解放軍のサプライヤーとしての規格認証を保有しています。これは、民間企業という外形を維持しつつも、実質的には中国当局による軍民融合発展戦略を体現しているとみることもできます。米国下院中国特別委員会が「中国共産党と関係する企業がAIを対米戦場監視ツールに転用している」と警告したのも、こうした中国テック企業の構造的背景が存在するためです。
公開情報の軍事利用が突きつける新たな安全保障リスク
今回の事例が示しているのは、公開情報と民間技術が、もはや中立的な観測手段ではなく、国家間の軍事対立の中で実際の作戦環境を左右しうる要素になっているという現実です。とりわけ、中国テック企業が衛星画像や公開データを組み合わせて米軍の展開を継続的に可視化していた可能性がある点は、OSINTや商業衛星データが情報収集の補助手段を超え、対米監視や標的補足に接続し得る新たな安全保障上のリスクとして認識され始めていることを示しています。こうした動きは、民間企業が保有・分析・発信する情報が、国家の軍事行動や戦略環境にまで影響を及ぼす時代に入ったことを意味しています。今後は、商業衛星データやAI分析技術の流通と利用をどう制御するのかが、安全保障政策における新たな争点になっていくとみられます。
(大久保 陽一)
May 13, 2026
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