レポート

「極度に野蛮な行為」エチオピアで何が起きているのか

  • 国際情勢
  • 危機管理

アフリカ東部に位置するエチオピアの情勢が緊迫しています。

エチオピアでは政府軍と、北部ティグレ州を根拠地とするティグレ人民解放戦線(TPLF)との武力衝突が昨年より続いています。TPLFが10月末に交通の要衝であるアムハラ州コンボルチャを奪取し、首都アディスアベバへの侵攻を仄めかしたことをきっかけに、アビー首相は国土全体を対象とした非常事態宣言を発出。これを受けて米国をはじめとして複数の国が自国民にエチオピアからの退避命令を出す一方、人道支援に取り組む国連職員が現地で拘束されるなど、事態が急速に緊迫化しています。国連人権高等弁務官ミチェル・バチェレ氏は、ティグレ州の一般市民が集団レイプを含む極度に野蛮な行為にさらされている発言しています。

エチオピア略史

そもそもどのような背景から政府軍とTPLFが武力衝突するに至ったのでしょうか。それを知るためにはエチオピアの民族構成を見てみる必要があります。エチオピアは80を超える民族が暮らす多民族国家です。最大勢力は 現首相のアビー氏の出身民族であるオロモ人で約40%。続いてアムハラ人約27%、ソマリ人とティグレ人がそれぞれ約6%、シダモ人が約4%と続きます。つまりTPLFを構成するティグレ人は構成比率6%の少数民族と言う事ができます。しかし、少数勢力でありながら、20世紀終わりから近年にかけて、ティグレ人はエチオピアの政権中枢を占めていました。

1974年の帝政崩壊後(最後の皇帝はハイレ・セラシエ1世)、エチオピアでは軍事独裁政権が旧ソ連の後ろ盾を得て社会主義政策を推し進めました。しかし旧ソ連とともにエチオピアの軍事独裁政権も弱体化。その機をついて反政府勢力が首都アディスアベバを攻め落とし、政権を奪取しました。この時の反政府勢力・エチオピア人民革命民主戦線の軍事的リーダーが、今回の紛争の一方であるTPLF及びそれを構成するティグレ人だったのです。

こうした経緯があり、1995年から2012年まで首相はティグレ出身者が務めることとなり、少数勢力でありながらエチオピア政治の中で強いポジションを保持してきました。しかし要職を固めて権勢をふるうティグレ人に対し、他民族からの不満は徐々に大きくなります。特に、最大民族オロモ人の中には、民族の根拠地である南部オロミア州の分離独立を目指すグループも現れ、それをティグレ中心の政府が「テロリスト」ととらえて苛烈に取り締まったことで、不信感と不満が蓄積していきました。

2018年4月には首相ポストにオロモ出身のアビー首相が就任することで民族の融和が図られましたが、その後のエチオピア政府ではティグレとオロモの力関係が逆転し、それまで権力の中心にいたティグレは相次いで要職を追われ、対立がエスカレートしていきます。そして2020年9月、延期されていたティグレ州議会選挙をティグレ人が強行した(おそらくティグレ州の独立が狙い)ことをきっかけに、本格的な武力衝突になだれ込んでいきました。

つまり、現在起きている武力衝突は、かつての主流派だったティグレ人と、現主流派のオロモ人とが権力を争う内戦と言う事ができます。

深まる人道危機

そんななか、物資の供給も滞ってしまい、国連は6月時点で、推計35万人が飢餓状態にあるとの分析を発表しています。下記は2021年7月から9月までを対象とした最新の資料になりますが、ティグレ州を中心に最悪の「5」レベルの一歩手前である「4」のエリアが広がっています。

(出典:Integrated Food Security Phase Classification)

ジャーナリストが前線に入り込むことが難しいこともあり、報道も少なく、現地の状況をつかむのが難しくなっていますが、スペクティが覚知した直近の様子がわかるSNSへの投稿をいくつかご紹介します。



(10月29日)政府軍によるティグレ州メケレの町が、政府軍の爆撃で破壊された様子

(11月3日)政府軍による攻撃を受けたティグレ州アドワの病院の様子

(11月7日)首都アディスアベバでは、TPLFをテロリストとして非難するデモが行われた



エチオピアは「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ北東部に位置し、この国が不安定化することは東アフリカ全体の不安定化につながります。また隣国ジブチには日本の自衛隊の拠点もあり、決して対岸の火事ではありません。人口は1億人を超え、ナイジェリアに次いでアフリカ2位の大国であり、21世紀のアフリカ経済を牽引することが期待されたこの国の惨状。人道危機を一刻も早く脱することができるように、国際社会は強い関心を持ち続け、あきらめずに関与していくことが大切だと考えます。

(根来 諭)
November 17, 2021

参考情報

Ethiopia: Acute Food Insecurity Situation May – June 2021 and Projection for July – September 2021 (IPC)
http://www.ipcinfo.org/ipc-country-analysis/details-map/en/c/1154897/?iso3=ETH


メールマガジン

信頼できる危機管理情報サービスとして続々導入決定!

スペクティが提供するリアルタイム危機管理情報サービス『Spectee Pro』(https://spectee.co.jp/feature/)は、多くの官公庁・自治体、民間企業、報道機関で活用されており、抜群の速報性、正確性、網羅性で、「危機発生時の被害状況などをどこよりも速く、正確に把握すること」が可能です。AIを活用して情報解析、TwitterやFacebookなどのSNSに投稿された情報から、自然災害や火災、事故などの緊急性の高い情報、感染症に関する情報など、100以上の事象を、市区町村、空港や駅、商業施設、観光地周辺といった対象と組み合わせて、「どこで何が起きているか」をリアルタイムに確認できます。

(リアルタイム危機管理情報サービス『Spectee Pro』)
Share this with:
コンテンツ一覧

資料ではSpectee Proの特徴や仕組みの他、料金表をまとめております

サービス概要/料金表/無料トライアル申込

お電話でも承ります。

03-6261-3655

お問い合わせ時間:平日 9:00〜17:30

営業目的のお電話は一切受け付けておりませんのでご了承ください。