新型コロナウイルスの流行という非常事態においても、自然災害は待ってはくれません。先月には関東地方を豪雨が襲い、茨城県石岡市では12時間雨量が86.0mmになるなど、4月としては観測史上最も多くなった場所もありました。また、先週からは岐阜県や長野県を震源とする地震が頻発しています(別表参照)。その他、例年の梅雨による大雨や夏の台風シーズンに加え、30年以内に70~80% の確率で起こると言われている南海トラフ巨大地震や、富士山をはじめとする火山の噴火など、日本が災害大国であることを忘れてはいけません。
過去、「複合災害」にはどのようなものがあったでしょうか?マグニチュード9.0の大地震に巨大津波、原子力発電所のメルトダウンが重なった「東日本大震災」は特殊な事例だとしても、地震に大雨による土砂災害が加わった「平成28年 熊本地震」や地震と豪雪が重なった「平成16年 新潟県中越地震」、少し遡ると「平成7年 阪神・淡路大震災」や「昭和23年 福井地震」などが挙げられます。
新型コロナウイルスとの複合災害への備え
例えば、東京都江戸川区は、地震・台風・水害などが複合して発生するケースを想定してその対策を策定しています。その中で想定されているシナリオは、
- 第1段階:台風の襲来に先行して巨大地震が発生し、堤防・水門が損傷
- 第2段階:巨大台風が最悪なコースで襲来し、高潮による河川氾濫が発生(旧江戸川決壊、新中川決壊)
- 第3段階:荒川や利根川流域で高潮と同時期に洪水による河川氾濫も発生(荒川決壊、江戸川決壊
となっており、感染症は想定されていません。
某半導体製造装置メーカーのBCP(事業継続計画)担当者は、シナリオを2つだけ用意して計画を立案していると話していました。それは「地震」と「感染症」。「地震」は発生確率が高いこともさることながら、災害が持つ要素や考慮しなければいけないポイントが広く含まれており、後続して起こる災害も含めて、地震を起点に考慮すれば漏れなく計画が立案できます。しかし、「感染症」は災害としての特性が全く異なるため、この会社でも完全に別のシナリオを作成しているとのことでした。
では、新型コロナウイルスとの複合災害について、企業や自治体の危機管理担当者が特に気を付けるべきことは何でしょうか?
- ① BCPはシナリオベースから、リソースベースへ
- 従来型のBCPでは、地震や洪水などの原因事象に着目し、それぞれに事象に応じたシナリオを想定した上で、対応策を講じてきました。しかし、複合災害においては、地震と津波、大雨と洪水と土砂災害、地震と感染症、など組み合わせは限りなくあり、それぞれにシナリオを作成するのは現実的でなく、特に近年”想定外”の事態が頻発する中では適切ではありません。そこでリソース(資源)、つまり、施設・事業所・工場といった設備や道路・電気・港湾といったインフラなどが使用不能になったり、特定の役割を担う担当者と連絡が取れない、といった状況を想定し、「当該リソースが使えなかった場合にどうするか」を考えて対策を講じるアプローチが求められます。災害がどのような組み合わせであっても対応できることが強みとなります。
- ②「在宅避難」の備え
- 新型コロナウイルスとの複合災害を想定した時に容易に想定されるのが、避難所でのリスクです。「密集、密閉、密接」の3密になりやすく、感染が拡大し、さらに医療リソースを圧迫してしまう危険性があります。内閣府は4月、可能な限り沢山の避難所を開設することや、感染者への対応を事前に検討しておくことを求める通知を地方自治体に発出しましたが、自治体側の対応にも限りがあります。そこで、自宅の被害が軽微であれば、なるべく「在宅避難」をすることが大切になります。各家庭や事業所において、食料品や日用品など、または電気や水道の代替などをこれまでよりも厚く準備することが求められます。
(根来 諭)
May 3, 2020
参考情報
自然災害対策に当たって複合災害はどのように考慮されるべきか(国総研レポート)
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/2015report/ar2015hp025.pdf
結果事象BCPで複合災害に備える(MS&ADインターリスク総研)
https://www.irric.co.jp/risksolution/opinion/080.php