気候変動と地政学リスク:水問題により増加する紛争

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異常気象や海面の上昇などをもたらす気候変動、そしてロシアのウクライナ侵攻やガザ危機などの紛争の発生や国家間の緊張の高まりをもたらす地政学リスク。どちらも現在の我々を取り囲む大きなリスクですが、その双方が絡み合ってさらにリスクが高まってしまう事例があります。スペクティは昨年末、国連傘下のアジア太平洋災害情報マネジメント開発センター(APDIM)の招待で、タジキスタンで開催された国際会議に出席しましたが、その際に聞いた興味深い話をご紹介します。

タジキスタンとキルギスの紛争

タジキスタンとキルギスは、双方ともにかつてはソビエト連邦を構成した中央アジアの国です。隣り合う両国ですが、下の地図を見てもわかるとおり、山岳地帯であることや民族構成が入り組んでいることからソ連時代に引かれた国境線は非常に複雑で、飛び地や未確定の国境線が複数存在します。970キロに渡って国境を接しつつ、その半分近くで正式な境界が確定していないことから、1991年のソ連崩壊後の両国の独立以降、しばしば衝突が発生してきました。

(©Google)

その両国間で、近年で最大の衝突が発生したのが2022年9月です。報道によるとタジキスタン軍はキルギス南部のオシ州に侵攻し、橋や住宅地を爆撃。さらに南西部バトケン州にも踏み込んで学校を占拠し、タジキスタンの国旗を掲揚したとされています。この戦闘によって双方合わせて100名以上の死者、数百人の負傷者が発生し、約14万人の住民が避難する事態となりました。この衝突の大きな原因のひとつが「水問題」だということです。直接のきっかけは、キルギス・バトケン州にある給水施設(タジキスタンも当地の領有を主張)を巡って双方の住民の対立が激化して投石が始まり、それがエスカレートして軍隊の衝突へと発展しました。

2022年9月の戦闘の様子

気候変動による水問題

タジキスタンとキルギスは双方ともに水資源に恵まれた国とされますが、この地域に水を供給するのは、パミール高原や天山山脈などの山岳地帯です。これら山岳地帯の積雪や氷河が季節によって流れ出し、それが生活用水や農業の灌漑用途に利用されるわけですが、地球温暖化によって氷河が縮小したり、積雪が減少したりすることで水不足になったり、通年での水量に不足はないものの、必要な時に得られない事態につながっています。特に2018年からは、キルギスへ流れる運河の水量をタジキスタンが制限したことから暴力的な衝突が増加していきました。さらに、タジキスタンやキルギスは上流に位置しますが、この両国がダムを建設して水量を管理しようとすることで、下流にあるウズベキスタンとの緊張も高まってしまっています。

水の確保を巡る問題は今後も増加してしまうおそれが強くあります。中央アジア以外にもエジプト・スーダン・エチオピアによるナイル川を巡る争いや、中国と河川の下流に属するメコン川流域諸国との摩擦などが挙げられます。下記のグラフは、米国の水問題に関する研究組織であるPacific Instituteが作成したもので、水を巡る紛争の発生件数をグラフで表しており(2023年は半年分のデータ)、近年その件数がうなぎ上りになっていることがわかります。

気候変動は、異常気象などの形で我々にとって直接的な脅威になるだけではなく、水資源問題を通じて地政学リスクを高める原因にもなっていることを学びました。我々の社会は複雑系であり、様々な要素がお互いに影響を与え合います。リスクを評価する際には、多角的な視点で分析する必要があることを改めて思い起こしました。

(根来 諭)
July 10, 2024


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