レポート

Citizenアプリが目指す「治安維持の民主化」と「犯罪対策の共助」

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世界でも有数の安全な国である日本から、海外に出張や赴任をした際に気になるのは「治安」の問題です。足を踏み入れない方が良いエリアが明白な都市もありますが、見知らぬ土地でそうした情報を手に入れることが難しいケースも多いと思います。

米国では、ニューヨーク発の「Citizen」というスタートアップ企業が、同名のモバイルアプリ(Android/iOS)を提供しています。このアプリをインストールしておくと、米国の60の都市とエリアにおいて、「〇〇で発砲事件」「〇〇で火災が発生中」などの形で、自分の身近でリアルタイムに発生している事件・事故の通知が届き、地図の上でも確認することができます。同社ウェブサイトで公開されているウェブ版で、どのような内容を知ることができるのか確認することができます。

(出典:https://citizen.com/)

情報源は、ひとつには911(日本の119番に相当)や警察の無線通信をキャッチして、Citizenのオペレーターが確認をした上で発信するものに加え、現場に居合わせたユーザーによる報告を取り込んでいることが特徴です。また、ユーザーによる中継映像配信や、動画・写真の投稿、コメントの書き込みも可能であり、まさにシチズン(市民)による集合知を活用したサービスと言えます。

こうした一般市民の情報を活用できるようになった背景には、スマートフォンの普及があります。スマートフォンの登場以前は、情報をキャッチした報道機関の記者が現場にかけつけ、撮影してニュースに仕立てたうえで、初めて大衆の目に触れていたものが、今やほぼ全ての人が高性能なカメラを備えたスマートフォンを持ち歩いていることから、現場の情報がリアルタイムに流通するようになりました。圧倒的な「速報性」と言えます。

また、報道では時間枠や掲載スペースがが限られているために、どうしても大きな事件・事故のみを報じざるをえず、情報の受け手ひとりひとりにとって価値があるかは捨象されていました(小さな火事であっても、隣家の住民にとっては大きな事件です)。報道ではすくい取られない事件・事故についてもカバーする「網羅性」が、このサービスのもう一つの特徴と言えます。


ただ、問題がないわけではありません。

このCitizenアプリは以前は「Vigilante」という名前でリリースされていましたが、アップルのApp Storeから安全性を理由に排除されました。Vigilanteは日本語で「自警団」を意味し、そのコンセプトは、ユーザーが事件・事故を共有し、犯罪に巻き込まれている人を皆で助けようというものでした。しかし、犯罪の発生を知ったアプリユーザーが助けようと現場にかけつけると、そのユーザーが犯罪に巻き込まれる恐れがあります。これがApp Storeから排除された理由です。VigilanteからCitizenにアプリの名称が変わり、「ユーザーが助けに行く」というコンセプトは後退したものの、その内容はほとんど変化がありません。こうした二次被害のリスクと、公権力の及ばないところで民間人同士が相互に監視する社会の到来に対する不安が周囲から提起されています。

また、21年5月にはロスアンゼルス郊外で発生した森林火災において、Citizenは無実の男性に放火の疑いをかけ、その人物の個人情報をアプリユーザーに一斉配信したうえで報奨金を払うと呼びかけ、大きな批判を浴びるということもありました。

(出典:https://citizen.com/)

Citizenは、自ら「パーソナル・セーフティ・ネットワーク」を標榜し、「治安維持の民主化」を実現しようとしています。防災の世界では、自分自身や家族で対処する「自助」、周囲の人で助け合う 「共助」、行政が行う「公助」 の概念があります。 犯罪への対応では、自分でそれを防いだり身を守ったりする「自助」、そして警察に頼る「公助」がメインであったところ、このアプリはそれを拡張し、「共助」を実現しようとしているとも言えます。

Citzenでは、月額20ドルで、危険を感じた時にCitizenのオペレーターに連絡して助けを求められるサブスク・サービス「Protect」の提供を開始したり、ボランティアに頼らず、実際に町を動き回って事件・事故に関する情報や映像を収集するスタッフを日給200ドルで雇ったりと、情報の収集や価値提供のあり方を模索している様子がうかがえます。

警察のリソースが限られている中、今後も色々な議論を呼びながらも、「治安維持の民主化」「犯罪対策の共助」は発展していくのではないでしょうか。先行きを見守りたいと思います。


(SN)
December 7, 2022



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