2025年、不確実性に満ちた地政学的環境にどう対応するか

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2025年が幕を開けました。多くの人が希望を抱いて新年の到来を祝福し、能登半島が復旧から復興へとシフトチェンジしていく一方で、年末年始には韓国チェジュ航空機爆発事故、米国ニューオーリンズでの自動車暴走、同じく米国ラスベガスのトランプホテル前でのテスラ車爆発事件、モンテネグロでの銃乱射事件など、不穏な事件・事故が多く発生しました。より広く「地政学リスク」という観点で世界を見渡しても、今年は不確実性が高い状態が続くと考えられます。本稿では地域ごとに状況を概観してみたいと思います。

❶ロシア・ウクライナ

やはり人々の関心が高く、国際政治への影響が大きいのはロシアによるウクライナ侵攻の行く末でしょう。ロシア・ウクライナともに損耗は大きい中、ウクライナが逆に侵攻したロシア・クルスク州を巡る戦闘が激しくなっており、近くあり得る停戦時により有利な条件を得ようとする両陣営の思惑が透けて見えます。

どのような帰趨になろうとも、今回の軍事侵攻によってロシアは戦略的には敗北しているとの評価があります。これまでNATOとの間である種の緩衝地帯となっていたスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟。また、ナゴルノ・カラバフ紛争で見放したアルメニアはロシアと距離を取り、飛行機誤射でアゼルバイジャンとの関係も悪化し、その他の旧ソ連諸国もロシア離れを強めています。さらにこれまで影響力を保っていたシリアではアサド政権があっさりと崩壊し、地中海沿岸に保有していた軍港や基地を維持できるか分からず、民間軍事企業ワグネルを通じて強めてきたアフリカへの影響力も失いかねない状況です(リビアに拠点を移す動きがあるという報道もあり)。また、ジョージアでは親露派が政権を握りましたが、民衆による激しい抗議デモが続けられています。まさにこれまで築き上げてきた影響力や国際的な基盤が大きく毀損したと言えるでしょう。

とはいえ、このままロシアが併合を宣言したウクライナ南東部が事実上ロシアに占領され続ける形で停戦となった場合、ロシアが再び軍事力を蓄積してさらなる行動に出るリスクがあることに加え、「武力による現状変更」が事実上容認されることによる他の地域(例えば台湾統一や南シナ海への進出を進める中国)への影響が懸念されます。

❷アメリカ

そのロシア・ウクライナの停戦に最も影響を与えるのは、米国・トランプ次期大統領の動向でしょう。2025年1月20日に大統領就任式を迎えるトランプ氏は、就任後即時に紛争を終結させると豪語しているものの、どのような方法をとるかはまだ不透明です。次期副大統領のバンス氏が主張するようにウクライナ領に非武装地帯が設けられる場合には、事実上のロシアによる占領が続くことになります。

トランプ次期大統領についてはどのように行動するかを予測することが難しいことが最大の問題点と言えます。しかし明確なのは、方向性として「米国がリードする国際協調」という路線から、「自国第一主義のポピュリズム路線」に移行することは間違いなく、大きなコストをかけて他国の紛争に介入する可能性は低くなるでしょう。ビジネスの面でも関税政策の変更で日本企業も大きな影響を受ける可能性があります。覇権国であるアメリカの動向が予測不能であることは、世界全体の不確実性を高める大きな要素と言えます。

❸欧州

欧州も揺れています。米国に安全保障で依存することが難しいという認識のもと、ロシア・ウクライナ停戦後の体制を構築する必要がありますが、各国のスタンスは一枚岩ではなく薄氷の上の結束と言うことができます。反ウクライナ支援を訴えるハンガリー、親ロシア派が大統領に就任したスロバキア、親ロシアの右翼政党が第一党となったオーストリアなどの動きは注目を集めており、またEUの中心的な存在であるドイツとフランスも内政が非常に不安定な状態にあります。対峙するロシアや中国に資源や経済の面で強く依存していることから、そのスタンスを統一することは非常に困難だと考えられ、欧州各国も自国中心主義の色を強めることは十分にありえます(移民排斥の動きが顕著になっていることもそれに拍車をかけています)。

❹中東

中東の情勢は依然不安定で、かつ流動的です。イラン、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、パレスチナのハマスなどで構成されるいわゆる「抵抗の枢軸」は、イスラエルとの戦闘やシリア・アサド政権の崩壊で武器の供給ルートを失うことなどによって確実に弱体化しました。この状況下でトランプ大統領が就任し、イスラエルの強硬姿勢を容認した場合、イスラエルはガザを始めとしてイランを首領とする反イスラエル勢力への攻勢を強める可能性があります。シリアについても、国内の複数の勢力をまとめきれずに、群雄割拠するような状態に陥ってしまう懸念があります。中東情勢の不安定さは、日本企業にはエネルギー価格の変動や海上輸送の安全性の低下という形で波及することが予想されます。

❺東アジア

日本を含む東アジアもこれまでになく不安定な情勢にさらされています。過去30年以上に渡って驚異的な経済成長を果たしてきた中国は曲がり角を迎え、不動産不況や高齢化社会の到来などを理由に閉塞感の強い状況になっています。内政がうまくいかない状況で、外敵を作り出すというのは常套手段であり、反日的な動きや挑発行動が増加する可能性は十分にあります。製造地としての中国、消費市場としての中国を今一度とらえなおす必要が高まっていると言えるでしょう。一方で韓国は尹大統領が戒厳令を発布し、それ以降国政が完全に麻痺している状況です。対峙する北朝鮮の金正恩政権は韓国に対する強硬姿勢を昨年来急速に強めており、朝鮮半島全体が混沌とした状態になっています。




国際社会ではパワーバランスが多極化し、これまで通用したルールや秩序が崩壊している状況にあります。日本は米国などの自由民主主義の価値観をともにする同盟国と協調しつつ、覇権国家が手を伸ばすグローバルサウス各国を味方に取り込みつつ、新しい秩序を形成していかなければなりません。企業活動においては、自社のサプライチェーンをどのように張り巡らすのか、フレンド・ショアリング(friend-shoring:同盟国や友好国など親しい関係にある国に限定したサプライチェーンを構築すること)によってリスクを低減することが求められます。

現在の国際情勢は非常に複雑で、自社への影響についてシナリオを描くことは大変な作業です。国だけではなくテクノロジー企業をはじめとした非国家アクターの影響力も肥大化しています(イーロン・マスクのトランプ政権への入閣も象徴的)。大企業を中心に、インテリジェンス機能・リスク管理機能の強化がここ数年で急速に進んだ印象ですが、それを実行してきた企業としなかった企業で、リスク・マネジメントの面で明確な差が現れる年になるのではないでしょうか。

(根来 諭)
January 08, 2025


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