バングラデシュにおける激しい抗議デモ~その背景は

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南アジアのバングラデシュで、激しい抗議デモが繰り広げられています。首都ダッカを含む全国各地でデモ隊と治安部隊の衝突が繰り返され、地元メディアは、少なくとも150人が死亡したと伝えています。

バングラデシュという国の成り立ち

この抗議デモの背景には何があるのでしょうか。それを知るためには、バングラデシュという国の歴史を知る必要があります。

バングラデシュは南アジアに位置する国で、日本の4割ほどの面積の国土に約1億7千万人の人口がひしめく、人口密度の高い国です。また、国の中央部をガンジス川が流れており、国土の大部分がデルタ地帯に位置しているという特徴があります。 バングラデシュは元々「英領インド」として、現在のインド・パキスタンと一体として認識される地域でした。1947年にイギリスによる植民地支配が終わるとともに、ヒンドゥ教徒が支配的な地域が現在のインドに、イスラム教徒が多い地域が西パキスタン(現在のパキスタン)と東パキスタン(現在のバングラデシュ)に分かれたのです。その後、西パキスタンに政治的な主導権を握られていることを嫌気した東パキスタンは、ウルドゥ語の国語化への反対などをきっかけとして独立闘争に突入。1971年にバングラデシュとして完全独立を果たすのでした。

この独立に貢献したいわば建国の立役者たちは、その後制度的に優遇されることになります。公務員枠の3割を独立戦争従事者の家族に割り当てるという措置もそのひとつです。しかし、独立から既に長い時間が経過した現在において、依然3割もの割り当てがあることに対して反対が根強くあり、政府は2018年に制度撤廃を決定しました。ところが、今年6月に高等裁判所がその決定を覆す判断を示したため、学生を中心としたデモや道路封鎖が勃発し、これが全国に燃え広がっていったのでした。

悲劇の舞台から要注目の国へ

バングラデシュは、いわゆる後発途上国(Least Developed Country: LDC)に位置付けられ、世界でも貧しい国の一つです。これまでもどちらと言うとネガティブなニュースで取り上げられることが多かったように思われます。デルタ地帯に位置することによるサイクロンの甚大な被害(1970年には50万人、1991年には14万人が亡くなった)、2013年に発生した縫製工場の入った商業ビル「ラナ・プラザ」の倒壊事故(1,134人が死亡)、地下水のヒ素汚染によるヒ素中毒の発生、ミャンマーで弾圧をうけたロヒンギャ(ミャンマーに暮らすベンガル系イスラム教徒)難民の大量流入など、悲劇の舞台として記憶されている方が多いのではないでしょうか。

しかしバングラデシュの状況は大きく変わってきています。経済発展は著しく、2026年には後発開発途上国からの卒業が見込まれています。なかでも豊富な労働力とコストの安さから輸出の8割を占めるアパレル産業は(劣悪な労働環境が指摘されるなど問題もありますが)、海外大手小売企業へのOEM生産からスタートし、現在のファーストファッション全盛のなかで製造集積地としての地位を揺るぎないものにしています。世界の工場としての中国で人件費が上昇し、米中対立も激化する状況で、「チャイナ・プラス・ワン」を求める動きが強まるであろう今後も、アパレル以外の産業も含む生産拠点として有力な候補になるはずです。また、その人口の多さと近年における所得水準の上昇から市場としても魅力があります。

地政学な視点から見ても、バングラデシュは南アジアと東南アジアの結節点にあり、日本政府も「自由で開かれたインド太平洋」戦略のもと、インフラ支援を含む関係強化に乗り出しています。また、水害をはじめとして災害に対する脆弱性が高いため、防災分野での協力も有望なのではないでしょうか。後発途上国卒業をバネにさらなる経済発展に邁進するバングラデシュ、今後はポジティブなニュースを耳にする機会が増えるはずです。今回の抗議デモがどのように着地するかまだわかりませんが、過去と決別し、新たな歩みをはじめる契機として記憶されることになるのかもしれません。

(根来 諭)
July 30, 2024


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