グローバル・テロリズム・インデックス 2025:イスラム過激主義の脅威

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Global Terrorism Indexは、オーストラリアのシンクタンク「経済平和研究所」が毎年発表する、世界のテロの影響を定量的に評価した指標です。死者数、事件数、負傷者数、被害の深刻度等をもとに163か国・地域を対象にスコア化しているもので、テロの傾向や変化を分析し、政策立案や国際的な安全保障政策立案に活用されています。その最新版のレポートである「Global Terrorism Index 2025」が2025年版が3月5日付で公表されており、本稿ではその内容につき解説したいと思います。

世界全体の概況

レポートによれば、2024年にテロの影響を受けた国は66か国となり、前年度の58か国から増加し、2018年以来最多となりました。状況が改善した国よりも悪化した国の方が多く、45か国で悪化が見られたのに対し、改善が見られた国は34か国にとどまりました。また、2024年におけるテロによる死者数は7,555人で、前年比13%の減少となりました。ただし、2023年にはイスラエルにおいてハマスによる大規模な攻撃があったため、その影響を除いて考えると、前年とほぼ同水準で推移しています。テロの発生件数は3,492件で、前年比3%の減少となりましたが、これは主にミャンマーでの活動が大幅に減少したことによるものです。ミャンマーを除くと、世界全体では8%の増加となっています。

テロ組織別の視点から見ると、最も多くの死者を出したのはIslamic State(IS=イスラム国)で、22か国において1,805人を殺害しました。続いて、JNIM(2017年3月にマリを拠点とする複数のイスラム過激派組織が合併して結成され、サヘル地域で活動しているジハード主義武装組織)、TTP(パキスタン・タリバン)、Al-Shabaab(ソマリアを拠点とするイスラム過激派組織)と続き、この4組織の合計による死者数は4,204人で、前年比11%の増加となっています。

(出典:Global Terrorism Index 2025 P.14)

次に地域別の状況を見てみますと、サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域であるサヘル地域が大きくクローズアップされます。国としてはブルキナファソ、マリ、モーリタニア、ニジェール、チャドなどが含まれますが、この地域でのテロによる死者数は、世界全体の51%を占めており、まさにテロの震源地となっています。中でもブルキナファソは、死者総数の20%を占めています。一方、西側諸国においては、単独犯による攻撃が増加しており(32件から52件へ)、SNSのアルゴリズムによって若者の極端な思想が助長され、オンラインで過激化する傾向が見られます。また、アメリカではパレスチナ・ガザにおける戦争の勃発以降、反ユダヤおよび反イスラムのヘイトクライムが増加しています。

下記の地図は、テロが発生した場所を示したもので、赤色が濃いほど犠牲者が多く、黒丸は特に犠牲者が多かった事件を示しています。特にサヘル地域の西部に集中していることがよくわかります。

(出典:Global Terrorism Index 2025 P.8-9)

イスラム過激主義の脅威

本レポートで特に名を挙げられてテロ組織であるIS、JNIM、TTP、Al-Shabaabが全てイスラム原理主義に根差すところからわかるとおり、2024年に発生したテロによる死者のうちかなりの数がイスラム過激派による犠牲者と言うことができます。グローバルで発生するテロの多くが、依然としてイスラム過激主義を背景とする勢力によって主導されているというのが厳然たる事実です。

最も多くの死者をもたらしたIS(イスラム国)は、一時の勢いを失ったものの、その活動範囲は今や中東にとどまらずアフリカのサヘル地域、南アジア、西側諸国にまで及んでいます。特にイスラム国ホラサン州(ISK)は、過去数年で活動拠点を1カ国から5カ国へと拡大し、プロパガンダも9言語で発信するなど、国際的なネットワークを拡充しています。

このようなにイスラム過激主義が広がりを見せる背景には、国家機能の弱体化、宗教的イデオロギーの政治的利用、そして若年層の社会に対する絶望と過激化のループといったものがあると指摘されます。特にブルキナファソやマリ、ニジェールといったサヘル地域諸国では、政府の統治能力が脆弱であり、貧困や不平等に苦しむ住民の不満が過激派勢力の温床となっています。イスラム過激派は、これらの不満を宗教的言語で包み込み、「神の法」による正義と秩序の回復を唱えて支持を広げていると言えるでしょう。

また、イスラム過激派が台頭する要因の一つには、西側諸国の外交政策の副作用もあります。例えば、アフガニスタンでは米軍の撤退後、タリバンの復権とともに地域の治安は悪化し、イスラム過激派が勢いを取り戻す形となりました。シリアやイラクの混乱も、過激派にとって「革命の場」として機能してきました。これらの動きは、イスラム世界の一部における「西洋の侵略への反発」や、「自国政府の腐敗に対する最後の抵抗」として理解されることもあります。

一方で、西側諸国におけるテロのあり方も変容しています。2024年には、西側でのテロ攻撃が63%も増加し、特に欧州では件数が倍増しましたが、興味深いのは、その多くが単独犯(ローンウルフ)によるものであり、さらに逮捕者の5人に1人が18歳未満の若年層であったという点です。彼らは多くの場合、オンライン上の過激派コンテンツに影響を受けて急速に過激化し、組織的な訓練や命令を受けることなく犯行に及んでいる。このような若年層の過激化現象も、イスラム過激派が展開する巧妙なプロパガンダ戦略の成果と言えるでしょう。TikTokやTelegram、YouTubeなどを通じて、彼らは自己実現の場としての「ジハード(聖戦)」を提示し、疎外感を抱えた若者に帰属意識と英雄的役割を与えます。これはもはや宗教そのものというよりもアイデンティティ危機に付け込んだ洗脳と言えるのではないでしょうか。


このように、グローバルに発生するテロがイスラム過激派に圧倒的に集中しているという構図は、複雑に絡み合った社会・政治・心理的要因の集積だと言えるでしょう。したがって、解決の糸口も単純な軍事介入や治安対策ではなく、若年層の教育・雇用の創出、政治的包摂、宗教的寛容性の回復といった、多角的なアプローチが必要不可欠だと考えられます。


ブルキナファソで2024年12月に発生した、イスラム国による襲撃事件の様子

(根来 諭)
May 07, 2025


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