2024年 地政学リスク動向:揺れ動く世界とサプライチェーン

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2024年が始まりました。今年は元日に最大震度7の能登半島地震が発生し、まさに波乱の幕開けとなってしまいました。まだ大きな余震が続いており、厳しい寒さや地形による制約も相まって、厳しい復旧復興作業が予想されています。この災害によりお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

地震に限らず多発する自然災害、世界中で起こっている紛争、生成AIを始めとしたテクノロジーの急速な進化、物流の世界では「2024年問題」の年を迎えるなど、今年も様々な危機が我々の社会を脅かすと思われますが、この時代をたくましく生き抜くべくご一緒させていただけると幸いです。本レポートでは、地政学リスクにフォーカスして2024年の行方を概観してみたいと思います。

政治を語る上で重要なイベントである選挙。2024年は各国で重要な選挙が行われます。

1月:台湾 総統選挙/立法院選挙
2月:パキスタン 総選挙、インドネシア 大統領選挙/総選挙
3月:ロシア 大統領選挙、イラン 議会選挙
4月:韓国 総選挙
5月:南アフリカ 総選挙
6月:メキシコ 総選挙
9月:スリランカ 大統領選挙
11月:米国 大統領選挙

中でも米国大統領選挙が、今後の地政学的な情勢を決める特に重要なイベントだと考えられます。現在の国際情勢の大きなトレンドを一言であらわすと、「中国・ロシアによるアメリカの覇権、いわゆるパックス・アメリカーナへの挑戦」と言えるのではないでしょうか。米国は近時、シェール革命によってエネルギーの自給体制を確立したことから、中東への関与を弱め、中国・北朝鮮と対峙する東アジアに重点をシフトしてきました。しかしロシア・ウクライナ戦争ではNATOの一員としてウクライナの支援を行わなければならず、さらに2023年10月にイスラエル・ハマス戦争が勃発してからは、イスラエル側に立ちつつ、ハマスとその背後に立つイランと対峙せねばならない状況となり、いわゆる「米中対立」に割けるリソースが限定されているのが現状です。さらに、ベネズエラがガイアナのエセキボ地域領有権を主張して武力行使を厭わない姿勢を見せ、2023年12月に両国は「平和解決」の方向性で合意したものの、(ウクライナの例もあり)予期せぬ武力衝突に発展して米国の介入を必要とする事態になる可能性も無くはありません。

この状況下で、もしトランプ氏が大統領として再登板となり、外交政策をドラスティックに変更するとなると、これまでの各地におけるパワーバランスが一挙に崩れることが予期されます。米国の政治動向と、それが各地で発生している紛争や対立にどのような力学を働かせるのかを見極めていくことが、2024年のカギになると考えられます。特にイランの動きは重要で、ガザでの戦争が収束したあと、対イスラエル・対アラブ諸国でどのような姿勢を取るのか、そしてロシア・中国・北朝鮮と共同歩調をとって米国へのチャレンジを強めるのか、波乱含みの内政も含めて注視が必要です。

こうした情勢の元、日本のサプライチェーンやエネルギー政策にとって重要なチョークポイント(戦略的に重要な海上水路)が2つあります。ひとつは紅海からインド洋につながる「バブ・エル・マンデブ海峡」。もうひとつはペルシャ湾の出口にある「ホルムズ海峡」です。

Spectee Proではサプライチェーンを阻害するインシデント情報をリアルタイムで配信していますが、昨今非常に増えているのがバブ・エル・マンデブ海峡付近における、輸送船やタンカー船に対する攻撃です。それを実行しているのは、イエメンの反政府武装組織「フーシ派」で、イランのバックアップを受けています。

一連の攻撃を受けて、2023年12月中旬には大手海運会社や石油会社が紅海での航行を見合わせる事態となりました。スエズ運河と紅海を経由して欧州とアジアをつなぐこの経路は、世界経済の大動脈であると言え、影響は甚大です。米国主導の多国籍部隊による船舶の保護活動によって一部再開準備が始まっているとされていますが、安全への懸念は強く、この航路を避けてアフリカ最南端の喜望峰を回るルートが選択されることが増加することは間違いありません。これによって、輸送リードタイムの伸長と運賃の上昇が見込まれています。

2023年12月16日 マースクのコンテナ船がフーシ派の攻撃を受けたとの報

また、ホルムズ海峡は、中東の石油や天然ガスといったエネルギー資源が世界に向けて輸出される際の要衝です。2019年にあったように、この付近のタンカーが頻繁に攻撃を受けるようになったり、イランが海峡の封鎖を実行するような事態になれば、日本へのエネルギー供給がたちまち危機に陥ることになります。実際、最近もこの付近での船舶への攻撃は発生しています。

2023年12月23日 アラビア海で商船がドローン攻撃を受けたとの報



今年は、1月の台湾総統選を皮切りに、世界全体で目まぐるしい情勢の移り変わりがあるのではないでしょうか。我々はそれに目を回すことなく冷静にシナリオを分析し、日本の安全保障や企業のサプライチェーンへの影響を見極めていきたいものです。

(根来 諭)
January 10, 2023


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