日本も流行地域に?気候変動とデング熱の関係

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「デング熱」という言葉をお聞きになった方は多いと思います。デングウイルスによって引き起こされる感染症で、蚊を媒介として感染するものです。主に熱帯および亜熱帯地域で発生し、ウイルス感染した蚊(主にネッタイシマカやヒトスジシマカ)が人間を刺すことによって広がります。症状は発熱・激しい頭痛・関節や筋肉の痛み・嘔吐などですが、本当に恐ろしいのは重症化した場合で、時には命にかかわることも。デングウイルスには4種類ありますが、同じ種類のウイルスに再び感染しても免疫によって軽症で済みますが、異なる種類のものに再感染すると免疫が過剰に反応して「デングショック症候群」と呼ばれる重い症状につながるケースがあるのです。

現時点でデング熱に対する特効薬はなく、対症療法によって処置するしかありません。この厄介な感染症は、蔓延してしまうと経済活動にも影響してしまうため、筆者が住んでいたシンガポールでは、消毒剤の散布が行われたり、自宅の敷地に蚊が繁殖しやすい水たまりを放置すると罰金が科されたりと、徹底的な対策が行われていたのを憶えています。

デング熱の大流行

このデング熱が現在世界的な流行を見せています。下の図は、ECDC(欧州疾病予防管理センター)が8月に発表した、2024年5月~7月の3か月間のデング熱症例報告率(人口10万人あたり)になります。アジア・中南米・アフリカなどで大きな広がりを見せており、2024年初頭から7月までの症例報告数約1,100万は、すでに2023年通年の症例数の2倍に達しているとのことです。

注目すべきは6月にイランにおいて初めての土着感染が報告されたことです(WHO世界保健機関による報告 )。土着感染とは何でしょうか。例えば日本でもデング熱の患者は毎年200~300人ほど報告されているのですが、そのほとんどが「輸入症例」、つまり海外で感染し日本に帰国した患者さんであり、国内で感染したわけではありません(例外的に、2013年にドイツ人渡航者が日本で感染したと疑われる症例が報告され、また、2014年・2019年にも国内感染事例が確認されている)。つまり日本にはデング熱は「土着している」わけではないのです。

(出典:https://www.ecdc.europa.eu/en/dengue-monthly)

気候変動による影響

しかし安心してはいられません。現在地球温暖化によると見られる気温の上昇や雨量の増加などが我々の生活に影響を与えていますが、蚊を媒介とする感染症の増加にも寄与することが危惧されているのです。気温の上昇や降水量の変化によって、蚊の生息地が広まったり、越冬が可能になることで活動期間が長くなったりすることが感染症増加につながるというのです。

デング熱の主たる媒介蚊であるネッタイシマカは日本に常在していませんが、日本に生息するヒトスジシマカを介しても感染します。このヒトスジシマカは本州以南に広く分布し、もちろん都市部にも生息しています。現在はデング熱ウイルスを持った蚊が海外から持ち込まれたとしても、冬の気温が低いために冬を越せずに春までにはいなくなりますが、気温が上昇してヒトスジシマカが越冬できるようになると日本にも土着してしまう可能性があります。

その他にも、マラリア、ジカウイルス感染症、ウエストナイル熱、黄熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱など蚊を媒介する恐ろしい感染症は沢山あり、日本がこれらの流行地域に含まれてしまうとすると非常に恐ろしいです。

このように、地球温暖化は気候を変化させてしまうだけではなく、それによって生き物の生態系にも影響を与え、感染症の増加につながる可能性があるわけです。気候変動そのものだけではなく、それが及ぼす広範な影響が我々の生活を大きく変えてしまう可能性があることを思い知らされます。我々はこの現実を直視し、適切な対策を講じていかなければなりません。

(出典:環境省「地球温暖化と感染症」より作成)

(根来 諭)
October 16, 2024


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