レポート

地球温暖化により災害が多発する世界・・・我々はその瀬戸際に

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地球は暑くなったのか?

大変暑い日が続きます。一昔前と比べて暑さの質が変わったように感じます。静岡県の浜松市では8月17日、国内最高気温に並ぶ摂氏41.1度を記録しました。 日本は我々の実感通り、暑くなっているのでしょうか? 気象庁のホームページで公開されている過去の気温データを使って、日本六大都市における、1960年8月と2019年8月の平均最高気温を比較したのが下記グラフです。都市によってばらつきがありますが、どの都市でも平均気温は高くなっており、特に東京と横浜は2度以上上がっていることがわかります。

(出典:気象庁・過去の気象データ検索)

一方、米国に目を転じると、砂漠地帯に位置する盆地で海抜マイナス86メートルと、高温になる条件が揃っていることで有名なカリフォルニア州のデスバレーで、8月16日に摂氏54.4度と89年ぶりの高温を記録したとのこと。また、後に詳述しますが、シベリアでも異常な高温が観測されています。温暖化について警鐘が鳴らされて久しいですが、日本に限らず世界全体の気温は上昇しているのでしょうか?

下記グラフは、気候変動に関する米国きっての専門家であるコロンビア大学ジェームズ・ハンセン博士の研究によるものです。左の図は、毎年の地表温度が、「1880年から1920年までの平均」と比べてどれだけ違いがあったのかを表したグラフです。1960年あたりから一貫して上昇基調を示しており、1℃以上の上昇がみられます。右の図は、同じく「1880年から1920年までの平均」と比べた際の月ごとの差を示しています。2016年の前半の気温が非常に高かったことが見て取れますが、2020年6月の気温は史上最高に並び、2020年7月の気温は2019年に次いで史上2番目に高かったようです。

地球温暖化のゆくえ

気温の上昇は地球規模で起こっていると言って間違いないと思われます。原因としては、大都市であればヒートアイランド現象といわれる都市化の影響も多分にあると思われますが、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量増加による影響が非常に大きいと考えられています。

温室効果ガスが、どのようなメカニズムで地球温暖化を促進しているのでしょうか。人間社会は、18世紀の産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を大量に使うことで急速な発展を遂げてきました。しかしそれは、大気中に放出される二酸化炭素(CO2)を飛躍的に増大させるという副産物を伴うものでした。地球の表面の熱は大気を越えて宇宙に放出されていますが、増加した二酸化炭素などの温室効果ガスがその熱を吸収し、放出されるはずだった熱を地球の表面に引き留めている、というのが温暖化の仕組みです。以前は人間の活動が原因なのか、それとも自然の周期によるものなのかという議論がありましたが、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第5次報告書で、人間の活動が温暖化の原因になっている「可能性が極めて高い」と結論づけています。


ここで、北極の状況を見てみましょう。下記は、「2020年3月19日から6月20日の平均気温」が、「2003年から2018年の同時期の平均気温」からどれだけ逸脱していたかを表したもので、NASA(アメリカ航空宇宙局)が発表したものです。赤い部分ほど、平均より気温が高かったことを表しています。まさに異常な高温と言える状態で、図上にあるVerkhoyansk(ヴェルホヤンスク)という北極圏の村では6月20日に38℃を記録したことが大きくニュースになりました(これまでの6月の平均気温は20℃)。このことが現地住民の方の生活や生態系に影響を与えるのは勿論ですが、地球全体にも大きな影響を与えます。地球の気温の調節に重要な役割を果たしている海氷が少なくなり、海面が上昇します。また永久凍土が融解し、中に貯蔵されている炭素が温室効果ガスであるメタンガスとなって大量に放出され、このことがまた地球温暖化を促進してしまいます。

(出典:NASA Earth Observatory)

持続可能な社会へ向けて

筆者の個人的な感想になりますが、これまでは「地球温暖化」と言われてもなかなか自分事としてとらえることが難しかったものが、昨今の気温の高さや、これも温暖化の影響と言われる災害の激甚化を目の当たりにすることで、あらためてその重要性を認識させられています。

我々は文明社会を完全に放棄することはできません。では、人類は温暖化をどの程度食い止めるべきなのでしょうか?産業革命以後の気温上昇を「1.5度」以内に抑えられるかがひとつの基準となります。

世界各国が温室効果ガスの削減を約束したパリ協定では「気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える」と目標設定されました。そして、それを受けてIPCCが取りまとめた「1.5℃特別報告書」によると、産業革命以前からの気温上昇は2017年時点で約1.0 °Cに達しており、温暖化を1.5 °Cに抑えるためには抜本的な改革が必要で、2030年までに2010年と比べて45%前後の温室効果ガス排出量の削減が必要であるとしています。

1.5℃以内に抑えられなかったらどうなるのか・・・下図は気温上昇を1.5℃に抑えられた場合と、2.0℃上昇した場合のインパクトの違いを説明したものです。体感では0.5℃の差はごく小さいものでありますが、通年で地球全体の気温が0.5℃上がるとこれだけの違いが出てくるのです。

(出典:IPCC「1.5℃特別報告書」の概要(2019年7月環境省)のデータよりスペクティ作成)

ところが、各国の削減計画が実現したとしても、目標達成は難しいとされています。IPCCは2018年の報告書で、「早ければ30年に1.5℃に達する」と警鐘を鳴らしました。温暖化は災害リスクを高めます。水害、旱魃、森林火災、感染症の流行・・・防災や危機管理でそれらに備えるのは当然大切なことですが、一方で人間社会が一丸となって、災害リスクを高める温暖化に歯止めをかけることの重要性は明白です。最近ではSDGsという言葉も普及し、持続可能な社会を意識したビジネスの展開や自治体の運営が企図されているところですが、災害が多発する世界に踏み込んでしまうか否か、現在我々はその瀬戸際にいると言えるかもしれません。



ひとつ、「不幸中の幸い」と言えるのは、新型コロナウイルスのパンデミックによって経済活動が停滞し、二酸化炭素の排出量が激減していることです。そのインパクトを計測・研究することで、人間社会が目指すべきより具体的かつ現実的な二酸化炭素排出削減の目標設定ができるかもしれません。


(根来 諭)
August 28, 2020


参考情報

Why Death Valley’s 130 F heat record matters (Mashable)
https://mashable.com/article/death-valley-heat-wave-record/?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+Mashable+%28Mashable%29

米国コロンビア大学の気候変動学者 ジェームズ・ハンセン博士による研究データ
http://www.columbia.edu/~jeh1/

Heat and Fire Scorches Siberia (NASA Earth Observatory)
https://earthobservatory.nasa.gov/images/146879/heat-and-fire-scorches-siberia

IPCC「1.5℃特別報告書」の概要(2019年7月環境省)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

気候危機、なぜ気温上昇「1.5度未満」を目指すのか(オルタナ)
http://www.alterna.co.jp/28634


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