民主主義は世界の王道か?対ロシア国連決議から考える
- 国際情勢
- BCP・危機管理
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから約1か月半が経過し、ウクライナ国防相がロシア軍による民間人の虐殺があったことを発表するなど、事態は好転していません。そんななか、国連総会は4月7日に緊急特別会合を開催し、国連人権理事会におけるロシアのメンバー資格を停止する決議案を採択しました。
決議案に対しては支持が93か国、反対が24か国、そして58か国が棄権しました。この数字を見て、支持をしなかった国が82か国もあったことに驚いた方も多かったのではないでしょうか。棄権をした国は、ブラジル・タイ・インド・メキシコなど。虐殺行為について独立した機関による調査を待ちたいと判断を保留した形です。そして反対をした国は、イラン、サウジアラビア、ベラルーシ、シリアや中国。いわゆる「強権的」な政治体制を持つ国が並びます。自由を重んじる国とは異なる価値観を有する国が多くあることを改めて思い知らされました。
本レポートでは、政治体制という観点から世界を俯瞰してみたいと思います。
今年2月、イギリスのEconomist誌傘下の研究所、Economist Intelligence Unit (EIU)が、2021年版Democracy Index (民主主義指数)を発表しました。
この指数は、「選挙プロセスと多元主義」「政府が機能しているか」「政治参加」「政治文化」「国民の自由度」といった項目で採点をし、167の国と地域の民主度を、「完全な民主主義(Full democracies)」、「欠陥のある民主主義(Flawed democracies)」、「混合政治体制(Hybrid regimes)」、「独裁政治体制(Authoritarian regimes)」の4レベルに分類しています。
世界地図上で色分けしたものがこちらになります。
アフリカ、アジアや中米に民主度が低い国が多くあることがわかります。インドは「世界最大の民主主義国家」を自任するものの、今回の決議案は棄権しました。対パキスタンなど安全保障面でロシアと戦略的パートナーシップを結んでいるからです。国際政治の複雑さ、難しさが伺えます。
次は、分類された国の数が、この10年間でどのように変化してきたかを示したものです。
経済発展とともに、世界の民主化度合は進んでいるのではと考えていた方も多いかと思いますが、実際には「民主主義」に分類される国の数はこの10年間で減っています。「完全な民主主義」から「欠陥のある民主主義」に変わったのがアメリカ、スペイン、チェコ、マルタ、ベルギー。アメリカについては、「アメリカ国民の政治システムに対する信頼が著しく低下したため」との理由で2016年から「欠陥のある~」に分類されています。
逆にこの10年で「独裁政治体制」となった国は、ベネズエラ、ニカラグア、カンボジア、ニジェール、マリ、レバノン、キルギス、イラク、モザンビーク、パレスチナ。クーデターが起きたマリのような国もあれば、徐々に独裁色を強めたベネズエラのような国もあります。
次に、各政治体制下で暮らす人の数をまとめてみました。
2021年の世界人口は約78億人ですが、「完全な民主主義」「欠陥のある民主主義」の国に暮らす人の数は、世界全体の46%の36億人。自由の度合いが低い「独裁政治体制」「混合政治体制」に暮らす人の数は54%の42億人です。持っていたイメージと一致するでしょうか?それとも、民主主義が世界では多数派ではないことに驚きをもったでしょうか?
では民主主義が絶対的な正解なのかというと疑問符がつきます。アメリカは社会の分断が大きな問題になり、日本を含めた他の先進国も、ポピュリズムの問題や、多くの意見を反映させるがゆえに改革が遅々として進まないなどの問題もあります。一方、中国やシンガポールといった国は強権的な政治体制で表現の自由はありませんが、強力なリーダーシップで急速な経済成長を成し遂げました。
また、例えば2010年から2012年にかけてアラブ世界において発生した民主化運動「アラブの春」。民主化に成功したとされるチュニジアでもDemocracy Indexは「混合政治体制」に留まり、エジプトは混乱の末に再び強権政治に後戻りし、リビア・シリア・イエメンなどは抗議デモから争乱状態へと発展し、いまだに平和とは程遠い状態です。民主化の流れが正しいとは言い切れない例証となりました。
イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルの有名な名言に、「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外のすべての政治体制を除けばだが」というものがあります。まさに民主主義は「他よりマシ」ではあるものの、決して理想的な政治体制ではありません。かといってポスト民主主義が簡単に見つかるとは思えません。
足元に目を落とすと、国連決議案への姿勢が割れたことからわかるように、「民主主義vs強権主義」の分断が進んでいるように思われます。米中対立という軸に、ロシアのウクライナ侵攻という軸が加わり、世界が真っ二つに割れてしまえば、第三次世界大戦という言葉が現実味を帯びてきます。
侵略行為は言語道断ですが、国際協調の努力をあきらめてはいけない。そんな局面を迎えていると感じます。
(根来 諭)
April 08, 2022
参考情報
Democracy Index 2021 (Economist)
https://www.eiu.com/n/campaigns/democracy-index-2021/
信頼できる危機管理情報サービスとして続々導入決定!
スペクティが提供するリアルタイム危機管理情報サービス『Spectee Pro』は、多くの官公庁・自治体、民間企業、報道機関で活用されており、抜群の速報性、正確性、網羅性で、「危機発生時の被害状況などをどこよりも速く、正確に把握すること」が可能です。AIを活用して情報解析、TwitterやFacebookなどのSNSに投稿された情報から、自然災害や火災、事故などの緊急性の高い情報、感染症に関する情報など、100以上の事象を、市区町村、空港や駅、商業施設、観光地周辺といった対象と組み合わせて、「どこで何が起きているか」をリアルタイムに確認できます。