地球を襲う「猛暑」という危機

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梅雨明けが進むと同時に、厳しい暑さが日本列島を襲っています。 昨日、7月18日にはほとんどの地域が太平洋高気圧に覆われて晴れ、35℃以上の猛暑日になる場所が多く、北海道中部の足寄町では今夏全国最高の37.5度を観測しました。30℃以上の真夏日になった地点は観測地点全体の7割を占めたとのことです。

また本日も正午時点で「危険:運動は原則禁止」とされる地点が多くあり、気象庁は熱中症対策を呼び掛けています。

(出典:環境省 熱中症予防情報サイトより)

世界を襲う熱波

一方、世界に目を転じると、異常な熱波のニュースが相次いでいます。カナダ西部のバンクーバーから北東に150kmほどに位置するリットンという町(北海道よりはるかに北)では、カナダ国内の最高気温記録を更新する49.5℃を記録し、熱中症による死者が相次ぎました。通常、夏でも気温は20℃ほどで過ごしやすく、冷房設備が整っていないことが多くの死者を出すに至った理由のひとつかと思われます。2003年に熱波に襲われ、高齢者を中心に約15,000人が命を落としたフランスでも、北部は冷房施設のない家屋や建物が多いということがありました。

また、熱中症だけではなく、猛暑により山火事のリスクも高まります。現に前述のカナダ・リットンでは大規模な山火事が発生し、町の面積の90%が焼けてしまったと報道されています。山火事が発生する直接的な原因は、落雷であったり、タバコの火の不始末や放火など人為的なものであることが多いですが、猛暑によって森や地面が乾燥することで被害が拡大してしまう事が考えられます。

猛暑による人間社会への悪影響は、熱中症による死者や山火事だけではありません。「生産性の低下」も見逃せない側面です。

国際労働機関(ILO)が2019年に発表した報告書「Working on a warmer planet」によると、猛暑により2030年までに主に低所得から中所得の国で総労働時間が2.2%(8000万人分のフルタイムの雇用に相当)減少し、経済損失は全世界で実に2兆4,000億ドルに及ぶとされています。最も影響を受けるセクターは農業セクターですが、建設業や運輸業、旅行業界なども大きな影響を受ける可能性があります。

下記は、世界中の気候変動に関する研究者により構成されたチームである「Climate Impact Lab」により作成されたものです。上図は、今世紀の終わりまでに、1981年から2010年の平均と比べてどれだけ気温が上昇するのかについて表しています。下図は、それによりもたらされる死亡リスクの、GDPに占める割合がどれだけ上昇するかを表しています。赤道に近く、特に貧しい南アジアやサハラ砂漠周辺の国々に最も大きなインパクトがありそうです。一方、ロシアや北欧、北米といったエリアは逆に気温が上がることでGDPにプラスのインパクトがあるようです。おそらく永久凍土や冬に極寒になる地域など、人間の活動できない地域が減少し、耕作地が増えることなどがその要因だと想像されますが、一方で北極の氷や氷河が消失することによるマイナスのインパクトはこれとは別にありそうです。

このように見ると、気温上昇と猛暑は人類にとって明確な「危機」と言えるのではないでしょうか?

(出典:Climate Impact Map : https://impactlab.org/map/)

猛暑への対策は

近年の自然災害の激甚化や異常気象の多発化を受け、国際社会では、地球温暖化対策としての温室効果ガスの低減をはじめとする様々なイニシアティブが活発化しています。しかしこうした施策で「気温の上昇を抑える」のには、効果が出るまでにまだまだ時間がかかります。それと同時に、目の前の対策としての「人や社会の温度上昇への適応」を進めていくしかありません。

ひとつの対策は「街を変える」ことです。人が生活する街のデザインを変化させることで、暑さに強い環境を作り出すことができます。そのためには、①路面や建物の舗装・塗装を変えたり、緑化を進めることで熱をためこまない街にする、②こまめな節電や、自動車利用を控えることで人工排熱を減らす、③風の通り抜けやすい建物の構造や配置をすることで熱が逃げる仕組みを作る、などの取り組みが、地方自治体がリードする形で各地で進められています。

アラブ首長国連邦は、夏になると連日気温が50℃に迫る酷暑の国ですが、首都のアブダビでは建築デザイン会社のcbtが「Abu Dhabi Climate Resilience Initiative」という、気候変動に対してレジリエントな街づくりのプロジェクトを進めています。

一方、「我々のライフスタイルを変容をさせる」ことも必要でしょう。より涼しい服装を社会として許容する(スーツ・ネクタイを着ないクールビズ化)、屋外での作業時間の調整、水分をこまめに取ることの推奨、熱中症につながりやすい睡眠不足などを防ぐ体調管理など、細かいことであってもできることは沢山あるのではないでしょうか。事実、ひと昔前には一般的だった、運動部で炎天下で活動し、なおかつ水分はなるべくとらないといった習慣は今では過去のものになっており、現在我々が持っている常識も疑ってみる必要があるでしょう。暑さは生産性を低下させ、時には命取りになる、という事実をしっかり受け止め、我々の意識の持ち方を変え、それに基づいてライフスタイルを変えていく事が大切ではないでしょうか。

(根来 諭)
July 19, 2021

参考情報

Working on a warmer planet: The effect of heat stress on productivity and decent work (ILO)
https://www.ilo.org/global/publications/books/WCMS_711919/lang–en/index.htm

Climate Impact Map (Climate Impact Lab)
https://impactlab.org/map/

Abu Dhabi Climate Resilience Initiative (cbt)
https://www.cbtarchitects.com/project/abu-dhabi-climate-resilience-initiative


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