レポート

顔認証技術の進化がもたらす効用と、そこに潜むリスク

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硫酸事件、異例のスピード逮捕

昨年8月24日の午後9時ごろ、東京メトロ南北線の白金高輪駅で、エスカレーターに乗っていた男性が硫酸と見られる液体をかけられて大怪我を負う事件がありました。

犯人はJR品川駅から新幹線に乗って逃走しましたが、事件発生から数時間で防犯カメラの画像を公開して捜査が進められ、4日後にスピード逮捕されました。その背景には、鉄道会社が設置した顔認証機能付きの監視カメラが力を発揮したのだろうとする報道がありました。この「顔認証」という技術はどのような仕組みで動いているのでしょうか。


顔認証の仕組み

顔認証とは、人間の身体的または行動的特徴を用いて本人確認をする「生体認証」のひとつです。生体認証には他に、指の指紋認証、手の静脈認証、声による声紋認証、眼の虹彩認証など様々なものがあり、一般的なサービスから、高いレベルのセキュリティが求められる金融機関やインフラに至るまで幅広く活用されるようになってきています。

スマートホンのロックを解除する際に、顔認証または指紋認証を使うというのが最も身近な例でしょうか。その他にも、オフィスや娯楽施設における入場管理、飛行機や鉄道などの交通機関における本人確認、支払いの際の決済など、今後多くのシーンに広がっていくでしょう。

特に顔認証が他の生体認証と比較して優れているのは、非接触であること(コロナ禍においてはとうに大きなメリットです)、また、読み取るための専用装置が不要で一般的なWebカメラなどでも利用可能であるという点が挙げられます。

下図は、顔認証技術の仕組みを説明するものです。カメラの前にXさんが立つと、顔がどこにあるのかを検出し、またそこから特徴量を読み取って数値化します。その特徴量のデータを、予め登録しておいたデータベースと突き合わせ、一致率が一定の閾値を越えた場合に本人だと認証します。人工知能(AI)技術を適用することで近年精度が飛躍的に高まり、昨今はマスクをつけたままでも高精度で認証できる技術も開発されています。


顔認証の問題点

こうした顔認証の技術が広まることで、便利で安全な社会の実現が期待されます。しかし一方で、問題点も指摘されています。

顔認証技術の用途は、下図のように分類することができます。能動的な用途は、利用者がその目的や使用範囲を理解していることが前提となり、識別データを個人情報として適切に扱い、漏洩させたり、同意を得た目的以外に使用することをしなければ問題にはなりません。一方、非能動的な用途は監視社会化のリスクをはらむとの指摘が多くあります。

冒頭の硫酸事件の犯人逮捕のように、顔認識技術は我々の社会の安全に資することは明白ですが、一方で公権力が我々個人を識別できることにより、いつどこに行ったのかをつぶさに把握されてしまうことになれば、社会が萎縮してしまうという面は否定できません。また、認証技術の精度も決して完璧ではありませんので、識別エラーによって間違いが起こるリスクもあるでしょう。実際、欧州連合(EU)は、公共空間で顔認証システムを使った警察捜査を原則禁止とする規制案を公表していますし、米国マサチューセッツ州のボストン市では昨年、行政当局による顔認識技術の利用を禁じる条例を可決しています。


世界のどこで使われているのか

こうした顔認証技術、世界ではどのような国で導入が進んでいるのでしょうか。下図は、サイバー空間に関する調査サービス企業「Comparitech」が6月8日に発表した、顔認証技術の国ごとの利用状況になります。より広く利用されている国がより赤くなっています。

(出典:https://www.comparitech.com/blog/vpn-privacy/facial-recognition-statistics/)

さらに、権利侵害的な使い方(invasive use)をしている国をポイントで評価した結果では、中国・ロシア・アラブ首長国連邦の3か国が最もポイントが高く(=最も権利侵害的な使い方をしている)、強権的な政治体制の国々では、プライバシーや人権を守ることよりも、社会の安全や便益の方に比重を置いていることが伺えます。



顔認証技術を使うことによって犯人逮捕が迅速に行え、さらに新しい犯罪の抑止力になるのであれば、我々の社会の安全に寄与する素晴らしい技術だと言うことができます。しかし、読売新聞の報道によると、JR東日本は昨年7月から、顔認識カメラを使って刑務所からの出所者・仮出所者を検知する防犯対策を導入したものの、社会の合意形成が不十分との理由で当面取りやめているとのことです。一方、いわゆる「ジョーカー事件」(電車内での無差別刺傷事件)を受けて、京王電鉄はすべての駅と車両に防犯カメラを設置する方向に動いています。

個人のプライバシーや人権に関わる問題であるだけに、こうしたシステムを社会実装するには、検知した情報の取り扱いについて丁寧な議論と適切な規制が必要となるでしょう。

(SN)
February 02, 2022

参考情報

公共空間で顔認証使う捜査、原則禁止 EUがAI規制案(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP4Q3QHNP4QULFA002.html

ボストン市、市当局による顔認識技術の利用を禁じる条例を可決(CNET Japan)
https://japan.cnet.com/article/35155831/

Facial recognition technology (FRT): 100 countries analyzed (comparitech)
https://www.comparitech.com/blog/vpn-privacy/facial-recognition-statistics/


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