レポート

SNSに見る「揺れるスペイン」、西側先進国に共通する“分断”とは

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日本ではほとんど報道がありませんが、スペインでは今年2月から各地で抗議デモが頻発しており、連日その様子がSNSに上がってきています。その背景にはスペインの国としての成り立ちと、西側先進国に共通する社会構造があります。

ラッパーの逮捕

今年2月、ラッパーとして活動していたパブロ・ハセル氏が逮捕されました。

ハセル氏は自らを反ファシストの共産主義者と位置づけ、スペイン王族を含む権力者を挑発し、痛烈に批判するラップを披露してきました。2016年にはある政治家を過激な歌詞で攻撃し、禁固刑が言い渡されるも、“表現の自由を守れ”と大規模なデモが起き、当該政治家が退陣に追い込まれるという動きもありました。

今年に入ってからは、Twitter上でのツイートによってテロを扇動し、王室を侮辱したとの罪状で実刑判決が下され、出頭を求められるも、ハセル氏は支持者とともに地元の大学に立てこもり抵抗。最終的に逮捕されるに至りましたが、その直後に彼の解放と表現の自由を求めるデモがスペイン全土で巻き起こり、現在も断続的に続いています。

(クレジット:@FranPardo_)

大多数のデモは平和裏に行われたものの、ハセル氏の出身地であるカタルーニャ州のいくつかの都市では若者が暴徒化。警察と衝突したほか、商店や銀行に火が放たれるなどしました。

このデモの背景として横たわっているのは、スペインおける2つの分断です。
①中央と地方の分断
②経済的な分断


中央と地方の分断

この分断問題は、カタルーニャ州の独立問題が象徴していると言えます。

中央政府がカタルーニャ民族を差別するような言動を繰り返したこと、及び、経済的に豊かなカタルーニャ州が中央に納める税金がスペインの他の州に回されることに対する不満から、2010年代より独立を目指す運動が盛んになりました。2017年には州の独立を問う住民投票を強行し、当時のカルレス・プッチダモン州首相が独立国家となる権利を獲得したと宣言、中央政府はプッチダモンらを更迭して直接統治に乗り出すなど、スペインが国として成り立って以来の激動がありました。その後は大きな動きはないものの、独立を求めるデモは継続的に行われており、今後も予断が許されない状況です。

(クレジット:@JoanDeaDua)

カタルーニャの歴史を紐解くと、この地域が「カタルーニャ」と呼ばれるようになったのは紀元12世紀ごろ。1469年にアラゴン王フェルナンド2世とカスティーリャ王女イサベル1世が結婚したことによってスペインは統一され、カタルーニャはその一部となりました。当初は独立性を維持していたものの、最終的には完全に組み込まれた経緯があり、これが現代に続く独立運動の火種となります。

1936年から1939年まで続いたスペインの内戦において、カタルーニャは敗者側についていたため、戦後はファシストの軍人であるフランシスコ・フランコによってふたたび自治権を奪われ、カタルーニャ語(スペイン語とフランス語が混ざったような言語です)や独自の慣習などを制限されたことから、中央政府に対する反目は一層強くなりました。

他方、スペイン北部に位置し、大西洋に面するバスク地方(上記地図の黄色部分)も、常に独立の機運が渦巻く場所です。バスク語という、スペイン語とは語族の違う独立した言語を持ち、様々な独自文化を継承するこのエリアでは、現在は沈静化したものの、以前は非合法武装組織「バスク祖国と自由(ETA)」がテロ活動を活発に行いました。

このように、スペインは国として一枚岩とは言いがたい状況で、中央政府と地方の間に大きな分断が横たわっています。サッカーのスペイン代表が選手の出身地ごとに分断しており、チームとしてまとまることが難しいのは有名な話です。


経済的な分断

一方、スペインでは経済格差が広がりを見せています。EUの統計を見てみると、2020年12月時点のEU加盟国の失業率はスペインが最も高く16.2%。そして若年層失業率を見るとなんと40.7%に上る59万6,000人が失業状態にあります。

2008年のリーマン・ショック、そしてそれに続く緊縮政策でスペインの経済は大いに痛みました。さらに、中間層が没落して貧富の差が広がったところを襲った新型コロナウイルスの流行と、ロックダウンによる社会活動の停滞。マグマのように溜まっていた格差や分断に対する不満が、パブロ・ハセルを支持することによる中央政権への反感の表明や、カタルーニャ独立を目指す地域ナショナリズムの形で表出しているという見方をすることができます。

また、今月7日には、近年支持を集めて躍進する極右政党VOXの集会において、反ファシストグループとの衝突も発生しました。極端な主義主張を持つ政治グループが支持を受けるというのも、社会分断の証と言えるでしょう。

(クレジット:@_RubenBravo)



こうした分断構造は、米国や欧州の資本主義・民主主義の国で共通して見られるものです。英国ではスコットランドが、スペインにおけるカタルーニャと同じように独立に向けた動きを進めています。もう一段大きな枠でとらえると、英国は移民問題などに不満を抱いてEUという共同体を脱退しました。これまで数十年、グローバリズムが進展し、世界はよりつながりを深めてきましたが、いまその揺り戻しが来ているのかもしれません。新型感染症の流行も、国や地域をこれまでとは異なり“閉じる”方向に導く事象でしょう。社会や共同体の分断や、反グローバル化の動き。国の中も、国と国との関係も、これまでとはトレンドが変わるという前提で見ていくべきだと考えます。

(根来 諭)
April 21, 2021

参考情報

News Release Euro Indicators (Eurostat)
https://ec.europa.eu/eurostat/documents/portlet_file_entry/2995521/3-01022021-AP-EN.pdf/db860f10-65e3-a1a6-e526-9d4db80904b9

スペイン人はなぜ「自国のサッカー代表選手」にブーイングするのか
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58576


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