レポート

気候変動リスクの高さを指摘される自動車業界、そして注目すべきESGリスク

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2022年8月26日、国際環境NGOのグリーンピースの東アジアにおける支部「Greenpeace East Asia」(以下GEAとします)が、「Over 90% of Toyota Manufacturing Facilities at High Risk due to Climate Change (トヨタ自動車の生産拠点の90%以上が気候変動により高リスクな状況にある)」と題するレポートを発表しました。このレポートは、GEAがMoody’s ESG Solutions のデータベースをもとに独自の分析を加えて作成されたものです。


これによると、トヨタ自動車の生産拠点の93%が気候変動による高リスクにさらされており、特に「高温」「水ストレス」「ハリケーン/台風」の3項目でリスクが顕著であったとのことです。しかしこれはトヨタ自動車に限ったことではなく、グローバル自動車製造業者の44%が高リスクに直面しているとしています。下記はMoody’s ESG Solutionsが6つの気象災害リスク(洪水、高温、ハリケーン/台風、海面上昇、水ストレス、山火事)及び社会経済学的リスクに基づいて算出した「オペレーションリスク」で、欧米の会社群を差し置き、1位から3位を日本の自動車メーカーが占めているところが気になるところです。

(出典:Greenpeaceレポートをもとにスペクティ作成)

次に、下記円グラフは、GEAがトヨタ自動車のウェブサイトから情報を得て作成した、生産拠点の立地についての円グラフです。中国を含むアジア太平洋、そして北米、日本で全体の80%を占めます。一方、少し古い数字になりますが、国際赤十字の調査によると2008年から2017年の10年間における自然災害損害額は、1位が米国の5,350億ドル、2位が中国で3,190億ドル、3位が日本で2,470億ドルとなっています。トヨタ自動車の生産拠点は、欧米のグループと比較して自然災害のリスクが高い場所に立地している可能性が考られ、この構造が日本の自動車メーカーのオペレーションリスクが高く出てしまっている原因だと推測されます。

(出典:Greenpeaceレポートをもとにスペクティ作成)

グリーンピースは以前よりトヨタを厳しく批判しており、2021年11月に発表した報告書でもトヨタ自動車を最下位に位置づけていました。今回紹介しているレポートでも、TCFD (気候関連財務情報開示タスクフォース)の求めに対して十分な情報公開をしていないとして、トヨタ自動車を指弾しています。

(出典:Greenpeaceのブログ「https://www.greenpeace.org/japan/nature/story/2021/11/04/53493/」)

◆得られる教訓は

近年、世界各地で洪水・熱波・大規模な山火事といった異常気象が頻発し、サプライチェーンや物流を阻害する要因として問題意識が高まってきています。自動車業界は、その産業規模やグローバルに張り巡らされた供給網・販売網の広さから、地球規模の問題である「気候危機」の影響を強く受ける業界であると言えます。気候危機と戦うには「緩和」と「適応」の二面が必要です。すなわち、動力源をクリーンエネルギーに転換したり、温暖化ガスの排出を生産・物流・販売の過程でなるべく抑えることによって気候変動の振れ幅を「緩和」することと、異常気象が多くなった世界でも事業を継続できるレジリエンスを体得して環境に「適応」することが必要です。自動車業界は、その先頭に立つことが求められているのではないでしょうか。

また、ESGリスクが新たなリスクとして浮上していることにも注目すべきです。ESGとは、Environment (環境)、Social (社会)、Governance (ガバナンス)の頭文字で、売上や利益と言った財務的な指標とは別に、非財務的な側面から積極的に企業を評価しようという動きです。特に欧米では、投資の意思決定においてESGの点からの評価(気候変動下においても事業を継続できるのか、人権を侵害するようなオペレーションはしていないか、など)が重みを増しており、十分な実践と情報開示ができていないことで資金調達力を低下させてしまったり、取引先から取引を停止されてしまうリスクがあります。CSR (企業の社会的責任)が、主に企業による自発的な取り組みであるのと異なり、ビジネスに直接影響があることがポイントです。また、消費者の意識が高まっていることから、商品選びの基準にもなっていくでしょう。

グリーンピースのような国際環境NGOや、Moody’sに代表される格付け機関は、これからもESGの視点から企業を厳しく監視し、評価していくでしょう。自動車業界に限らず、企業は今後、気候変動などの社会課題に対して寄り添った事業運営を心掛ける必要があります。

(根来 諭)
August 31, 2022

参考情報

Over 90% of Toyota Manufacturing Facilities at High Risk due to Climate Change: Greenpeace
https://www.greenpeace.org/eastasia/blog/7536/over-90-of-toyota-manufacturing-facilities-at-high-risk-due-to-climate-change-greenpeace/


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