KDDIの記者会見に見る危機管理広報の要諦

  • BCP・危機管理

7月2日午前1時35分頃、KDDIで大規模な通信障害が発生しました。音声電話やSMS、データ通信が不通となったり、途切れたりという状態になり、影響を受けた回線数は最大約4千万回線に及ぶ、これまでにない規模の障害となりました。インフラと言えるサービスが停止したことで、社会へのインパクトは大変大きかったと言えますが、一方でKDDIの対応を肯定的に捉える声がありました。本レポートでは危機管理広報の視点で今回の通信障害を振り返ってみたいと思います。


企業が事件・事故・災害・トラブルなどに巻き込まれた際、その事象自体に対処することは当然ながら、スピーディーに正確な情報を開示し、ステークホルダーとコミュニケーションする「危機管理広報」の役割が非常に重要になります。

特に不祥事やコンプライアンス違反、製品事故など自社の責任による危機事象が発生した際は、危機管理広報の巧拙が企業のブランドイメージを決定づけ、さらに言えばうまく対処することで信頼を勝ち得ることにもつながります。昨今はソーシャルメディアの普及によって、風評拡散のスピードと波及力が爆発的に上がっており、危機発生時のコミュニケーションについては万全の準備をしておく必要があるでしょう。

危機管理広報の業務の基本的な流れは、平常時・緊急時・収束時に分けると下記のようになります。

それぞれのフェーズで目標とすることを、時間経過とともに整理したものが下記の図になります。緊急時において大切なことは、正確な情報を社会に発信し、二次的な風評被害の拡大を防止することです。それをもってブランドイメージの毀損をいかに最低限に抑え込み、その後の収束時の信頼回復にスムーズにつなげていくか、が勝負を分けます。


さて、ここからは緊急時の対応について重要なポイントを挙げつつ、KDDIの対応を振り返ってみます。

◆情報開示を迅速に行う

KDDIでは通信障害発生後、自社ホームページにおいてきっちり1時間ごとに最新状況のアップデートを行い、事実関係や対応策がまとまった7月3日、緊急記者会見を開いて説明をしました。障害がなかなか回復しなかった事実はあるものの、定期的な情報発信を行っていたことは評価に値します。ただ、記者会見までに時間がかかったことについては批判もあり、ホームページだけではなくもう少し早い段階で人が説明する場を設けた方が良かったかもしれません。情報開示が遅かった事例としては、2013年に起きた「アクリフーズ」の冷凍食品に農薬が混入していた事案があります。11月13日以降消費者クレームがあったものの対応が遅れたこと以上に、12月27日には農薬が検出されたにもかかわらず、商品回収の記者会見が12月29日まで行われなかったことに非難が集まりました。

◆責任者が公の場に出てコミュニケーションする

KDDIでは、トップマネジメントである高橋誠社長が自ら会見に臨み、弁護士など専門家に助けを求めたりせず、また想定問答集を見ながら回答するようなこともせず、ご自身で深く理解をしたうえで誠実に説明をしていました。このような態度は信頼に直結します。例えば2018年に発生したいわゆる「日大悪質タックル問題」においては、チームの責任者である内田正人監督が一向に情報発信をせず、抗議文への回答書という形でお茶を濁そうとしました。責任者が表に出ないことで、何か後ろめたいことを隠しているのではないかと疑心暗鬼を生じさせてしまう可能性があります。

◆嘘をつかず一貫性のある情報を発信する

発表の内容が二転三転することがあればそれだけで信頼を失います。KDDIでは、世間からプレッシャーは強くかかったと思われますが、いまわかっていること、今後できることに絞って説明を行いました。2020年10月に発生した旭化成マイクロシステムズ延岡工場での火災では、近隣に影響が出る可能性のある可燃性ガス「モノシラン」など危険物の有無について発表が二転三転、体調不良を訴える人もいた近隣住民の間に強い不信感が募りました。

◆誠実な態度で振舞い、非を認める部分はきちんと謝罪する

記者会見で高橋誠社長は「社会インフラを支え、安定したサービスを提供しなければならない通信事業者として深く反省している。お客さまには多大なご迷惑をおかけしたことを深くおわびする」として、重要なインフラを担う会社のトップとして誠実に謝罪をしました。メッセージを受け取る側も人間ですので、感情的な部分を慰撫するためにしっかりと謝ることが基本になります。古い事例で、危機管理広報という概念も希薄だった時代だとは思いますが、2000年の雪印食中毒事件で、当時の社長がマスメディアの記者に対し「私は寝てないんだ!」と言い放った事例はこの対極にあたるでしょう。



不祥事やトラブル、事件・事故などはどの企業であっても避けられないもの。しかしその後の危機管理対応で企業のブランドイメージを保てるかどうかは大きく変わってきます。そういった意味で、KDDIの対応は評価できるものではないでしょうか。最後に、Twitter上での声で多くの賛同(いいね)を集めているツイートをご紹介します。




(根来 諭)
July 06, 2022


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