テクノロジーで挑む山火事対策

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相次ぐ大規模な山火事

岩手県大船渡市、山梨県大月市、長野県上田市などで大規模な山火事が相次ぎ、膨大な面積が焼失するとともに、多くの方が避難を強いられました。特に大船渡市での山火事は10日以上にわたって燃え続け、2900ヘクタールもの面積(市の9%)が焼失する事態となりました。今回は極度の乾燥や強風が特に被害を拡大させましたが、国土の3分の2を森林が占める日本において、山火事はいつどこででも起きえる災禍と言うことができます。

日本における山火事の発生件数は、近年大きく増加しているわけではありません。2018年から2022年の5年間で、年間平均約1,300件の山火事が発生し、年間約700ヘクタールの森林が焼失しています。その中で、大規模な山火事の発生は増加傾向にあるとされています。また、日本において山火事の約7割は1月~5月に発生しており、まだいわゆる「山火事シーズン」は続くため注意が必要です。

世界においても山火事は身近かつ大きな脅威となっています。記憶に新しい米国ロサンゼルス郊外での火事では、実に1万4000ヘクタールという記録的な面積が3週間かけて焼き尽くされ、多くの死者を出しました。米国・世界資源研究所(WRI)によると、2023年には全世界で東京都の面積の50倍を超える約1190万ヘクタールの森林が焼失(下記グラフの茶色部分)し、焼失面積は2001年と比較して約5倍近くに広がっていることがわかります。

こうした山火事の増加には気候変動と人間活動が大きく影響していると言われています。気候変動によって起こることは、高温が続くことや降水量の現象や干ばつによる乾燥状態の継続、延焼につながる強風の発生、植物の育成パターンが変わることによる可燃性の高い植物の増加、永久凍土が溶けることによる可燃性ガスの蓄積や落雷の増加による自然発火の増加などがあり、これらがからみあって山火事の増加につながっています。大船渡市やロサンゼルスの山火事があれだけ拡大したのは、乾燥と強風が重なったことが大きいと考えられてます。また、自然に分け入った人間による放火や不注意による発火、電力インフラ等の事故による発火、森林伐採による乾燥の促進、焼き畑農業など農業火災の増加など、人間活動による影響も無視はできません。

活用が期待されるテクノロジー

山火事対策として非常に重要なのは、山火事の発生をいち早く覚知することです。しかし、人里離れたところで発生する火事を迅速に覚知することは非常に難しく、たまたま発見した一般人からの通報を受けて把握した時点で、火災が拡大してしまっているというケースが多いだろうと推測できます。逆に、火事をリアルタイムで覚知し、早い段階で初期対応が適切に行えれば、大規模な山火事に発展してしまうことを防ぐことができます。そのために、人工衛星によるリモートセンシング、字人工知能(AI)、IoTセンサー、ドローンなどのテクノロジーの活用が期待されます。

まず、人工衛星を利用したリモートセンシング技術は、広範囲にわたる山火事の監視に効果を発揮します。NASAのMODISや欧州宇宙機関(ESA)のSentinel-2などの人工衛星は、異常な熱を検出し、リアルタイムで火災発生を知らせるシステムを構築しています。また、ドイツのスタートアップOroraTechは、小型衛星に赤外線センサーを搭載し、より詳細な火災監視を実現しており、これにより従来の地上監視では難しかった山岳地帯などの火災検知が可能となっています。そして、人工知能(AI)を使うことによって、膨大なデータを解析して山火事の発生リスクを予測することができます。Googleの「Wildfire AI」は、衛星画像と気象データを組み合わせることで、火災の進行方向や拡大範囲をリアルタイムで予測することに取り組んでいます。さらに、機械学習を活用することで、過去の火災パターンを分析して高リスク地域を特定し、リスクが特に高い地域に絞って事前の対策を強化することも有効でしょう。

また、山や森林に設置されたセンサーによって、煙や温度の変化をリアルタイムで検出するIoT技術も有望です。例えば、乾燥度・気温・風速をモニタリングするスマートセンサーは、発火のリスクが高まった際に警告を出すことで、消防当局や自治体が迅速に対応できるようになります。さらに、これらのセンサーからの情報は5Gネットワークを介してリアルタイムでの情報共有を可能にし、迅速な意思決定に貢献するでしょう。そして、ドローンも山火事の監視に重要な役割を果たしています。ドローンは広範囲の森林を巡回し、赤外線カメラや熱センサーを用いて異常な温度上昇を検出します。特に、地上からの監視が困難な山岳地帯や広大な森林での活用が期待されています。

このように、山火事の早期覚知には様々なテクノロジーの活用が試みられており、今後より一層の発展が期待されます。山火事は世界的な課題となっていますが、日本においては特に対応に当たる人員の減少が見込まれることから、積極的なテクノロジーの活用が間違いなく必要になると考えられます。

(根来 諭)
March 12, 2025


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