2024年は選挙イヤー:リスク顕在化のトリガーとなるか
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◆続く重要な選挙
2024年は世界各国で記録的な数の選挙が行われる、史上最大の「選挙イヤー」と言われています。約60ヶ国、人口を合計すると世界の半分近くの人々が(行使するかは別として)選挙権を持つことになります。下記の地図で色がついている場所が、国家・地域レベルでの選挙が行われるところです。
既に終了した選挙として、台湾総統選では与党・民主進歩党の頼清徳氏・蕭美琴氏のペアが当選し、1996年に総統の直接選挙が始まってから初めて、同じ政党が3期続けて政権を担うことになりました。対中姿勢を含めて大きな転換はないであろうものの、同時に行われた議会・立法院の選挙では民進党が過半数を維持できなかったため、難しい政権運営が見込まれます。また、ロシア大統領選挙では、大方の予想通りプーチン氏が圧倒的な得票で当選しました。強権的な政権が継続することが確定し、ウクライナ情勢は依然として出口が見えてきません。
直近で注目の選挙は4月から5月にかけて行われるインド大統領選挙(有権者数は9億人超!)です。中国の経済に黄色信号が灯るなか、世界経済発展のエンジンとしての存在感は増しており、日本の外交戦略「自由で開かれたインド太平洋」構想における重要なパートナーでもあります。事前の世論調査では現首相であるモディ氏が率いる政権与党が圧勝との見立てとなっていますが、同党はヒンドゥー至上主義を掲げているため、イスラム教徒を始めとした少数派との軋轢も聞こえてきます。国際情勢を見る上で重要性が増しているグローバルサウスの盟主として、今後どのような方向に進むのかが注目されます。
◆アメリカ大統領選の行方は
今年に行われる選挙の中でやはり最も注目すべきなのは米国大統領選挙でしょう。再選を目指す民主党のバイデン大統領と野党・共和党のトランプ前大統領が争う、前回選挙と同じ顔触れの選挙戦になることはほぼ確定しています。バイデン氏は高齢であり、健康状態に不安の声がある一方、トランプ氏は前回選挙の際に敗北を覆そうとした罪で刑事訴追されており、裁判と選挙戦が同時に進むという異例の事態です。ロイター通信が今年1月に行った調査では、67%の人が「バイデンVSトランプの戦いはもう見たくない」と答えていることから、有権者の思いも複雑なものがあると思われます。
いずれにしても、覇権国たる米国の大統領選は国家や企業の意思決定に大きな影響を及ぼします。特に「もしトラ(もしトランプ氏が再び大統領になったら)」という言葉に象徴されるように、トランプ氏は過去の経緯なども無視してドラスティックな意思決定をする傾向にあるため、トランプ氏当選のあかつきには色々な意味でリスクが高まるのではないかと考えられます。
◆民主主義の危機
現在、世界中で民主主義が危機に瀕していると言われています。自由選挙がない国や、ロシアのように一見自由投票でありながら強権的な選挙運営がなされている国は別として、選挙権が保証されている自由主義の国においても、社会は選挙を通して経済的な格差や人種などによって深く分断されてしまっています。人々は妥協して協力し合うのではなく、いがみ合うようになっており、フラストレーションがマグマのように溜まっているように見えます。
こうした傾向は、SNSの発達により選挙マーケティングの手法が大きく変わったことがひとつの要因だと考えられています。より個々人にカスタマイズした形で政治上のメッセージが届けられ、それが「自己のアイデンティティと敵対するアイデンティティ」という構図を浮き彫りにしてしまいます。また、「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」と呼ばれる構造がそれをさらに強化しています。さらに、生成AIの進化も脅威です。より高度な偽情報を簡単に流通させられるようになり、感情を刺激するようなコンテンツが社会の分断を深めたり、外国が別の国の選挙結果に影響を及ぼすような工作を簡単に行ったりということが容易に発生し得ます。人類社会はこの危機を乗り越え、「自由と民主主義」という価値を守ることができるでしょうか。
下に示したのは、地政学リスクをモニタリングするプロセスです。
起こり得るシナリオを立てて自社への影響を分析したうえで、リスクを顕在化させる「トリガー」を明確にすることが大切です。選挙というものはまさに、国家の姿勢や方針ががらりと変わる可能性があるイベントであり、自社にとっての地政学リスクが現実として立ちのぼってくるトリガーとなりえるものです。自社を取り囲むリスクとシナリオを検討した上で選挙の行方を見守ることで、地政学リスクに対する感度を高めることができるのでないでしょうか。
(根来 諭)
April 24, 2024
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