レポート

揺れるジョージア~強権法案への抗議と未来への分岐点~

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巻き起こる激しい抗議デモ

黒海とカスピ海に囲まれたコーカサス地方の国家、ジョージアが揺れています。現与党が、資金の20%以上を外国から得ている団体に「外国の代理人」としての登録を義務付け、違反者に罰金を科す内容の法案を成立させようとし、それに対する抗議デモが先月より激しく行われています。この法案は、ロシアで反体制派や市民団体の弾圧に使われてきた法律をモデルにしたとの批判を受けており、別名「ロシア法」や「スパイ法」などと呼ばれ、強権的国家へと傾く政権に対する危機感が強く表れた形です。野党や市民団体は「政権の意向に沿わないNGOやメディアの活動を弾圧するためのものだ」と反発しています。日本の外務省からは、ジョージアへの渡航について注意喚起がなされています。

5月10日に首都トビリシでデモ隊と警察が衝突する様子

ジョージアとはどういう国でしょうか。文明の十字路と言われるコーカサス地方に位置し、生産の盛んなワインや独特な伝統文化で旅行先として注目を浴び、最近ではシュクメルリという鶏肉の煮込み料理が飲食チェーンの松屋で人気になりました。キリスト教を国教にした2番目の国としても知られます。また、日本語の堪能なティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使のX(旧Twitter)アカウントは、2024年5月時点でフォロワー約34万人を誇る人気となっています。ジョージア出身の有名な人物と言えば、ソビエト連邦の指導者であるスターリンや、大関にまで昇進し活躍した大相撲・栃ノ心が挙げられるでしょう。

下がジョージアの地図になります。北はウクライナへの侵攻を進めるロシアと接し、南側にはナゴルノ・カラバフを巡って紛争が起きていたアルメニアとアゼルバイジャン、そしてトルコが控えています。地図をよく見ると、点線で囲まれた部分が中央北側部分と西端にあることがわかります。これがそれぞれ「南オセチア共和国」と「アブハジア共和国」という、ジョージアの支配が及んでおらず、事実上の独立状態となっている地域になります。

ジョージアの歴史

ジョージアの近代史を簡単に振り返ってみましょう。ジョージアは帝政ロシアの時代から、長くロシアに支配されていた歴史があり、ソビエト連邦を構成する国でありましたが、1991年のソ連崩壊後に独立を果たします。しかし独裁的な統治に対する反発が強まって翌年にはクーデターが勃発し、その時の国内の混乱に乗じて、南オセチアとアブハジアという二つの国で分離主義運動がおこりました。それぞれオセット人とアブハズ人が多く住む地域です。

転機となったのは紛争が再燃した2008年で、グルジア軍が南オセチアの主要都市ツヒンヴァリを攻撃したことを受け、ロシア軍がただちに大量の兵力を投入し、南オセチアからグルジア軍を追放するのみならず、中部のゴリ、西部のセナキ、黒海沿岸のポチ、そしてアブハジアなどを占拠しました。そしてロシアは南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認するに至ります。さらにロシアは、両地域に軍事基地を設置し、実質的な支配を現在まで続けています。

日本ではジョージアはかつて「グルジア」と呼ばれていましたが、これはロシア語読みであり、要請を受けて日本政府は2015年より「ジョージア」に呼称を変更しています。この背景にロシアへの反発があったことは想像に難くありません。

ウクライナと同じ構図

ジョージアは基本的には、自由と民主主義を尊び、「親欧州路線」を歩んできました。事実、EU(欧州連合)への加盟も申請しています。ロシアはロシアの影響下から離れて欧州に近づこうする態度に対し、経済制裁やエネルギー供給の制限、そしてジョージア内の親ロシア派勢力の支援を通じて圧力を与え続けています。現政権与党が経済的な結びつきの強いロシアに近づいてEUに背を向け、強権的な政権運営を行うのではないかという危機感が今回の激しいデモに結びついているのです。

逆にロシア側から見ると、これまでロシアの勢力圏にあった国が、EUやNATO(北大西洋条約機構)に接近を図ろうとしていることを安全保障上の脅威と見ている可能性が非常に高く、その意味でロシア・ジョージアの関係は、現在戦争が行われているロシア・ウクライナの関係と構図が一致するものと言えるでしょう。

まもなく訪れる5月26日はジョージアの独立記念日であり、愛国心が高揚するタイミングであります。抗議デモが再び激しさを増すのか、現政権がそれに対してどのように対応するのか、ジョージアという国が、未来に向かってどの方向に進んでいくのかを決める分岐点に来ていると言えるでしょう。

(根来 諭)
May 22, 2024


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