グローバル課題・森林火災に「AI×人」で挑む

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森林火災は、日本を含め世界中で起こりうる自然災害の一つです。

2019年には世界各地で大きな森林火災が発生し、特にオーストラリアやアマゾンでの森林火災は大きく報道され、記憶に新しいところです。オーストラリアでは焼失面積は実に推定約17万平方キロ(日本の国土面積の半分近く)に及び、焼け出されたコアラの映像に胸を痛めた方も多かったと思います。

この森林火災、近年は地球温暖化や気候変動(高温化や降雨量減少)により大規模化・長期化する傾向が見られます。世界気象機関(WMO)も、北半球や北極圏が異例の高温乾燥状態に陥っていることと森林火災の多発を関連付けて報告しています。つまり、森林火災は、今後も地球規模で増加することが予想される、人類にとっての課題という事ができます。

森林火災の好発地帯としては、米国カリフォルニア州が挙げられます。カリフォルニア州では、春から秋にかけて非常に乾燥し、風も強く、気温も高くなることから毎年大規模な火災に苦しめられています。特に「ディアブロ・ウィンド」と呼ばれる強風が春と秋を中心にカリフォルニア北部を襲い、森林火災に拍車をかけます。これは、アメリカ大盆地に発生した高気圧から吹き出した風が、シエラネバダ山を越え、フェーン現象を起こし、高温となって吹き降りるものです。また、過去100年でカリフォルニア州の夏の気温は1.4度上昇したとされ、それが21世紀に入ってから大規模な火災が多発している要因と見られています。

forest fire
(カリフォルニア州消防局のページ)

そのカリフォルニア州にあるスタンフォード大学の生態水文学者、アレクサンドラ・コニングス氏が2020年5月21日、注目すべき発表を行いました。どのエリアで森林火災のリスクが高いのかを予測することはとても大切ですが、これまでは森林や低木地帯で枝や葉を手作業で集めて、その水分量を調べるという方法で行われていました。当然、広大なカリフォルニア州を網羅的に調査することは不可能です。コニングス氏たちの研究グループが開発した予測方法は「人工衛星の画像」と「人工知能による機械学習」を組み合わせた画期的な方法です。

衛星画像による観測は以前からも行われていたものですが、この研究グループが使用したのは欧州宇宙機関(http://www.esa.int/)の持つ人工衛星センティネル。この人工衛星は従来からある光学センサではなく、「synthetic aperture radar(合成開口レーダー)」という種類のレーダーを持ち、特に周波数の長い電波を使うことで、雲や森林を突き抜けて、地表の状態を観測できるものです。そうして2015年から収集した239地点の画像と、米国林野局が手作業で計測した水分含有量データを人工知能に機械学習させ、画像の様々な特徴と地上の測定値との相関関係をはじき出すことにより予測を実現しました。

SAR

2016年から2019年の地表の水分含有量に関するデータは、インタラクティブなウェブサイト”Live Fuel Moisture Content Maps”にて公開されています。今後はこれを発展させる形で森林火災のリスクの高まりや、火災が起きた時に影響を受けるエリアなどの予測ができるようになれば、カリフォルニア州消防局の仕事は今よりずっと容易になるはずです。


アレクサンドラ・コニングス氏の発表の中に印象的な言葉がありました。

“AI with a human assist (人工知能と人間によるアシスト)”

これは危機管理情報サービスを提供するスペクティにおいても大切にしているコンセプトです。人工知能はとてもパワフルで、これまで不可能だったことを可能にしてくれれるツールです。しかし、人工知能も万能ではなく、人間にしかできない領域も沢山あります。真に有用なソリューションを生み出すには、人工知能と人間の能力を組み合わせることが現時点での最適解だと考えています。


(根来 諭)
June 5, 2020

参考情報

Tracking the tinderbox (Stanford News)
https://news.stanford.edu/2020/05/21/mapping-dry-wildfire-fuels-ai-new-satellite-data/

Live Fuel Moisture Content Maps
https://kkraoj.users.earthengine.app/view/live-fuel-moisture

取り上げた研究に関するより詳しい論文
Remote Sensing of Environment (Krishna Rao, A.Park Williams, Jacqueline Fortin Flefil, Alexandra G. Konings)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S003442572030167X#f0010


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