2026年危機管理展望:改めて求められる「レジリエンス」

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アメリカ軍がベネズエラに大規模な武力攻撃を行い、ニコラス・マドゥロ大統領とシリア夫人の身柄を拘束するという衝撃的なニュースとともに幕を開けた2026年。国際情勢は混迷を極め、世界は従来の冷戦後の秩序が完全に崩壊し、予測不能性がますますその度合いを強めていると感じます。かつてのような単一の超大国が指導する一極構造でもなければ、米ソ冷戦時代のような二極構造でもありません。覇権を争う大国、地域での優位性の確立を目論む各国、そしてグローバル企業やデジタルプラットフォーマーといった非国家主体がそれぞれの思惑で動き、さらにそこに気候変動による物理的な脅威やサイバーリスクなどが複雑に絡み合う「無極多次元」の時代へと移行したと言えるでしょう。

この新たなカオスとも言える状況において、危機管理の概念は根本的な見直しを迫られています。もはや単なるリスク回避やBCP(事業継続計画)の策定だけでは不十分であり、組織、国家、そして個人には、危機そのものを新たな成長の機会と捉え、しなやかに対応する「レジリエンス」(※)の思想が不可欠となります。本稿では、2026年の国際情勢、デジタル、そして自然環境がもたらす主要なリスクを展望し、来るべき危機管理のあり方を考察します。

(※)レジリエンス=困難な状況に直面しても、折れることなく適応し、しなやかに立ち直る力

1.国際社会は無極多次元へ:秩序の崩壊と日本の針路

2026年の国際社会は、従来の「リーダー不在」状態からさらに進み、「無極化」が進んでいます。冷戦終結後、米国が主導した自由貿易と民主主義を規範とする国際秩序、すなわち「20世紀モデル」は、2020年代半ばまでにその求心力を大きく失いました。米国の内向き志向の強まりは顕著で、国内の政治的分断と経済格差の拡大は、外交政策における一貫性を損なわせ、同盟国へのコミットメントを不安定化させています。かつてのような「世界の警察」としての役割は完全に放棄され、同盟国に対しては一層の自助努力とコスト分担を要求する姿勢が鮮明になりました。これにより、日本を含むアジア地域は、自国の安全保障に対する戦略的自律性を高める必要に迫られています。さらに、米国自身が自国の経済的・技術的利益を最優先する保護主義的政策を強化し、国際的な通商ルールや多国間協調の枠組みから距離を置く傾向にあります。これは、戦後日本が依存してきた「自由で開かれた国際経済システム」の前提が崩壊したことを意味します。

米国が閉じこもる一方で、ロシアと中国が目指した権威主義的な秩序の拡張も、2026年までにその限界を露呈しつつあります。ロシアは、ウクライナ侵攻後の長期的な経済制裁と国際的孤立により体制の疲弊が表面化しています。指導部の求心力低下は内部の不安定化につながり、核戦力を持つ国家の内部混乱という最も予測不能で恐ろしい地政学的リスクを生み出しています。中国もまた、経済成長の鈍化、少子高齢化、そして不動産バブル崩壊後の構造的な不況という内部的な問題に直面しています。習近平政権下で強まった中央集権的な統制と「戦狼外交」の反動として国際社会の警戒心は高まる一方であり、経済的な相互依存を背景とした「デカップリング(分断)」及び「デリスキング(リスク低減)」の動きが加速しています。中国の権威主義体制が衰退する過程では、台湾海峡や南シナ海における偶発的な軍事行動のリスクが高まります。

このような情勢で、日本がとるべき指針は「戦略的自律性の確保」と考えます。具体的には、多層的な安全保障ネットワークの構築が求められます。日米同盟を基軸としつつも、インド太平洋地域(ASEAN、インド、オーストラリア)やヨーロッパ諸国との防衛・経済協力関係を深化させ、安全保障のリスクを分散させる必要があります。また、経済安全保障の徹底も重要です。特定国へのサプライチェーン依存を解消し、AI・半導体・バイオといった戦略的に不可欠な技術の国内基盤を強化する必要があり、官民挙げた取り組みが進んでいくことが期待されます。

2.情報空間の危機

物理的な地政学リスクに加え、2026年の危機管理では、情報空間における非国家主体、すなわち巨大デジタルプラットフォーマー(GAFAMなど)がもたらすリスクへの対応が不可欠です。最も深刻な問題として、民主主義を揺るがすアルゴリズムの暴走が指摘されています。プラットフォーマー各社が採用するレコメンドアルゴリズムは、ユーザーのエンゲージメント(滞在時間やクリック数)を最大化するように設計されているため、過激な意見やいわゆるフェイクニュースを優先的に拡散してしまうという構造的な問題を抱えています。2026年の選挙や社会運動では、AI技術(特に生成AI)を用いたディープフェイクとプラットフォームのアルゴリズムが結合し、特定の社会集団や政治家に対する信用を短時間で完全に失墜させる「情報テロ」が日常化するリスクがあります。国家はプラットフォーマーにデータや情報の透明性を求めつつ、表現の自由とのバランスを取りながら、情報空間の健全性を守るという極めて難しい課題に直面するでしょう。

