米国で相次ぐ銃乱射、なぜ規制は進まないのか?
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米国で銃乱射事件が相次ぎ、日本でも毎日のように報道されています。中でも、5月24日にテキサス州ユバルディの小学校で起きた痛ましい事件では、児童19人を含む21名が殺害され、世界に大きな衝撃をもたらしました。
6月に入ってからも、3名以上が死亡したケースのみに限っても、これだけの銃撃事件が発生しています。
- 6月1日にオクラホマ州タルサの病院で銃撃事件があり、5名死亡。
- 6月2日にテキサス州センタービルで逃走した囚人による銃撃事件があり、5名死亡。
- 6月4日にフィラデルフィア州ペンシルバニアで複数による銃撃事件があり、3名死亡。
- 6月5日にミシガン州サギノーで銃撃が相次ぎ、3名死亡。
- 6月7日にバージニア州ポーツマスで朝に銃撃が相次ぎ4名死亡。
- 6月9日にメリーランド州スミスバーグの工場で銃撃事件があり、3名死亡。
これに対し、全米で銃規制を強めるように求めるデモが相次いでいます。また6月12日には、銃規制について協議する上院超党派グループが、21歳未満の銃購入者への身元確認厳格化を含む規制強化策で合意しました。しかし、野党・共和党の銃規制強化に対する反発は非常に強く、抜本的な改革は見送られたのが現状です。
では、ここに来て米国における銃乱射事件は急増しているのでしょうか?
下記グラフは、2020年1月から2022年5月までの米国における銃乱射事件(mass shooting)の月別の件数・負傷者数・死者数をまとめたものです。何をmass shootingととらえるかの定義はひとつではありませんが、ここでは米国における銃撃事件のデータをまとめている「Gun Violence Archive」を情報ソースとしています。
確かに2022年4月、5月はそれ以前の1月~3月よりは件数が増加しています。しかし、2020年や2021年に比べて増加している様子は見て取れません。一方、2020年・2021年ともに6月・7月にピークが来ていますので、今年も同様の傾向が見られるかは要注目です。
2021年の数字をまとめると、698件の銃乱射事件が発生し、709名が死亡、2,857名が負傷しました。1日あたり約2件の銃乱射事件が発生し、約2名が死亡、約8名が負傷している計算になります(「乱射」以外も含めると年間約4万人が銃で命を落としています)。警視庁のまとめた数字によれば、2021年の1年間に日本で銃撃事件によって死亡したのは1名、負傷者は4名だったことを考えると全くの別世界に思えます。
さらに下記グラフは、少し古い2018年の数字になりますが、世界銀行の高所得国 (High-Income countries)における、人口10万人あたり銃器により殺された人の数です。米国が飛びぬけていることがよくわかります。
なぜ銃規制が進まないのでしょうか?
個人の銃所有の権利を擁護し、「人を殺すのは人であって銃ではない」というスローガンを掲げるロビーイング団体、「全米ライフル協会 (NRA)」がよく槍玉に挙げられますが、根本的な理由はもっと深く、文化や国の成り立ちにあるようです。
米国は主に西欧からの移民を主体として建国され、世界でも早い段階で共和主義・民主主義を統治の基本原則に据えました。ヨーロッパの絶対王政期における”君主”のような、民衆を圧する存在を作らないということが重視されたことから、連邦政府が強い警察機能を持つことは忌避されました。
その結果、秩序の維持は州政府以下に任されたわけですが、国土の広い米国では、特に地方部において警察機構を整備するのは現実的に難しく、自警団が発達することになります。「保安官」という名称は日本では馴染みがありませんが、これは自警団が後に法制度に組み込まれることで生まれた職業になります。
こうして米国社会には「自分たちの身は自分たちで守る」と意識が根づきました。日本では警察官に対する信頼感が高く、国から守ってもらう「上からの治安維持」であるのに対して、米国では「下からの治安維持」を特色として社会が形成されたわけです。合衆国憲法修正第二条に記された建国の理念に「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を所有しまた携帯する権利は侵してはならない」という文言があることからもわかる通り、銃の所持は米国のアイデンティティの一部になっていると言えるでしょう。
痛ましい事件が起こるたびに、議論が繰り広げられながらも進まない米国での銃規制。日本人としては理解に苦しむ部分がありますが、このような社会的な背景が存在するのです。
(根来 諭)
Jun 15, 2022
参考情報
日本の銃器情勢(令和3年版)警視庁刑事局
https://www.npa.go.jp/bureau/sosikihanzai/yakubutujyuki/jyuki/jousei/juukizyousei.pdf
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