注目を浴びるグリーンランド:温暖化が変える地政学的環境
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重要性を増す世界最大の島
1月20日、トランプ氏が第47代米国大統領が就任しました。氏が就任直前にグリーンランドの所有に意欲を示したことで注目が集まったグリーンランドはどのような場所なのでしょうか?
北極海と北大西洋の間に浮かぶ世界最大の島、グリーンランド。その面積は日本の約5.7倍に及びますが、人口はわずか57,000人。そのうち約20,000人が首都ヌークに居住しています。グリーンランドは独立した国ではなくデンマークの一部であり、しかし高度な自治を認められている地域です。歴史を振り返ると、1721年から1953年までははデンマークの植民地でしたが、1979年に自治権を獲得して自治政府が置かれ、さらに2009年には自治法改正によってさらに広範な政治的権限がデンマーク政府からグリーンランド政府に移譲されました。2023年には自治政府が独自の憲法草案を初めて作成し公表し、2025年1月3日にはムテ・エゲーデ自治政府首相がデンマークからの独立を目指す方針を表明するなど、さらなる自治権の獲得や独立に向けた動きが強まっている現状です。
各国が触手を伸ばす地政学的要衝
トランプ大統領が冒頭のような動きを見せているのは、そのグリーンランドが地政学的な要衝にあたるからに他なりません。ひとつには、豊富な地下資源の存在があります。グリーンランドはほとんどの土地が分厚い氷床に覆われていることから、これまでは資源の採掘が非常に困難でしたが、近年の地球温暖化の影響で氷が溶解を続けており、採掘の難易度が大きく下がることが予測されています。周辺には大規模な油田や、レアアースの鉱床があることが期待され、現在中国が資源開発計画を推し進めており、そうした経済的な期待も自治政府の独立機運を後押ししていると言えます。
また、普段我々が見ている日本を中心としたメルカトル図法の地図ではよくわかりませんが、上掲の北極点を中心とした地図を見るとグリーンランドの地理的な重要性がわかります。北米大陸の北に位置し、対面には広大なロシアが広がっています。こちらにも気候変動が関係しており、水面温度が上昇してこれまで海氷の存在によって開通期間が限られていた北極海航路(下図参照:アジアから欧州への輸送において、南回り航路より航行距離を約6割短縮できる)の活用が加速しています。
さらに、軍事的な重要性もあることから、ロシアと中国が影響力を強めていることに西側諸国が危機感を抱き、2022年8月26日には北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が、ウクライナ戦争以降の新たな地政学的変化の結果、北極においても中国とロシアが戦略的な連携を強化してNATOの価値観や利益に挑戦しているとして強い懸念を示しました。実際、ロシアが北極圏に軍事基地を新設したり、中国がアイスランドなどに研究所を構えたりしたうえで、2024年には中露の海上警備機関が合同で北太平洋にて監視活動をするなど、地域への進出を急速に強めている現実があります。
しかし、この地域が米国および西側諸国にとって安全保障上、そして資源の観点で重要な地域であるという認識が背景にあるとはいえ、トランプ大統領がグリーンランドの獲得に軍事力の行使にすら言及していることには驚かされます。強引に領土を奪い取るのであればロシアによるクリミア併合などと同じ「力による現状変更」であり、中露への対抗という大義があろうともとても正当化できるものではなく、他の西側諸国の賛同は得られないでしょう。
気候変動で変わる地政学的環境
2024年の地球表面気温は、温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」が産業革命以降の気温上昇の抑制目標とする1.5度を初めて超えた可能性が高まっています。グリーンランドを取り巻く状況については、こうした気温の上昇によって当該地域が国際社会において持つ価値や意味合いが変わり、それが新たな軋轢と地政学リスクを引き起こしていると言えます。
こうした気候変動を遠因とする紛争の種は、実は世界中に広がっています。水不足よる河川流域国の軋轢(メコン川やナイル川など)、気候変動によって移住を強いられた者と先住者の対立(ケニア、ホンジュラスなど)、食糧不足や格差の拡大による治安の悪化などに加えて、海面上昇による領土・領海・EEZの消失を契機にした領海争いの激化も予想されます。グリーンランドの情勢はそのうちのひとつに過ぎず、我々は今後、気候変動が微妙なパワーバランスの上になりたつ国際情勢に与える影響を注視していく必要があります。
(根来 諭)
January 29, 2025
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