データ解析がとらえる気候難民の発生

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気候難民が増加している

中東での紛争、ロシアのウクライナ侵攻、アフリカで続く内戦などを原因として故郷を追われる難民の数が世界的に増加しています。国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、その数は2023年末時点で約1億1730万人にのぼり、全世界人口の約1.4%を占めていることになります。また、そうした紛争・迫害とは別に、進みゆく気候変動の影響を受けて(具体的には干ばつや水害などで)住む場所を離れざるをえない「気候難民」の数も増えており、世界銀行が2021年に発表したレポート「Publication: Groundswell Part 2: Acting on Internal Climate Migration」によると、気候変動により2050年までに2億1,600万人が移住を余儀なくされる恐れがあるとされています。

(出典:World Bank「Publication: Groundswell Part 2: Acting on Internal Climate Migration」のデータより作成)

その対策は

気候変動に対して、国際社会は温室効果ガスの排出削減に向けて協調を始めていますが、その効果が表れるのはまだまだ先のことになるため、目の前にいる気候難民に対して援助活動を行っていく必要があります。具体的な気候難民への援助としては、避難を強いられた人々を受け入れるコミュニティやキャンプを整えることや、救援物資を提供すること、災害ボランティアを育成することなどが求められ、UNHCRのような国際機関の旗振りで進められています。しかし、コスト的な問題もさることながら、その準備には長い時間が必要となることから、タイムリーな援助が行えているかというとそうではありません。

そんな中、環境省「令和4年度気候難民の厚生に資する産官学連携適応国際協力コミュニティ専門家会議」における一連の議論を基に作成された「気候難民の厚生と適応国際協力に関する調査報告書」の分野別報告書である「気候難民や地域紛争の予見に資するデジタル技術の検討」(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社)において、興味深い実証実験の結果が報告されていたのでご紹介したいと思います。この実証実験は、SNSのソーシャルリスニング(投稿された情報をもとにトレンドやニーズを読み取ること)を通して、気候難民の発生を予見できるかどうかを検討したものです。もし気候難民の発生を予見することができれば、国際機関は援助の準備に早く着手でき、困っている人々を適切なタイミングでサポートすることができるようになります。

実証においてサンプルとして取り上げられた過去の難民発生事例は、ソマリア連邦共和国での干ばつです。干ばつは、災害の発生から気候難民が実際に発生するまでにタイムラグがあることから、予兆を読み取ることができるか検証するのに適した災害事象と言うことができます。下記が分析の対象と観点がまとめられた表です。

(出典:「気候難民や地域紛争の予見に資する デジタル技術の検討」(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社))

Twitter(現在のX)と現地報道機関の発信した情報の中に含まれる「drought(英語で干ばつ)」「abaar(ソマリア語で干ばつ)」という言葉、また外国の報道機関と国際機関が発信した情報に含まれる「Somalia/drought」という言葉をカウントしたもの(メンション数)と、UNHCRが発表した気候難民発生数(IDP数:IDPとは国内避難民の意)を比較したものが下記の図になります。

(出典:「気候難民や地域紛争の予見に資する デジタル技術の検討」(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社))

2021年3月に小規模な干ばつが発生してメンション数が増加したあと、4月に小規模な気候難民の発生が見られます。また、2021年10月からは大規模な干ばつが発生してメンション数が11月下旬に大幅に増加し、2022年1月には気候難民が大量に発生しました。気候難民発生の約1か月前にメンションの増加がピークを迎えるという傾向を読み取ることができます。

データ解析で気候難民の発生を予見する

SNSや報道された情報を分析するだけでも、一定の予見可能性があると確認できたことは大変に興味深いです。従来から利用可能であったトラディショナルデータ(公的な統計やマスメディアの報道情報)に加えて、IoTや通信技術が発展するに従ってこれまで活用できていなかったオルタナティブ・データの利用可能性が高まってきています。SNSの情報もオルタナティブ・データのひとつですが、多くの企業が競って打ち上げている人工衛星からのデータや、スマートフォンなどから得られる人流データ、自動車から得られるプローブデータなども今後様々な用途に活用できるようになっていくはずです。

今回の実証実験ではSNS/報道の分析のみでしたが、衛星のデータや人流データなども組み合わせることでもっと精度を高めることができるようになるかもしれません。スペクティもSNSの情報を解析することで「今何が起きているのか」を顧客に届けていますが、過去には衛星からのデータを組み合わせて浸水範囲を推定する取り組みも行いました。衛星による撮影頻度やカバー範囲が広がることで、災害検知の用途でも将来的には活用できるようになるはずです。オルタナティブ・データの解析で社会課題に取り組むことは、今後もより広がっていくでしょう。

(根来 諭)
September 18, 2024


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