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9月6日から7日に台風10号が日本付近を通過し、九州を中心に多くの被害をもたらしました。結果的に予想より勢力は弱まったものの(直前に同じようなコースを辿った台風9号によって海水がかき混ぜられ、海面水温が下がったことが要因と考えられます)、当初は沖縄以外で初めての「特別警報」が発令される可能性が言及され、気象庁と国土交通省は「100年に一度」の雨が降ると予想していました。近年は「xx年に一度の大雨」というフレーズを毎年のように聞いている感覚があります。これは、気候変動によって前提条件が大きく変わったことを意味するのでしょうか?そうであれば、これまでの延長上で考えていては十分な災害対応ができないことは明白です。

気候変動については、2020年8月28日付のコラムで、本当に地球は暑くなっているのか、そして気候変動によるリスクを抑えるためには、気温上昇をどれくらい抑えなくてはいけないのか、という視点からご紹介しました。 一方、世界的なコンサルティング会社であるMcKinsey & Company, Inc.のシンクタンク部門「McKinsey Global Institute」が同8月、“Climate risk and response in Asia (アジアにおける気候リスクと対応)”と題するレポートを発表。このレポートは、気候変動が実際にどのような変化を及ぼし、経済的にどれほどのダメージをもたらすかの研究結果を報告したものです。このレポートを通じて、気候変動が実際に我々の社会にどれほどのインパクトを与えるのかを見ていきたいと思います。


まず前提として、このレポートでは2100年における温室効果ガスが最大排出量で推移すると仮定したシナリオ(RCP 8.5)に基づいてシミュレーションが行われています。RCPシナリオとは、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第5次評価報告書(2014年発表)において提示したもので、RCP8.5は、「このまま温暖化対策を行わずに温室効果ガスを排出し続けた場合」のシナリオであり、地球の平均気温が3.7℃上昇すると予測されています。なぜRCP8.5という最悪のシナリオを前提としたかについては、inherent risk(固有のリスク)、つまり軽減策などを取らない場合の最大限のリスクを見ることで、気候変動がどれほどのインパクトを持つものか理解することが容易になるため、と説明されています。しかし、気候変動に対する国際的に協調のとれた対策が効果的に打てていると言えない現状では、ありえないシナリオとも言えません。


(出典:IPCC第5次評価報告書の概要(環境省 2014年)より引用しスペクティ作成)

気温上昇

まず、工業化以前からの平均気温の上昇を示したのが下図になります。左から、今日時点・2030年・2050年となります。オーストラリア西部を除くと主にアジアの北極圏に近いエリア、及びインドやパキスタンと言った西アジアの気温上昇が非常に大きいように見えます。日本においては北海道で約4℃の気温上昇が予測されています。

熱波

次は熱波について。致命的な熱波を経験する確率を示したのが下図になります。このレポートでは「致命的な熱波」を、「3日間にわたり、日陰で休んでいる健康的な人間の命に危険を与えるような高い平均最高気温が続く状態」と定義しています。RCP8.5シナリオでは、インド、バングラデシュ、パキスタンの都市が最初にそのような熱波を経験する可能性が高いとされています。

大雨

そして大雨について。この図は、1950年から1981年の期間において「50年に1度」発生するような大雨が降る確率がどれほど増えるか、を表しています。日本においては、関東から中部地方の太平洋側において確率が4倍以上になります。その他アジアを見ると、中国の内陸部やインドネシアにおいて広範囲に渡り確率が大きく上昇することが見て取れます。

台風

最後に台風です。この図は、1981年から2000年の期間において「100年に1度」発生するような猛烈な台風が発生する可能性が、2040年までにどれだけ増加するかを示しています。2040年までに日本列島の主に太平洋側、朝鮮半島や中国の沿岸部、台湾などで3倍以上に増加することが指摘されています。気候変動による気温上昇で、台風発生の頻度は増加しないものの、台風が大型化して被害が激甚化すると予測されています。


また本レポートでは、気候変動は、世界のその他の地域に対するよりも、アジアにより大きなインパクトをもたらすと指摘しています。RCP8.5のシナリオのもとでは、2050年までに「致命的な熱波」にさらされる人はアジアにおいて6億人から10億人と見積もられています。世界全体で7 億人から12億人とされているので、その大部分をアジアが占めるという事ができます。また、2050年までに熱波と高湿度によって、屋外での労働ができなくなることによる経済損失は、年間2.8兆USドルから4.7兆USドルと試算され、これは世界全体の損失の2/3を占めます。さらに、河川の氾濫によって2050年までに損なわれる資産は2.8兆USドルとされ、これは世界全体の75%を占めます。

アジアは、先進国から途上国まで幅広い国々を擁し、今後も世界経済の成長エンジンとして期待される地域です。日本としても人口減による内需の縮小が間違いない中で、今後急速に人口が増加し、発展を遂げるであろうアジア諸国の経済を取り込んでいくことが必要です。気候変動による社会へのインパクトは非常に大きいという課題意識を共有し、国際協調のもとでドラスティックな対策をとっていくことが必要なのではないでしょうか。その対策としては、温室効果ガスの排出を抑え込むことが第一ではありますが、経済成長とのトレードオフになる部分もあり、非常に難しい問題です。それと同時に、新しいテクノロジーを積極的に活用した新しい防災/危機管理の対策を講じていくこと、そしてそれをアジア全域に広げていくことが、災害大国である日本が果たし得る最大の国際貢献と言えるのではないでしょうか。


(SN)
September 10, 2020


参考情報

Climate risk and response in Asia (McKinsey Global Institute)
https://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Featured%20Insights/Asia%20Pacific/Climate%20risk%20and%20response%20in%20Asia%20Research%20preview/Climate-risk-and-response-in-Asia-Future-of-Asia-research-preview-vF.pdf

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