気象業務法改正へ・・・官民合わせた防災力の向上が主眼

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今年2月、「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。法律案は今後国会で審議され、可決されれば法律として成立することになります。本レポートではその内容について解説したいと思います。

この法改正の背景にあるのは、自然災害の多発化・激甚化です。「~年に一度の」の枕詞が一般的になるほど、これまでになかった自然現象によって毎年大きな被害が生じています。各地で頻発する水害や雪害、そしてトンガで発生した海底火山の大噴火によって津波が日本列島に到達するという「想定外」の事態が起きたことも思い起こされます。

こうした自然災害において被害を最小限に食い止めるには、①災害の発生を予測すること、②それを情報として適切に提供すること、が何より大切です。それでは改正案の具体的な内容について見ていきましょう。下記は5つの項目に整理したものです。

①都道府県指定洪水予報河川の洪水予報の高度化

現在、下図のように国と地方自治体が管理する河川の区域が定められ、管理区間における水位や流量を示す洪水予報などの情報を、国と地方自治体それぞれが提供しています。例えば一級水系の河川の場合、本流は国(国土交通省)が管理し、その支流では都道府県と市町村が管理する区域に分かれるなど、ひとつの河川の中で管理主体が混ざっている状況です。

(出典:国道交通省HP)

この中で、国が管理する区域では国による水位予測が行われていますが、技術の進展によって、下流域の水位予測を計算する過程で、都道府県の管理する区域の水位の予測も可能になりました。このため、都道府県管理区域の水位予測情報を国から都道府県に提供し、洪水予想を共同で発表することができるようになります。まず、都道府県が指定した全国に80ある「洪水予報河川」で予測情報の提供を行い、その後対象を850ある「水位周知河川」にも広げることで洪水予報を大きくレベルアップさせる計画です。

②火山現象に伴う津波の予報・警報の実施

気象庁が実施する業務の中に「火山現象に密接に関連する陸水及び海洋の諸現象」が追加されることとなりました。契機はトンガでの火山噴火の際に生じた混乱です。

2022年1月、南太平洋の島国トンガ付近の海底火山「フンガトンガ・フンガハアパイ火山」で極めて大規模な噴火が発生しました。当初、気象庁は「日本では多少の潮位の変化があるかもしれないものの被害の心配はない」との発表をしていましたが、夜半になって津波警報・津波注意報が発出されました。「被害の心配なし」としてから5時間後に警報が発されたことで混乱が生じましたが、その理由は何より、今回の津波が想定していなかったメカニズムで発生したからです。のちの研究で、日本に到達した津波は、噴火によって発生した大気波動「ラム波」と「ペケリス波」によって励起・増幅されたことがわかっていますが、火山噴火による津波を予測するには多くの研究が必要になるでしょう。今回の改正で、「想定外」だった事象を想定内に移すことでそのスタートを切ると言う事ができると思います。

③最新技術を踏まえた予報業務の許可基準の最適化

これまで、「気象・土砂崩れ・高潮・波浪・洪水」については、気象予報士を抱えていなければ民間企業が予測業務を行うことができませんでした。本改正によって気象を除く「土砂崩れ・高潮・波浪・洪水」については、気象庁長官の審査を受け、技術上の基準をクリアしていれば予測業務が可能になります。

④防災に関連する予報の適切な提供の確保

③は予測業務の門戸を広く開放するものになりますが、社会的な影響が大きい事象(噴火・火山ガス・土砂崩れ・津波・高潮・洪水)については、民間企業が気象庁のものと異なる予報を発信してしまうと社会に混乱が生じてしまうため、事前説明を行った相手にのみ予測情報の提供を行うことができるとするものです。

例えば、民間企業が河川沿いに建つ工場を顧客として洪水の予測サービスを提供することとした場合、気象庁による予報と前提・特性がどう違うかや発生しうる誤差などを事前に説明しておく必要があります。

⑤予報業務に用いることができる気象測器の拡充

予報業務に使う気象観測機器については、これまで検定済みのものを用いる必要がありましたが、検定済みの観測機器ではなくても、気象庁長官の確認を受けたものについては「補完的に」用いることを可能とするものです。例えば、簡易センサーを検定を受ける手間なく多数設置し、主たる観測機器を補完させて予測精度の向上を図るというケースが想定できます。



今回の改正案の目的を一言で言うと、「官民合わせた予測・予報の高度化」となります。自然災害の多発化・激甚化及びテクノロジーの進化を背景に、国の力だけではなく、民間企業の力を活用しない手はありません。スペクティも防災テックの担い手としてこの流れに乗り、日本トータルの防災力向上に貢献したいと思います。

(根来 諭)
March 22, 2023


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