【書籍紹介】テクノソーシャリズムの世紀: 格差、AI、気候変動がもたらす新世界の秩序

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我々は今、歴史の転換点にいるのかもしれません。

日本を含む先進国は、民主主義と資本主義という2つのイデオロギーをエンジンとして発展を遂げてきました。しかし、そのどちらもが限界を迎えているように感じられてなりません。人間の尽きない欲望をエネルギーとした資本主義は、短期的な利益を追求して地球環境を破壊し、世界の上位1%の人間が世界全体の個人資産の37%を占める(世界不平等研究所 2021年発表)一方で、絶対貧困ライン(1日1.9米ドル)以下で暮らす人が全世界で6億8500万人いる(世界銀行推計)という大きな格差を生み出しました。また、民主主義政治は、SNS時代において国民の分断がいよいよ広がり、合意の形成が難しくなっています。そこに甘い言葉で支持を集めるポピュリズム政治や、ナショナリズムを煽る極右勢力が台頭するなど、国民の幸せを実現するために政治が十全に機能しているとは言えない状況です。

そんな中、本書はテクノロジーが社会を決定づける「技術決定論」に基づいて、これからの未来社会を展望していくものです。著者たちのシナリオでは、気候危機・AI(人工知能)を決め手の要素としながら、4つの世界を描いて見せます。

(出典:本書中の図を一部改変して作成)

●新封建主義

現在のような格差の拡大に歯止めがかからず、世界経済は停滞しながらも、ごく一握りの富裕層が大半の富を占有する世界です。富める者と貧しい者の分断は頂点に達し、世界中で革命の試みや激しい抗議運動が繰り返し起こり、社会を支える中間層が細っていきます。富裕層は外界と隔絶されたゲートの中に住み、進化したバイオテクノロジーで長寿化を実現し、物質的な豊かさを享受する一方、貧困層は失業・飢餓・疾病に恒久的に苦しめられます。

●ラッダイト世界

ラッダイトとは、産業革命さなかのイギリスで起こった機械を破壊する運動です。機械を導入が進むことで家内制手工業の職人が失業の脅威を感じ、打ちこわし運動につながりました。現在もAIの進化によって人間の仕事が奪われるのではという「AI脅威論」が見られますが、このようにテクノロジーの進化を味方につけるのではなく、脅威ととらえて拒絶する世界がラッダイト世界です。気候変動対応をはじめとした様々な危機への対応ができず、経済発展は阻害され、海面上昇・食糧不足などの問題が人間社会を襲います。

●失敗世界

テクノロジーを活用することも、国際協調を実現することもできず、資本主義社会の暴走や異常気象の多発によって経済が崩壊。先進国の中でも政治的な混乱が発生する一方、気候変動の影響を受けた人口の大規模な移動や、希少な資源を巡る紛争が多発するのが失敗世界です。

●テクノソーシャリズム

テクノロジーの進化と国際的な協調によって気候変動への適応がうまく進捗し、また社会が高度に自動化されることによってほとんどの人間労働は代替される世界です。医療・教育・食料・住宅・エネルギーといった人間が生きる上で必要なインフラストラクチャーや基礎的なサービスは、貧富の差にかぎらずユビキタスかつ低コストで利用可能になります。資本主義に適切な修正が加えられ、利益のみを追求するのではなく地球環境や社会のサステナビリティが同時に確立されます。



テクノソーシャリズムは、一見するとテクノロジーを妄信するユートピア論に聞こえるかもしれません。しかし一方で、気候変動を始めとする危機を人類が乗り越えていくのに、テクノロジーの進化が欠かせないことは事実です。AI、ブロックチェーン、宇宙への進出、再生医療・・・次々と現れる新しいテクノロジーをいかに飼いならし、より良い世界になるよう活用していく姿勢が不可欠ではないでしょうか。テクノロジーで社会の自動化が進み、「スマートシティ」や「Society 5.0」いったコンセプトが実現することで、ベーシックインカムのように、まず働かずとも人間として文化的な生活が送れる土台を用意することができれば、格差は大きな問題にはならなくなるでしょう。

また、テクノロジーと共に、本書では国際的な協調の必要性が説かれます。この点については「気候変動」はピンチであるとともにチャンスととらえられることが出来るのではないでしょうか。これほど地球全体・人類全体に共通する切実な課題はありませんでした。気候変動というテーマのもとに、国際社会が一致団結して対処する成功体験を持つことができれば、次世代へ引き継げる何よりの財産になるのではないでしょうか。

そして、民主主義のアップデートにもテクノロジーが活用できる可能性があります。台湾では、vTaiwanという合意形成プラットフォームの実装を進めています。これは、デジタル技術を活用し、特定の課題について国民に情報を供給して教育するとともに、同時にオンラインで草の根レベルまでの合意形成に到達する方法です。選挙で選ばれた個人による代議政治から脱却できる可能性を秘めています。

不確実性が高まっている21世紀、ポスト資本主義・ポスト民主主義を見すえた社会に関する議論と、テクノロジーの活用が進むことを望みます。

(根来 諭)
June 21, 2023


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