さらに、AIエージェントの普及が新たな危機管理の領域を生み出しています。AIエージェントとは、人間から指示を受けなくても、自ら状況を判断し、目標達成のために行動を実行できるソフトウェアやシステムのことを指します。例えば、金融市場での自動取引、サプライチェーン(供給網)の最適化、あるいは顧客からの問い合わせへの自動対応などを、人間の監視なしに行うAIがこれにあたります。これらのAIエージェントが広範な活動を担うようになるにつれて、その予期せぬ行動がシステム全体のリスクとなります。AIは、学習に使用したデータセットには含まれない、予期せぬ特殊な状況に遭遇すると、予測不能な、あるいは誤った行動を取り、システムを破綻させることが、実験や過去の事例で示されています。もし、複数のAIエージェントが相互に複雑に作用し合う金融システム内で意図せず「暴走」した場合、その混乱は単一の企業にとどまらず、グローバルな経済危機を引き起こしかねません。

また、「サイバーセキュリティの国家化」が進んでいることも脅威です。サイバー攻撃はもはや単なる犯罪行為ではなく、地政学的対立の一環としての国家レベルの軍事・情報活動となっているためです。2026年には、電力、通信、金融といった重要インフラに対する国家支援型のサイバー攻撃が、現実世界での物理的な損害をもたらすハイブリッド戦争の主要な戦術となるでしょう。危機管理の主体は、企業の情報システム部門から国家安全保障部門へと移行しており、官民連携によるリアルタイムの脅威情報共有と、攻撃を前提とした「回復力優先」のセキュリティ体制への転換が求められています。

3.自然災害の多発:気候カオスへの適応

2026年、気候変動はもはや将来のリスクではなく、既に現行の危機となっているのが現状です。危険水域とされた「産業革命以前の時代と比べて世界平均気温1.5度上昇」が常態化し、水害や異常気象が世界各地で頻発しています。また、単発の災害ではなく、熱波によるインフラの機能停止、豪雨によるサプライチェーンの寸断、そしてそれに伴う感染症の拡大といった、複数のリスクが同時に発生する複合災害のリスクも高まっています。

自然災害の多発は、グローバルに最適化されたジャストインタイム(JIT)方式のサプライチェーンの脆弱性を決定的に浮き彫りにしました。特定地域での生産停止が世界中の最終製品の供給に影響を及ぼすリスクが許容範囲を超えているのです。企業は、サプライチェーンのローカライズとレジリエンス強化のため、生産拠点の地理的な分散、戦略的な安全在庫(バッファ)の確保、そしてローカルなサプライヤーとの連携を強化するローカライズの動きを加速させる必要があります。これは、単に製造・輸送コストの効率を追求するのではなく、レジリエンスへの投資を行うという経営判断が求められることを意味します。

さらに、「気候難民」と地政学リスクの交差という新たな問題も発生しています。食料生産の不安定化や居住地の水没など、気候変動は世界各地で気候難民を生み出します。これらの難民の移動は、国境を越えた人道危機、資源をめぐる紛争、そして受け入れ国における社会的な緊張を高める要因となります。自然環境の危機が、直接的に地政学的な不安定性を増幅させるという新たな交差リスクへの対応が、国際社会に求められています。気候危機はまさに「気候カオス」として顕在化し、我々にとって大きな脅威となっています。

4.危機管理のあるべき姿は:レジリエンスの統合

2026年の無極多次元的な危機に対応するため、危機管理のあり方は、従来の「リスク回避型」から「レジリエンス統合型」へと根本的に進化していく必要があります。

もはや危機管理を、特定の部署(総務部、BCP担当部署など)や特定の省庁だけの問題として扱うことは不可能です。企業レベルでは、危機管理を経営戦略の中核に据える必要があります。自然災害リスク・地政学リスク・デジタルリスクなどを横断的に評価し、企業のレジリエンス向上を目指すファンクションが新たに必要となるでしょう。国家レベルでは、外交・防衛・経済・科学技術・環境の各省庁が連携し、「全省庁アプローチ」で複合リスクに対応する必要が一層高まります。特に、情報セキュリティと経済安全保障を一体化させた司令塔機能の強化が不可欠だと考えられます。

投資家と市場は、企業の財務情報だけでなく、非財務情報を通じて企業の真の価値を評価する傾向を強めています。2026年以降、「レジリエンス」は、この非財務情報の主要な指標となるでしょう。企業は、サプライチェーンの強靭度、災害発生時やサイバー攻撃を受けた際の平均回復時間、従業員の危機対応訓練レベルなどを見える化し、投資家に対して積極的に開示する必要が出てくる可能性があります。レジリエンシーの高い企業は、資本市場においてリスクプレミアムを低く抑え、長期的な資金調達で優位に立つことができます。すなわち、レジリエンスの訴求が直接的な企業価値の向上につながるのです。

また、最終的に危機に対応するのは、アルゴリズムでもシステムでもなく、その危機に直面した個人と組織の変革能力です。従業員が、予期せぬ混乱や失敗をネガティブに捉えるのではなく、そこから学び、新たな解決策を生み出す「心理的レジリエンス」を組織全体で育成しなければなりません。また、危機下では完璧な情報や計画は存在しないため、不確実性の高い状況下で素早く情報を収集・分析し、迅速かつ段階的に意思決定を下す組織構造とリーダーシップが求められます。

結論:危機を創造の源泉へ

2026年の世界は、既存のパラダイムが通用しない、まさに「危機」そのものの時代と言うことができるでしょう。国際秩序の崩壊、情報空間の不安定化、そして気候カオスは、それぞれが独立したリスクではなく、相互に増幅し合う要素です。

この時代を生き抜くためには、もはや受動的な「防御」ではなく、能動的な「適応と創造」の思想、すなわち「レジリエンス」を国家と企業の哲学の中核に組み込む必要があります。危機を避けようとするのではなく、危機を組織の変革とイノベーションの源泉として捉え直すこと。これこそが、2026年以降の危機管理の最終的な到達点と言えるでしょう。

(根来 諭)
January 07, 2026


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