レポート

首都直下地震の新しい被害想定:企業の対策は

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専門家らで構成する東京都の防災会議地震部会は5月25日、首都直下地震が発生した際の被害想定を、全475ページに渡る詳細な報告書を通じて公表しました。都が想定を公表するのは、東日本大震災の翌年の2012年以来10年ぶりとなります。

報告書では「都心南部直下地震」「多摩東部直下地震」「大正関東地震」「立川断層帯地震」「南海トラフ巨大地震」などのケースを想定しています。最も被害の多い「都心南部直下地震」の場合では、江東区や江戸川区、荒川区などで震度7が観測され、23区の約6割の場所で揺れが震度6強以上に達すると見込まれています。本稿では着目すべき点として、「10年前の想定からの変化」「企業は対策をどう進めるべきか」について解説したいと思います。

10年前の想定からの変化:減災への取り組みの進展

下記は今回と前回の報告書における被害想定を比較したものです。発生時刻や風速など条件が細かく分かれており、想定する震源も10年前と今回で異なるために、全く同条件での比較にはなりません。特に、前回最も被害が大きいとされた「東京湾北部地震」が当面の発生確率が低いことから外され、今回「都心南部直下地震」が加わりましたが、この2つの地震は想定震源が比較的近く、マグニチュードも同じことからここでは比較対象としています。

住宅や緊急輸送路沿道建築物の耐震化率が約8割から約9割へ高まったことなどにより、建物の全壊棟数は29%減少しています。また、木造住宅密集地域が約16千haから約8.6千haとほぼ半減したことにより、火災により焼失する軒数も28%の減少となっています。結果、死者数は44%の減少。帰宅困難者の数も、新型コロナウイルス流行の数少ないポジティブな面であるテレワークの普及によって、12%の減少が見込まれます。

こうした人的被害や建物やインフラへの被害が前回想定より大きく減少したことは、この10年間における東京都の減災の努力が実を結んだと言えるのではないでしょうか。また、今回の想定をもとに、どのような対策が最も費用対効果が高いのかを検証のうえ、次の10年で限られた予算をどこに振り分けるかを決定すべきだと考えます。

企業は対策をどう進めるべきか:タイムラインの考え方

もうひとつ特筆すべき、そして企業が対策を考えるうえで参考になるのが、概要資料で示された被災後の時系列シナリオです。下記に示すインフラ・ライフラインに関するシナリオの他、救助機関の活動や避難所、自宅での避難生活、帰宅困難者を想定したシナリオも用意されているのでご参照ください。

企業は被災時の初動対応のタイムラインを、このシナリオをもとに作成すれば大変に有効ではないかと思われます。タイムラインとは、災害発生時に「どのタイミングで」「誰が」「どんな防災行動をするか」を時系列で整理してまとめた計画を言います。2012年に米国ニュージャージー州が、ハリケーン・サンディ上陸の際にタイムラインを活用して避難対策を行い、被害を最小限に食い止めたことから注目され、日本でも自治体を中心に整備が進んでいます。

一般的にタイムラインというと、台風のようないわゆる「進行型インシデント」に有効とされますが、突発型インシデントである地震においても、発生後に漏れや無駄なく初動対応を行うには有効なツールと言えます。具体的には「鉄道は路線が復旧するごとに帰宅できる従業員から帰宅させる。自動車通勤については環状七号線の内側の規制が解除された段階で、災害対策本部でその他道路を状況を確認する」などと決めておくことができます。

帰宅困難者対策は

特に平日昼間に発生するケースにおいては、今回の想定では最大453万人に上る帰宅困難者の問題が大きくなると思われます。これまで、2011年の東日本大震災の際や、2021年10月に発生した千葉県北西部地震の際など、幾度か東京において帰宅困難者が発生しました。しかし幸か不幸か、それらのケースでは徒歩などで無事に帰れ(てしまっ)たために、いざ首都直下型地震が発生した際にも楽天的に考え、すぐに徒歩で帰宅しようとする人が多く出るかもしれません。

しかし、もし東京の街の建造物が崩落など大きな被害を受けた場合、上記に挙げたケースとは全く異なり、徒歩での帰宅は非常に危険なものになるでしょう。また、救助車両などの交通を妨げてしまうことも考えられます。企業は、今回のシナリオをもとに、オフィスにいる自社従業員にどのような指示を出すのか、とどまらせる場合の備蓄をどれだけ準備すればいいかなど、予め検討しておく必要があると思われます。

(根来 諭)
June 1, 2022

参考情報

首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年5月25日公表)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1021571.html

首都直下地震等による東京の被害想定(平成24年4月18日公表)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1000401.html



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