Interos社レポートに見る、サプライチェーン・レジリエンス強化の潮流

  • BCP・危機管理
  • レジリエンス
  • サプライチェーン

サプライチェーン・リスクマネジメントのソリューションを提供している米国のユニコーン企業 (企業評価額10億ドル超のベンチャー企業) Interos Inc社が、サプライチェーンのレジリエンスについて行った調査レポートを半年ほど前に発表しました。

アンケート調査の対象となったのは、様々なセクターの企業・行政組織における、調達・ITセキュリティの意思決定者1,500名です。企業の規模としては大企業が多く、所在地は米国・英国・アイルランド・ドイツ・オーストラリア・ドイツ・フランス・カナダなどいわゆる西側先進国になります。調査は2022年1月から3月にかけて行われました。

本レポートでは、日本企業がサプライチェーンのレジリエンス強化を検討するのにあたって示唆となる点を、ピックアップしてご紹介します。


まず、サプライチェーンに影響を与えるインシデントがどのような頻度で、そしてサプライチェーン上のどの場所で発生したのでしょうか。

下の左図は1年間に発生したインシデントの回数です。平均では3回となっていますが、20%の組織では年間5~8回も発生しています。この1年間は、コロナウイルス感染拡大による工場のシャットダウン、スエズ運河でのタンカー座礁事故、半導体の深刻な不足など様々なインシデントがあり、総発生数は前年同期と比べて増加しているようです。

右図は、サプライチェーンの階層のどこでインシデントが発生したかのグラフです (複数回答で合計160%) 。比較的目が届きやすいTier 1やTier 2での発生は全体の24%。逆に言うと76%のインシデントはTier 3以下で起きていることになります。別の設問(p.15)では、インシデントの種類によりますが、21%~30%の回答者が「Tier 2以下でのインシデント発生について覚知することにつき自信がない」と回答しており、階層が深く進むごとに状況把握の難しさが上がっていくことがうかがえます。

(出典:Resilience 2022 The Interos Annual Global Supply Chain Reportよりスペクティで一部翻訳)

次はインシデントによって発生した損害額についてです。

左図は、サプライチェーン途絶による平均年間損害額で、調査対象が大企業中心であることもあって平均で年間1億8200万ドルにのぼります。これは年間の売上の1.74%に相当します (換言すれば、利益率を1.74%押し下げていることになります)。

そして右図は、インシデント種類別に見る年間平均損害額です。最も多いのはファイナンス系のインシデントですが、インフラ停止や自然災害によるオペレーション上のインシデントがそれに続きます。

(出典:Resilience 2022 The Interos Annual Global Supply Chain Reportよりスペクティで一部翻訳)

次に見るのは「サプライチェーンをどのように変えていくか」についてです。

左図は、今後どのような規模でサプライチェーンの見直しや組み替えを行っていくかについての回答ですが、実に64%の企業が「大規模に(To a great extent)」組み替えると答えており、組み替えないと答えたのはわずか2%でした。現状を変えなければいけないという意思がうかがえます。

また、右図はサプライチェーンを構成する会社数を増やす方向か、減らす方向か訊いたものですが、「会社数を減らす」より「会社数を増やす」と回答したほうがはるかに多いことが見て取れ、複数社購買や分散購買を取り入れることでリスクをヘッジしようとしていると推測されます。

(出典:Resilience 2022 The Interos Annual Global Supply Chain Reportよりスペクティで一部翻訳)

その他のポイントについてまとめます。

  • 86%の回答者が、サプライヤーが特定の地域に集中してしまっていると感じている。サプライベースの多様化が課題として浮上していることが推測されます。
  • サプライヤーの約半数について、reshoreやnearshore、つまり自国内やより近い国からの調達に切り替えることを検討しているとの回答。ロシアのウクライナ侵攻や米中対立といった地政学的リスク事象を受けて、グローバル化の逆回転が発生していることが見て取れます。
  • 「あなたの組織にとってどのようなサプライチェーン・リスクが最も重要ですか?」という質問に対し、ロシアのウクライナ侵攻前に「地政学リスク」と回答したのは24%に過ぎませんでしたが、侵攻後には56%に跳ね上がりました。専門家も可能性が低いと考えていた「軍事侵攻」が起き、リスクが顕在化したことで一気に警戒感が高まったものと思われます。
  • サプライヤーリスクを「常に」モニターしているのは回答者の11%のみ。「週次」が16%、「月次」が35%、「四半期ごと」が25%となっています。
  • サプライチェーンを可視化するような技術を持ち、既にソリューションとして活用しているのは、回答した組織のうち19%のみ。一方、今は活用していなくても、今後1年以内に活用できるようにする意向を持っている組織が77%にのぼります。


サプライチェーンが途絶するリスク事象が多く発生していることから、リスクマネジメントに対する意識は間違いなく上がっており、サプライチェーンの見直しや組み替えの動きが見られます。見直しの方向性としては①リスクを分散するためのサプライベースの多様化、と、②地政学リスクの高まりを受けたreshore/nearshore、の2つが確認できます。

サプライチェーンの可視化については強いニーズがあるものの、階層の深いTier 3以下の部分については、管理工数を割けない零細企業も少なくなく、いかに可視化して管理していくかは引き続き課題となっていくと思われます。

(SN)
November 30, 2022


メルマガ申し込みはこちら

信頼できる危機管理情報サービスとして続々導入決定!

スペクティが提供するAI防災危機管理情報サービス『Spectee Pro』(https://spectee.co.jp/feature/)は、多くの官公庁・自治体、民間企業、報道機関で活用されており、抜群の速報性、正確性、網羅性で、「危機発生時の被害状況などをどこよりも速く、正確に把握すること」が可能です。AIを活用して情報解析、TwitterやFacebookなどのSNSに投稿された情報から、自然災害や火災、事故などの緊急性の高い情報、感染症に関する情報など、100以上の事象を、市区町村、空港や駅、商業施設、観光地周辺といった対象と組み合わせて、「どこで何が起きているか」をリアルタイムに確認できます。

(AI防災危機管理情報サービス『Spectee Pro』)
Share this with: