2026年、ビジネスリーダーが注目するべき世界の紛争

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2026年の世界経済を展望すると、残念ながら「地政学リスク」という不確実な要素に大きく左右される一年になりそうです。

米外交問題評議会(CFR)が、後に挙げるレポートで「世界は否定できないほど暴力的で無秩序になった」と分析している通り、現在の武力紛争の数は第二次世界大戦後で最も多くなっています。本稿ではどのような紛争が起きており、どのようなリスクがあるのかをまとめますが、こうした状況下で2026年のビジネスリーダーが行うべきは、単に個々の紛争を追いかけることではありません。紛争の根底には、世界の秩序そのものが根本的に作り変えられる過程で生じる「激しい揺らぎ」が定着しつつあります。真に重要なのは、大国同士の覇権争いによって脆くなったグローバルな仕組みの中で、紛争がどのように連鎖し、経済全体のルールを書き換えてしまうのかを理解することです。企業は、この複雑に絡み合ったリスクを解き明かし、変化し続ける国際情勢を前提とした新しい経営戦略を立て直す必要があります。

2026年に警戒すべき主要な紛争トップ10

CFRのレポートで「ティア I」に分類された紛争(影響の大きい紛争)は、孤立した火種ではありません。これらは、世界秩序の地殻変動が最も顕著に表れた現象と言うことができます。経営者が特に注視すべき紛争リスクは以下の通りです。

◆国家間の緊張激化
❶ウクライナ戦争の激化
ロシアとウクライナが互いの重要インフラや人口密集地への攻撃を拡大させ、紛争がさらに激化するリスク。
❷台湾海峡危機
中国が台湾に対す❿る軍事的・経済的・政治的圧力を強め、日本や米国を含む他の地域諸国を巻き込む深刻な危機に発展する可能性。
❸ロシアとNATOの衝突
ロシアによる欧州諸国への挑発行為が増加し、NATO加盟国との武力衝突に発展する事態。
❹タイとカンボジアの紛争
国境付近の領土問題をめぐる軍事的緊張が再燃し、周辺諸国の製造拠点や物流網が寸断されることで、東南アジア一帯のサプライチェーンに深刻な停滞を招くリスク。

◆中東における紛争の連鎖
❺イスラエル・パレスチナ紛争
ガザ地区での戦闘が再燃し、人道危機を深刻化させたり、イスラエルの入植地建設をめぐってイスラエル治安部隊とパレスチナ人の間の対立が激化したりするリスク。
❻イランとイスラエルの武力紛争
大規模な抗議デモに揺れるイランですが、政権が続いた場合、核開発計画の再構築や反イスラエル代理勢力ネットワークの再建が、両国間のさらなる武力紛争を引き起こす可能性。

◆国家の安全保障を揺るがす新たな脅威
❼米国重要インフラへのサイバー攻撃
国家または非国家主体が、AIを活用した破壊的なサイバー攻撃を実行するリスク。
➑北朝鮮の核実験再開
北朝鮮が核実験を再開して半島の緊張を高め、地域大国や米国を巻き込む武力衝突を誘発する事態。
❾米国内の政治的暴力
政治的対立激化と国内治安部隊の展開により、米国内で政治的暴力や民衆の不安が増大する可能性。
❿ベネズエラへの米軍事作戦
2026年1月3日未明、米軍はベネズエラの首都カラカスに対して大規模な奇襲攻撃および特殊作戦を展開し、マドゥロ大統領夫妻を拘束しました。中露との対立激化や石油市場の動揺、国際秩序の変容に加え、ベネズエラ国内の政情不安定化が懸念されており、今後の展開が注視されます。

地政学リスクがビジネスに与える3つの影響

これらの紛争は、まず「サプライチェーンの寸断」を引き起こす可能性があります。台湾海峡や中東、あるいは欧州といった各地で燻る紛争は、単なる局地的な混乱にとどまらず、世界のサプライチェーンを根底から揺さぶる連鎖反応を引き起こしかねません。また例えば米国へのサイバー攻撃が報復的な経済制裁を招けば、対抗措置として重要鉱物の供給が遮断されるといった「資源の武器化」が現実味を帯びてきます。もはや、サプライチェーンの混乱は現場レベルの課題ではなく、効率性と強靭性のどちらを優先すべきかという、企業の長期的な収益性を左右する、経営トップの戦略的判断そのものとなっていると言えるでしょう。

同時に、国際社会を支えてきた共通のルールが崩れゆく中で、米国が関税や補助金を武器にした強硬な戦略を打ち出し、それに対して中国が報復を行うという「貿易戦争」が常態化しています。これによりビジネスの予測可能性は著しく低下し、政策の変更が市場に激震を走らせるような不安定な状況が続くでしょう。オランダの金融大手ラボバンクが「シートベルトを締めろ」と警告するように、企業はこれまでの常識が通用しない、突発的なルール変更や市場の急変動が次々と襲ってくる環境に備えなければなりません。

こうした保護主義的な貿易政策は、インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」の引き金となり、企業の仕入れや資金調達のコストを引き続き押し上げることになります。そこへイランとイスラエルの衝突といった地政学的なショックが加われば、エネルギー価格の高騰が促進剤となり、経済へのダメージはさらに加速してしまうでしょう。紛争リスクはもはや特別な出来事ではなく、日常的なコスト上昇の要因として組み込まれており、企業は常に高まるリスクプレミアムを計算に入れた経営を強いられることになるでしょう。

企業が取るべき指針は

このように激動する時代において、企業は起きたことに対してリアクションするような、後手に回った対応では生き残ることができません。新たな環境に適応するためには、まず経営の意思決定プロセスそのものを見直す必要があります。「経済指標だけを追いかける経営」は通用しなくなっており、財務分析と同等に地政学的な動向を読み解くインテリジェンスが経営の核心的な機能として求められています。

次に着手すべきは、特定の大国に過度に依存したサプライチェーンの抜本的な改革です。中国などの特定地域に重要資源を頼り続けることは、もはや経営上の致命的な弱点になりかねません。調達先の多角化や、地政学的に安定した地域への生産拠点の分散、そして重要部材の在庫の持ち方の再考といった「レジリエンス(強靭性)」の強化は、単なるコスト増ではなく、企業の未来を守るための不可欠な投資と捉えるべきです。また、米国の貿易政策が週単位で激変するような予測不能な事態に備え、あらかじめ複数のシナリオを用意し、状況の変化に合わせて即座に戦略を切り替えられる組織の機敏性を確保することも急務です。

さらに、自社がどの市場で商売をするかというポートフォリオの再評価も避けられません。現在、米国市場へのアクセスは単なる経済活動ではなく、政治的な忠誠や戦略的な足並みを条件とする「特権」のような性質を強めています。特定の国や市場に依存しすぎることは、自社が地政学的な駆け引きの材料にされるリスクを孕んでいます。これからの経営者は、表面的な経済指標の裏に潜む「構造的な変動」を深く理解しなければなりません。地政学リスクを単なる脅威として恐れるのではなく、自社の事業構造や組織体制を根本から鍛え直すチャンスと捉えることこそが、これからの不確実性の高い時代を勝ち抜くための鍵となるはずです。

(根来 諭)
January 14, 2026


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