全固体電池がもたらす安全で便利な世界

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◆発火の危険が高いリチウムイオン電池

スマートフォン、モバイルバッテリー、ワイヤレスイヤホンなど様々な機器に組み込まれ、我々の生活に欠かせないものとなったリチウムイオン電池。しかし一方で火災発生件数も増加しており、東京都の調べによると、平成29年には56件だった東京都におけるリチウムイオン電池を原因とする火災件数は年々増加し、令和3年には141件にのぼっています。

なぜリチウムイオン電池は発火するのでしょうか。電池に強い衝撃がかかって破損したり、劣化することによって、正極と負極が短絡(いわゆるショート)を起こしてしまうのが発火の主な原因ですが、特にリチウムイオン電池に使われている電解液は発火・爆発の危険性が高い物質であることで、大きな火災につながってしまいます。例えば、アルカリ電池やマンガン電池といったいわゆる乾電池では、電解液に水系の溶媒が使用されており引火することはありません。

また、急速に普及が進んでいる電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)での発火事故も相次いでいます。炎上の原因は様々ですが、それを鎮火する難しさも指摘されています。一旦消火できたしても、自己発熱が続きやがて再度発火してしまうため、大量の水で長時間放水しなければならないという問題点があります。米国運輸安全委員会(NTSB)の報告書によると、通常の自動車火災では数千リットルの放水で済むところ、カリフォルニア州で2017年に起きたEV火災では20,000ガロン(約76,000リットル)の水を使用したとのことです。

また、輸送中のリチウムイオン電池の発火も後を絶ちません。2010年代にはリチウムイオン電池の発火が原因と推測される貨物飛行機の墜落事故が多く発生しました。また直近では、2023年7月26日に北海のオランダ沖で、498台のEVを含む3,783台の自動車を積んだ運搬船にて火災が発生しました。このように、リチウムイオン電池は我々の生活を飛躍的に便利にしてくれている一方で、火災や爆発といったリスクをもたらしてもいるのです。

オランダで沖での自動車運搬船火災

◆待たれる技術的ブレークスルー

こうした問題点を乗り越えるようなブレークスルーが、電池の世界において待ち望まれていますが、いま俄かに注目を集めているのが「全固体電池」です。全固体電池とは、一言でいうと、従来のリチウムイオン電池で使用される液体の電解質を個体の電解質で代替したものです。

従来のリチウムイオン電池の電解質は、発火・爆発の危険がある有機溶媒が使われているため、二重三重の安全対策が必要であるとともに、事故が発生した際の対処が前述のように困難になるという特徴があります。この電解質を個体にすることによってどのようなメリットが得られるのでしょうか?

  • 液漏れの危険がなく、構造や形状を自由にすることができる
  • 多少の傷がついても問題なく、変質しないために寿命が長く、環境変化に強い
  • 多層化によって、小型かつ大容量化が可能になり、超急速高速充電することができる

このようにメリットが非常に多く、実用化されれば我々の生活を一段と便利にかつ安全に変えてくれそうだと期待できます。現在全固体電池に注目が集まっているのは、技術的に成熟してきていることに加えて、トヨタ自動車が「トヨタテクニカルワークショップ2023」において、全固体電池の2027年~2028年での実用化を目指していると発表したことの影響も大きいかもしれません。同社は今月、数年以内に全固体電池搭載EVを全世界で投入する方針を明らかにしています。

新しい技術が世の中に普及する過程において、技術が確立することと量産化の間には大きな壁が立ちはだかっています。現在使われている構造のリチウムイオン電池も、原理自体はずっと前に発明されていたものの、1991年にソニーが量産化技術を確立したことによって爆発的に普及することになりました。EVの時代にも覇権を保とうとするトヨタ自動車の技術開発動向によって、一気により安全で便利な世の中が到来するかもしれません。

(根来 諭)
January 17, 2023


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