気候工学:新しいテクノロジーは人類を気候危機から救えるのか
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人類が排出する温室効果ガスによって地球温暖化が進み、異常気象や地球環境の破壊をもたらす気候変動。大雨や酷暑などを頻繁に経験し、我々も危機が迫っていることを実感しつつあるのではないでしょうか。しかし、国際社会や企業そして個人、様々なレベルで温暖化を食い止める努力はなされているものの、実効性のある対策が進んでいるとは言えないのが実情です。そして以前お伝えしたように、「産業革命以前からの気温の上昇を1.5℃までに抑える」という国際的な目標に対し、世界が猛暑に見舞われた2023年は、1920-1930年より1.48℃高い世界平均気温を記録してしまいました。我々に残された時間は多くはありません。
気候変動への対策は、以下の2つが考えられます。
◆原因を少なくするための「緩和」策
緩和とは、節電・省エネや、風力や太陽光発電といった再生可能エネルギーの導入によって温室効果ガスの排出を削減したり、森林を増加させることでCO2の吸収源を増やしたりすることで、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を抑制し、気候変動を防止する取り組みをいいます。
◆影響に備えるための「適応」策
適応とは、既に現れはじめてしまっている気候変動の影響に対して、人間社会としての在り方を変化させることで被害を最小限に食い止める取りくみです。高温でも育つ農作物を開発することや、Spectee Proのような情報システムを導入することで、災害対応能力を高めることなども含みます。
このうち、根本的に問題にアプローチするのは「緩和」策だと言えます。しかし、温室効果ガスの排出削減を急速に進めることは簡単ではありません。市民の気候問題への意識の高まりとともに、各国政府や大企業はこぞって排出削減策や目標を掲げており、日本政府も2050年排出ゼロという意欲的な目標を打ち立てています。しかし、温室効果ガスを削減するには、現在の我々の社会を動かしている化石燃料の消費を限界まで減らすことが前提となります。具体的には我々の生活を徹底的に電化したうえで、その電力を温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギー(風力・太陽光・地熱など)から賄わなければなりません。しかし、現在の技術では、天候の影響を受けやすい再生可能エネルギーを、安定した主力電源にすることは難しく、蓄電など技術的なブレークスルーが待たれるところです。
また、国際的な協調も以前よりは進んでいるものの、温室効果ガスの削減は経済的な負担を伴うものであり、自国でコストを負担するよりも、なるべく他国に汗をかかせてフリーライド(タダ乗り)したいというインセンティブが強く働きます。いくら果敢な削減目標を掲げたとしても、例えば自国の経済の停滞により国内から突き上げを食らう場合や、ロシアのウクライナ侵攻で顕在化したような地政学リスクによってエネルギー供給が不安定になった場合に、どこまでその目標を堅持できるでしょうか。
こうした状況の中、気候システムに対して工学的な介入をすることによって気候変動による影響を回避しようとする「気候工学」が注目を浴びています。その中に主に2つの手法があります。1つは大気から、温室効果ガスの代表格である二酸化炭素を直接回収する「二酸化炭素除去(CDR : Carbon Dioxide Removal)」、もう1つが直接に大気を冷却する技術である「太陽放射改変(SRM : Solar Radiation Modification)」です。
二酸化炭素除去(CDR)
CDRの中でも大気中から直接にCO2を回収する手法をDAC(Direct Air Capture)と呼び、特殊なフィルターや吸収剤を使用することでCO2を捕捉・分離し、それを圧縮して輸送したうえで、合成燃料の製造といった他用途に使用するか、地下に貯蔵します(貯蔵先としてしては原油の採取を終えた油田などが挙げられます)。課題としてはDACの装置に多量の空気を送り込んだり、そこからCO2を回収したりするために多くの熱エネルギーや電気エネルギーなことです。化石燃料を使って発電した電力でDACを動かすのでは本末転倒であり、ドラスティックな省エネ化や、再生可能エネルギーによる電力の供給方法を確立する必要があります。
既存の大企業やスタートアップがこのCDRに取り組んでいますが、ひとつ例を挙げるとスイスのチューリッヒ工科大学発で設立されたClimeworksというスタートアップは、世界最大のDACプラントを2021年9月からアイスランドで操業しています。2022年には巨額の資金調達を実施しており、現時点で最も先進的なプレイヤーと言えるかもしれません。
太陽放射改変(SRM)
そもそも地球温暖化とは、太陽からのエネルギーを受けて温まった地上から放射された熱が、温室効果ガスが外に逃がさないことによって発生します。SRMとは、降り注ぐ太陽光を人工的にブロックすることによって、温暖化の源となる太陽エネルギーを弱める手法を指し、宇宙にシールドを張って太陽光を遮断する方法や、成層圏にエアロゾルを注入して太陽エネルギーを遮る方法、住宅や建物の屋根の反射率を増やす方法などが挙げられます。
中でも最も効果が確実視されているのが成層圏へのエアロゾルの注入です。1991年、フィリピンのピナツボ火山で20世紀最大と言われる火山噴火が発生しました。この噴火によって大量の火山ガスが放出され、それが大気中の水と反応してエアロゾルができ、北半球全体に広がりました。その結果、1992~1993年の世界気温は0.4℃低下、農業では冷害による被害が発生しました。このように、エアロゾルが太陽エネルギーを遮ることで世界の気温が下がることは、火山噴火で実証されているわけです。
しかし、人間が気候に手を加えることに対する倫理的な問題が横たわります。影響は広く地球規模で及ぶために国際的な合意が必要ですし、また気候という複雑系に対して手を加えることで、思いもよらぬ副作用が発生するかもしれません。エアロゾルを成層圏に注入する技術開発が進む必要とともに、社会的・政治的な制約を乗り越えるための国際的ルール作りが求められます。
世界中で大規模な自然災害が頻発し、太平洋の島嶼国では国全体が水没するような事態が予想されています。人が環境を激変させた現代を呼ぶ言葉として「人新世(じんしんせい)」という言葉が取りざたされる中、人類がこの先も地球上で繁栄を続けるにあたって、大きな曲がり角に来ているのではないでしょうか。本レポートでは緩和策、適応策、そして中でも気候工学という方法を紹介しましたが、これらは択一ではなく、全ての対策を同時に進めていくことが大切だと考えます。テクノロジー開発と国際協力という英知を通して気候危機を乗り越えることで、我々は次のより良い世界に世代をつないでいけるのではないでしょうか。
(根来 諭)
March 06, 2024
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