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日本ではあまり報道されていませんが、新型コロナウイルスの陰で別の危機が迫っています。

蝗害(こうがい)・・・バッタが大量発生することにより水稲や畑作作物などが食い荒らされ、食料不足や飢饉をもたらす災害。三国志の物語などに出てくるため聞いたことはあったものの、なんとなく「昔の出来事」という印象を抱く方も多いのではないでしょうか。平野が少ない日本での発生は稀ですが、実は世界的に見ると、大規模な蝗害が20世紀には6回発生し、21世紀に入ってからも2003年から2005年にかけてすでに発生しています。

2020年5月27日現在、FAO(国連食糧農業機関)の報告によると、アラビア半島南部で発生したバッタの大量発生が、アラビア半島ではイエメン、サウジアラビア、オマーン、アラブ首長国連邦、アフリカではケニア、ウガンダ、スーダン、南スーダン、エチオピア、ソマリア、チャドに広がり、東方向には南イランからパキスタン南西部そしてインド西部に至る範囲にまで及んでいます。すでに各地で農作物に被害が出ていますが、さらに6月にインド洋一帯が雨季に入ることによって、バッタの大繁殖の第2波が起こると警告されています。


蝗害
(出典:FAOの資料をもとにスペクティ作成)

想定される被害

バッタが食い荒らしてしまうことによって、農作物の生産高が大幅に減少してしまいます。

例えば、東アフリカのエチオピアでは既に20 万ヘクタール以上の農地が被害を受け、100万人以上が食糧不足に直面しています。さらにその食糧不足に起因して、政情不安や社会不安につながる国もあるでしょう。またもし、農業大国インドでも大きな被害が出るようであれば、世界の食糧サプライチェーンにも大きな影響を与える可能性もあります。

ただでさえ現在、世界は新型コロナウイルス流行の影響により、生産や物流の停滞、所得の低下が広がっており、脆弱な状態にあります。感染症と蝗害の「複合災害」によって世界規模の飢餓が引き起こされる恐れがあります。

なぜ起きるのか

もともとバッタの体は緑色をしており、これは「孤独相」と呼ばれる状態です。豪雨があるとバッタの繁殖に好条件の草原ができ、そこで繁殖を繰り返して密度が高くなることで、幼虫のバッタ同士の脚や触覚が触れ合うようになり、その刺激で体の色が黒くなり、「群生相」と呼ばれるバッタになります。「群生相」のバッタは翅が長く、後ろ足が短くなり、飛翔に適した体になります。つまり長距離の移動ができるように環境適応し、1日で100km以上を移動、約5日おきに50~100の卵を産み、それが群生相の状態で孵化し、さらに巨大な群れになっていきます。その場所で食べるものが不足した状態になると、体が長距離移動に適した形に変化する、遺伝子レベルで刻まれたメカニズムが働いているというわけです。

今回のバッタの大発生は、2018年5月と10月の2度のサイクロンによる大雨が、アラビア半島南部を襲ったときに始まりました。イエメンとオマーンの国境のエリアでバッタが大量発生、その翌年にはアラビア半島の別の国や東アフリカにまで広がっていき、東方向にはインド西部まで広がったことがわかっています。

対策

FAOには、蝗害対策専用チームが設置されており、すでに各国政府に対し、資金や殺虫剤、散布のための航空機の手配等で協力しています。FAOが2020年1月から4月にかけて取った対策のレポートによると、成果として72万トンの穀物(500万人分の年間食糧相当)を守ることができたとのこと、しかし同時に今後適切な対策が取られなければ食糧危機に陥るリスクは依然あると指摘しています。

バッタの異常な大量発生を防ぐには、バッタの群生相化の兆候をモニタリングし、早期に発見して幼虫の段階で農薬を散布するのが有効。実際、FAOは情報収集担当者のネットワークを形成し、トラックでの現地パトロールと、人工衛星によるGIS(地理情報システム)を使って、モニタリングを行っていました。しかし、今回運が悪かったのは、最初の群生相化がイエメンとオマーンの国境に位置する人里離れた砂漠で発生したことで、モニタリングの網から漏れてしまったことにあります。

地球温暖化によって海水温が上昇することで、台風・サイクロン・ハリケーンが大型化する可能性が指摘されています。より激しい豪雨はバッタの異常大量発生の好条件となるでしょう。そして複雑に絡み合ったグローバルな食糧サプライチェーンが寸断されれば、地球上の多くの人に影響を与える「危機」となりえます。スペクティでも研究開発を進め、あらゆる「危機」を早期覚知できるよう歩みを進めていきます。


(出典:スペクティがニュースメディアに配信した動画より、Credit : @4_pinkfish_2)

(SN)
May 29, 2020


参考情報

農作物を食べ尽くすバッタの大群が、最悪のタイミングでアフリカを襲う(WIRED)
https://wired.jp/2020/05/11/africas-huge-locust-swarms-are-growing-at-the-worst-time/

FAO makes gains in the fight against Desert Locusts in East Africa and Yemen but threat of a food security crisis remains
http://www.fao.org/news/story/en/item/1274257/icode/

Desert locust upsurge: Progress report on the response in the Greater Horn of Africa and Yemen | January – April 2020
http://www.fao.org/emergencies/resources/documents/resources-detail/en/c/1274464/

高水温で発達「強大」台風、温暖化で確率上昇も(産経新聞)
https://www.sankei.com/affairs/news/191014/afr1910140032-n1.html

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