レポート

VR/ARテクノロジーで防災訓練は進化する

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近年、VR(仮想現実)AR(拡張現実)と呼ばれる技術が長足の進歩を遂げ、社会に色々な用途で実装されてきています。防災の世界も無縁ではありません。本稿ではこのVR/ARテクノロジーを解説したうえで、防災の世界にどのように取り入れられているかについて解説します。

VRについて

VRとは、Virtual Reality(仮想現実)の略で、コンピュータで現実に似せた世界を作り出し、人があたかもその世界にいるような感覚を体験できる技術を指します。一般的にはヘッドセットを装着して360度パノラマの画像を見ることで、仮想世界に入り込みます。

我々が気軽に手にできる製品としては、ソニーが販売しているPlayStation VR や、2014年にフェイクスブック社に20億ドルもの価格で買収されたOculusなどが代表的です。

Virtual Realityという言葉が初めて使われたのは、1989年に米国サンフランシスコで開催された展示会で、VPL Researchという会社が出展したシステム「Reality Built for Two(RB2)」においてと言われています。RB2は「未来の電話」というふれ込みで、ヘッドマウントディスプレイと手袋をつけると、目の前の部屋に電話の相手方の分身キャラクターが入ってきて、あたかも実際に対面しているかのように会話ができるというものでした。 MITメディアラボ出身で、このシステムを開発したジャロン・ラニアーは「VRの父」と呼ばれています。

VRを構成するテクノロジーには、コンピュータ科学、通信技術、計測工学と制御工学を含むセンシング技術、認知科学などが含まれます。1990年代初頭の第1次ブームではセンサーの精度が低く、画像表示の解像度も低かったことから、ユーザーの動きと画面表示のズレが起きやすく、いわゆる「VR酔い」と呼ばれる現象が多く発生しました。また、機器も大変高価であったことから、普及には至りませんでした。しかしその後、人間の脳の認知のメカニズムの研究が進むと同時に、スマートフォンの開発競争で上述したセンサーや画像表示の性能も大幅に上がり、現在では機器の価格も含めて実用できるレベルになってきたということができます。

ARについて

一方のARはどのような技術でしょうか。ARとはAugmented Reality(拡張現実)の略で、「拡張」という言葉が示す通り、現実世界で人間が感知する情報に、別の情報を付加することで現実を拡張する技術を指します。VRでは丸ごと仮想世界に入り込むのに対して、ARでは仮想の物体や便利な情報を現実に反映させるのです。ARを活用したプロダクトの代表例は大ヒットした「ポケモンGO」でしょう。スマートフォンの画面内に、現実の風景とポケモンのキャラクターを一緒に映し出し、まるでその場にポケモンがいるかのように感じさせる手法はまさに「拡張現実」と言えるでしょう。

他には、夜空にスマートフォンをかざすことで星座を確認することができるアプリや、町中の風景にかざすとレストランなどの情報が見えるサービスもありますし、TikTokやFaceAppなどで親しまれている、画面上の現実の顔にリアルタイムで加工を施す(メイクアップしたり、アニメの顔を重ねたりする)ようなものも、ARの一種だと言えるでしょう。下記の動画はIKEAの事例です。この機能を使うと、自分の部屋にIKEAの家具を仮想的に設置して、大きさや全体の印象を確認することができます。


防災の世界への応用

こうしたVR/AR技術は、これまでゲームやエンターテインメント、マーケティング用途で使われることが主でしたが、防災訓練での活用が活発化しています。防災訓練は、災害時を想定したシミュレーションを行うことで、いざ発災した際に迅速かつ的確な行動がとれるようにするトレーニングですが、本番さながらの緊張感を持って取り組むのは難しいものです。企業の防災訓練なども、毎年同じようなシナリオに沿って、ビルを階段を使って降り、広場に集まって点呼を行う・・・などマンネリ化、陳腐化してしまっていることが課題として挙げられます。

防災訓練によって、非常口や非常階段などの避難ルートを確認することも非常に大切ではありますが、災害という「非常事態」に対して、心の準備をして整えておくことがより大切です。それには、より臨場感のある訓練を通して災害の恐ろしさを自分ごと化し、防災意識を高める必要があります。ここにVR/ARテクノロジーが活用される素地があります。

実例として株式会社アイデアクラウドが提供するサービス「防災VR/AR」の動画をご紹介します。ヘッドセットとコントローラーを使って消火活動を体験することができ、この他にも地震体験や避難体験のコンテンツも揃っています。


その他いくつかの活用例をご紹介します。

①VR防災体験車(東京消防庁)
防災体験車にこれまで乗ったことがある方は多いと思いますが、東京消防庁の最新の「VR防災体験車」では、360度視界のVR映像を見ながら、煙にむせたり、ガラスが降ってくる音を感じたり、閉じ込められる恐怖を感じたりということを疑似的に体験できます。マニュアルを読んだり、動画を見たりしただけでは伝わりづらい災害現場のリアルな恐ろしさを経験することができるわけです。
(出典:東京消防庁のHPより)

②地震ザブトン+SYNCVR(白山工業)
地震観測装置メーカーである白山工業の「地震ザブトン+SYNCVR」を使えば、任意の地震動記録を入力するだけで、建物や高さに応じたリアルな地震動をVR体験することができます。過去に起きた地震を追体験することもできますが、将来起こりうる大地震をシミュレーションして室内被害の様子などを確認することもできます。
(出典:白山工業株式会社のHPより)

③AR浸水シミュレータ(ウェザーニューズ)
気象情報会社ウェザーニューズが開発したアプリ「AR浸水シミュレータ」では、スマートフォンのカメラ機能を使って、もし浸水が起きたら自分の目の前の景色がどうなるかを見ることができます。浸水の深さは10cm単位で設定可能で、自宅が浸水した状況をシミュレーションすることで、家具のレイアウトや、防災グッズをどこに保管すべきかなどを考えるのに役立ちます。何より、手持ちのスマートフォンで気軽に使えるところが素晴らしい点です。
(出典:株式会社ウェザーニューズのHPより)


VR/ARテクノロジーが実現する「臨場感のある災害現場体験」は、平静時には気づかない避難上の問題点を気づかせてくれ、また従来の防災訓練のマンネリ化を打破し、災害を真に「自分ごと化」して防災意識を高めることに役立ちそうです。他にも、被災地の様子をデジタルアーカイブとして保存しておき、あとからその時その場所を訪れているかのように追体験できるようにしておくことも、災害を風化させないために有用と思われます。今後コンピューティング技術や通信技術の進化に伴って、さらに進化を遂げるであろうVR/ARテクノロジー、エンターテインメントやマーケティング用途にとどまらず、積極的に防災分野への応用を考えていきたいと思います。

(根来 諭)
July 14, 2021

参考情報

VR防災体験車(東京消防庁)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/ts/bousai_fukyu/bousai_vr.html

地震ザブトン+SYNCVR(白山工業)
https://www.hakusan.co.jp/products/eq_simulator/syncvr.html

AR浸水シミュレータ(ウェザーニューズ)
https://www.gizmodo.jp/2020/08/weathernews-ar-flood-simulator.html


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